第117話
村に戻って暫く後、俺は突如楓に呼び出された。其処にはシャルトーも居た。
「あの…指輪が光っています」
楓が端的に説明する。ファルナから貰った水竜の指輪の事だろう。
水属性魔法の威力を増す効果があるので楓に持たせていたが、確か危急の際の通信手段にもなっていた筈だ。
俺は指輪を受け取り、遠話石のように魔力を流し、呼び掛ける。
「ファルナか?何があった?」
『おお、繋がったか!久しぶりじゃのう』
「…緊急事態では無さそうだな」
『いやいや、ヤバイのじゃ。お主の力が必要じゃ。是非助けに来てくれ』
「理由は判らんが、そっちに向かえば良いのか?」
『ああ。其処で詳しい話をするぞ。待っておるでな』
それだけ話すと、向こうからの遠話は切れた。要領を得ないが、兎に角向かうしか無さそうだ。
「じゃあシャルトーさん、お願い出来ますか?」
「判りました。向かいましょう」
こうして俺達は、水竜の住処に向かった。
到着した俺達は、早速最奥に向かう。
最奥に到達するまでの間、周囲の竜達に焦っている様子は無い。ファルナだけの困り事なのだろうか。
最奥に着くと、以前よりは多少片付けられた風景が広がる。
ファルナは竜人体の姿で周囲をうろうろしていた。そして俺達に気付くと、笑顔で走り寄って来た。
「おお!良く来てくれたの!待っておったぞ!」
「お久しぶりです、水竜王様」
シャルトーが畏まった挨拶をする。
俺は早速話題を切り出す。
「で、わざわざ呼ぶ位の用件って何だ?」
「実はの、火竜王殿が今更代替わりの挨拶に訪れるそうなのじゃ」
「火竜王殿ですか…成程」
ファルナの言葉に、シャルトーは納得顔だ。
「ユート殿。水竜と火竜の一族は、遥か昔から険悪な関係です。水竜王様を鍛える際にも、居場所は存じておりましたが頼りませんでした」
「そうなのじゃ。なのに今回の挨拶の話じゃ。何かあるかと思うてな」
「…それで、俺が呼ばれた理由は?」
「場を乱してやろうと思うておる。お主が居れば、あ奴らの興味を引くであろう。何せ同じ一族なのじゃからな」
そうか、竜人体に成ると火属性が使える=火竜、というのは俺も考えていた事だ。恐らく竜玉の元の持ち主は同族なのだろう。
でもそれだと、非常に危険なのでは。
「それって俺が同族殺しだと疑われないか?」
「その時は正直に話すが良い。それでも疑うようなら、その器の小ささを笑ってやれば良かろう」
これは…ただ場を乱すだけで済むのだろうか。
そして当日を迎えた。俺達は洞窟の最奥で待っている。指示通り、俺は竜人体に成っている。
すると入口辺りが騒がしくなった。どうやらやって来たようだ。
先頭に1人、後方に2人見える。全員が赤い髪色をしていた。
そして3人が最奥まで来ると、先頭の1人が前に出た。
「水竜王よ。お互いの代替わりの記念として、火竜王様が直々に挨拶に来てやったぞ」
横柄な物言いのその男は、尖った髪型をした18歳位の見た目をしていた。
後ろの2人は、1人は短髪の屈強な男性…40代に見える。もう1人は長髪の女性で、20代だろうか。恐らく付き添いなのだろう。
「おお、わざわざ済まぬな。そちらも代替わりしたのは初耳じゃの」
ファルナは物言いに文句を言うでも無く、普通に返す。
「ああ。俺の代で火竜王は八大竜王の頂点に立つからな。先ずは最弱の水竜王に身の程を知らせておこうと思ったまでよ」
これは、わざわざ足を運んでまでマウントを取る事が目的か。良く言えば、随分と上昇志向の強い性格のようだ。
すると火竜王の視線が俺に向く。その眼つきが鋭くなった。
「それでよ、何でウチの同族がお前の所に居るんだ?人質のつもりか?なら戦争だぞ?」
「そう逸るな。あ奴は儂の親友じゃ、お主の所の一族では無い」
「何だ、はぐれか?俺より若いはぐれなんて聞いた覚えが無いぞ。…お前ら、どうなんだ?」
彼は後ろの者に尋ねる。だが2人とも顔を左右に振った。
「…怪しいな。お前は誰だ?」
「ユートよ、真実を見せてやれ」
ファルナにそう言われ、俺は竜人体を解く。3人が驚愕の表情を浮かべる。
「人間、だと…?どういう事だ!?まさか俺達の同族を『喰った』のか?」
「違うわ。女神の戯れじゃよ」
「お前は黙ってろ!こうなりゃ、力ずくで聞かせて貰うぜ」
彼はそう言い、拳を構える。…結局こうなるのか。
俺は再度竜人体に成り、火竜王と相対した。
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