第70話

 俺達はその後も、順調に階層を踏破して行った。だが、中々これと言った素材は見つけられずに居たのだった。

 そうして13階に到達した俺達は、休憩を取る事にした。

 出現する魔物は問題無く倒せているが、唯一九鬼さんだけは少々苦戦している。メイスの扱いが未熟な為だ。

 俺は属性魔法の習得を提案していたが、治癒魔法を使う者は魔力が変化し、属性魔法が使えない事をすっかり忘れていた。なのでメイスで実戦を積んで貰っているのだ。

 勿論誰かが怪我をすれば治癒を優先して貰うが、今の所苦戦する事も無く、怪我も負っていない。

 フィーリンさんとアンバーさんは、あまり戦闘に参加していない。どちらも魔法が得意だが、魔法は素材を駄目にする可能性が高いのだ。なので牽制や阻害の魔法が主になっている。

 なので、専らトールとリューイが活躍していた。訓練も兼ねているので、自ら進んで前に出る。以前と比べ成長した2人は、充分に戦力になっていた。

 俺は2人が厳しい場合に前に出る腹積もりだが、今の所その出番は無かった。恐らく15階以降だと厳しくなりそうだが。

 そして休憩を終え、再度出発する。

 幾つかの戦闘を経て14階に到着すると、正面に大きな気配を感知した。

 眼を凝らすと狼型の巨体が見える。それはかつて15階で見たダークウルフに似ているが、大きさが倍は違う。体長が8メートルはあるだろうか。

 フィーリンさんが呟く。

「…変異体のようですね」

「変異体?」

「はい。過剰に魔素を吸収した、特異個体です。通常よりも大きくて強力な、危険な敵です」

 どの程度強いのかは測れないが、その存在感は今までに見た魔物を圧倒している。

 だが正面に鎮座しているのだ。避ける方法は無いだろう。

「フィーリンさんとアンバーさんは攻撃魔法を。九鬼さんは後ろに下がって。トールとリューイは、魔法の後に俺と一緒に接敵だ」

 俺は指示を出し、カタナを構える。

「轟雷風旋陣(ヴォルテック・ストーム)!」

「業火爆砕陣(インフェルノ・バースト)」

 2人の魔法が放たれ、轟音と共に風雷と炎が敵を包む。

「…今だ!」

 俺は声を掛け、一気に距離を詰める。

 煙と砂埃から姿を現したそいつは、傷らしい傷を負っていなかった。上級魔法でほぼ無傷である事に、俺は危機感を覚える。

 だが既に接敵している。俺は覚悟を決め、相対する。

 すると突如背筋に悪寒を感じたので、一歩後ろへ引いた。直後、眼前を何かが通り過ぎる。…敵の前足が振り抜かれていた。

 トールとリューイが後方に勢い良く吹き飛ばされる。心配だが、目線を逸らす余裕が無い。

「九鬼さん、頼む!」

 俺は九鬼さんに声を掛け、治療を任せる。

 先程の攻撃を避けられたのは偶然だ。想像を遥かに上回る強さである事を実感した。

 出し惜しみしている場合では無い。早く竜人体を。

 そう考えていた瞬間、左肩に激痛が走る。目線を横に向けると、敵の巨大な横顔があった。

 敵は頭を思い切り振り、その勢いに俺は横に投げ飛ばされる。

 急いで起き上がろうとし、失敗する。痛みと共に感じる違和感。俺の左腕は、肩から無くなっていた。

「…ユート!?」

 アンバーさんの叫び声。何とか起き上がると、敵は既に俺を視界から外していた。その目線の先は、フィーリンさんとアンバーさんだった。

 一気に頭に血が上る。やらせるものか。

 魔力を込め、竜人体を発動。急いで間に割り込む。

「獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!!」

 炎の螺旋が敵を絡め取る。直後に起こる爆発。

 俺は間合いを詰めるが、其処にまた前足が振り抜かれる。

 …今度は眼で追える。俺は伏せて躱しつつ、カタナを上に振る。切っ先が前足を浅く切り裂く。

 最上級魔法はダメージを与えているようだ。だが止めにはなっていない。

 続いて口を大きく開き、噛み付いて来た。

 俺は横に避け、目を狙いカタナを突く。悲鳴と共に大きく仰け反る。

 その隙に手近の前足を狙い、カタナを横に一閃。足が太く両断は出来なかったが、まともには動かせないだろう。

 すると、もう一方の前足を上から叩き付けて来た。

 俺はカタナで受けるが、片手では力負けしていた。徐々に圧し潰されそうになる。

 ならば、露わになっている腹部にもう一撃だ。

「獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!!」

 俺も起こる爆風に後ろへ飛ばされるが、身体には影響が無い。

 腹に魔法を受け、敵は伏せの体勢になっている。俺は間合いを詰め、眉間にカタナを突き刺した。

 大きな遠吠えを放ったかと思うと、敵は完全に地に伏せた。

 俺は近付いて確認する。…何とか倒せたようだ。

 ふと自分の身体を見る。身体強化の自己治癒効果で、肩からの血は止まっていた。

 俺は壁際に飛ばされていた自分の左腕を拾い、皆の所へ戻る。

 トールとリューイは治療を受け、無事なようだ。

 俺は九鬼さんに腕を差し出し、問い掛けた。

「これ…何とかなります?」

 九鬼さんは表情が固まっていたが、渡された腕を俺の肩に当て、魔法を唱えた。

「最上位回復陣(ハイエスト・ヒール)」

 肩口に物凄い熱を感じる。魔法の光が収まると、腕は肩に繋がっていた。

 俺は恐る恐る手を動かしてみる。…問題無く動く。大丈夫なようだ。

 すると、アンバーさんが無言で抱き付いて来た。腕に力が籠る。

 どうやら心配させてしまったようだ。俺は動くようになった左手で、アンバーさんの頭を撫でた。

 すると脇から更に抱き付かれた。九鬼さんだ。え、何で?

 良く判らないが、同じように右手で頭を撫でた。


 他の皆の生暖かい視線を感じながら、俺は暫く2人の頭を撫で続けた。

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