第99話
暫くの旅路を終え、俺達は正教都に到着した。
フィーラウルさんが本殿に立ち入り、少し経つと人を1人連れて来た。それは見覚えのある姿だった。
馬車に乗り込んで来たその人は、開口一番俺に言って来た。
「おぉ、久しぶりじゃのう英雄殿。健勝そうで何よりじゃ」
その人は教主だった。俺は驚きを隠せなかった。
馬車が再び動き始めたが、正直俺は落ち着かなかった。
するとそんな気持ちを知ってか知らずか、教主が話し掛けて来た。
「儂が来たのが不思議そうじゃのう。光の塔の門はな、代々教主の持つ鍵でしか開けられぬのじゃ。納得したか?」
「ああ、そういう事でしたか。納得しました。…お久しぶりです、教主様」
「うむ。聖女様は元気かのう?妻にされたそうじゃが」
「ええ、元気にやってますよ」
「ならば良い。儂が言うのも複雑じゃろうが、大事にしてやるが良い」
…敵対していないと、印象が変わるな。過去の行ないは無かった事には出来ないが、少しは見方を変えても良いのかも知れない。
馬車は都を抜け、山道を登って行く。此処まで来ると光の塔の全貌が見えてきた。
見た目は只の石造りの塔だが、天に届く程高い。そして外壁が淡く輝いていた。
そして塔の周りに広がるのは、朽ちた廃墟。これが聖都なのか。
「久しぶりに来たが、相変わらず荒れておるのう。…少し語っても良いかのう?」
「え?ああ、どうぞ」
「あくまで伝承じゃがのう。はるか昔にある者が光の塔に挑み、頂上に到達したのじゃ。そしてその者の願いにより女神様がこの地に降臨し、都を廃墟に変えたのじゃ。以来この地は聖都と称し、不要な人の立ち入りを禁じておる」
「…何故廃墟に?」
「それは判らぬ。その者がこの国に恨みを持っていたとか、見返りの生贄だとか言われておるがのう」
廃墟を見渡しながら、教主がそう呟く。
するとフィーラウルさんが言葉を発した。
「…何かが起きた、特殊な場所なのは確かなようだな。周囲に濃密な魔素が満ちておるが、魔物が存在せぬ。これは異常だ」
そして塔の目の前に到着した。間近で見ると非常に大きい。直径100メートルはあるだろうか。
教主は門の前に立ち、懐から四角いカードのような物を取り出す。それを掲げると、地響きと共に門が開いた。
「…さて。儂の役目は此処までじゃ。門は内側からなら魔力を流せば開くからの。終えたら報告に儂の所へ寄るが良い」
そう言い、教主は馬車に乗って去って行った。
それを見送った後、フィーラウルさんが言う。
「それでは塔に入るとしよう。準備は良いな?」
皆が頷き、門を潜った。
塔の中はだだっ広い空間となっており、内壁に沿って階段がある。次の階層のある天井までは20メートル程だろうか。そして中央に大きな柱があり、これが上層の床を支えているようだ。
そして外側と同様に、内側の壁も淡く光っていた。
階段に向けて歩き始めると、柱の陰になって最初は見えなかったが、魔物が居るようだ。
以前にも見た事のある褐色の狼、ダークウルフだ。それが3匹。
「此処はお任せを」
シンシアさんがそう言い、前衛3人で魔物に飛び掛かる。
そして相手に攻撃の機会を与える事無く、全員が一撃で葬った。流石にこの程度の相手なら余裕なようだ。
「終わりました。では進みましょう」
そう言うシンシアさんに従い、階段を登る。
登った先は同じ見た目の空間だった。これが天まで続くのだ、一体何階層まであるのだろうか。
9層を突破し、俺達は10層に到達した。
此処までの間、規則的に違う種類の魔物が3体ずつ出現し、その全てをシンシアさん含む前衛3人で撃退して来た。
同様に階段に向け進んで行くと、ストーンゴーレムが1体佇んでいた。10層毎に中ボスでも登場する仕組みなのだろうか。
素早く前衛の2人が突進し足を破壊、倒れた所をシンシアさんが素早い突きで両目を刺した。
流石はS級冒険者パーティだ。素早い判断力に手慣れた連携。任せきりで申し訳無い気がしてきた。
その表情を読み取ったのか、シンシアさんが話し掛けて来た。
「心配せずとも、お二人に頼る事になります。それまでの露払いは私達にお任せ下さい」
そう言ってくれたので、甘えさせて貰おう。余計な手出しは邪魔になるだろうし。
そして案の定、11層からは魔物が3体出現し、20層では大型の魔物が1体だった。
更には魔物は徐々に強くなって行く。それでも今の所、問題無く前衛3人のみで対処出来ていた。
しかし代わり映えのしない景色は気を滅入らせる。階段にある窓から外を見る事は出来るが、どんどん地面が遠くなって行くだけだ。まるで霧の中を登山しているようだ。
だが銀嶺の咢の皆に疲労の色は見えない。ダンジョンも見栄えの変わらない中を進み続けるから、慣れているのだろうか。
そうして間に休憩を挟みつつ登り続け、いよいよ50層に到達した。
同様に階段へと進むと、其処にはレッサーデーモンを大きくしたような魔物が立っていた。
フィーラウルさんが呟く。
「レッサーギガントデーモンか。未だ任せたままで大丈夫か?」
「ご安心下さい。問題ありません」
そう言い、銀嶺の咢の6人は魔物に向かって行った。
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