第100話

「「風旋縛(ウィンド・バインド)!」」

 魔術士2人から同時に魔法が放たれ、魔物の動きを阻害する。

 そして前衛2人は両側に回り込み、シンシアさんが正面に立つ。やはり回避盾として攻撃を引き受けるようだ。

「魔物よ!私が相手だ!」

 魔物を挑発し、更に注目をさせる。

 そして繰り出される爪による二連撃を躱し、突きを繰り出す。

 その間に両側の前衛は敵を削り続け、魔術士も阻害魔法を維持しつつ、隙を見て魔法を繰り出す。

 だがやはりこのパーティの要は彼女だ。攻撃を躱し続け、素早い剣戟で反撃を行なう。パーティ名の通り「銀嶺」を体現していた。

 徐々に魔物の動きが鈍くなり、前衛の攻撃により膝を付く。その隙を見逃さず、シンシアさんが脳天を鋭く突いた。

 絶叫と共に絶命し、地に伏す魔物。何の不安も感じない攻防だった。

「お疲れ様です。お見事でした」

 俺は素直に感想を述べる。

「いえ、S級を名乗る以上、あの程度は当然です」

 シンシアさんの返答は、あっさりとした物だった。

 俺は元の姿で、同じような戦いが出来るだろうか。そう考えてしまう。これがS級上位との差なのだろうか。

 其処へフィーラウルさんが声を掛ける。

「そろそろ良い時間だ、此処で野営を行なうとしよう」

 丁度キリの良い階層という事もあり、皆がそれに従う。

 そして魔物の再出現を考慮し、見張りを行なう事にした。あくまで念のためという事で、最初は俺、次にフィーラウルさん、最後に治癒術士のリリアさんという順番になった。

 俺は内壁の光に照らされる空間を眺めながら、時間が経つのを待っていた。

 一応は見張りなので、中央の柱を中心に部屋をぐるっと周ったりしていた。

 それでも暇なのは変わらないので、内壁を触ったりしてみる。表面に発行体が付着しているのでは無く、使われている石そのものが光っているようだ。

 同じように中央の柱も触ってみる。直径5メートル程の柱は内壁と同じ素材のようだが、より細かい石が敷き詰められていた。

 すると突如柱の光量が増し、部屋を明るく照らす。俺は思わず飛び退くが、光は収まらない。

 そして光が急速に収束すると、其処には扉が現れていた。

 皆が寝ている時に迂闊な事をするのは危険だと判断し、俺は一先ず扉を放置する事にした。

 そして見張りの引き継ぎの為に起きたフィーラウルさんに事情を話す。

「ふむ、明日の朝にでも確認しよう。私も手は出さぬから、気にせず寝るが良い」

 俺はその言葉に甘え、眠りに付いた。


 翌朝。朝食を食べ終えた俺達は扉の前に集まった。

「ふむ、1つ実験してみるか。次の階層へ行くぞ」

 そう言うフィーラウルさんの提案に従い51層へ向かい、昨日までと同様に現れた3体の魔物を倒す。

「良し。ではユートを除く皆で柱を触ってみよ」

 皆が順番に柱を触ってみる。だが柱の光は変わらなかった。

「予想通りか。ではユートよ、柱を触ってみてくれ」

 言われるがままに俺が柱を触ると、昨夜と同じく光量が増した。そして光が収まった後には、50層と同様に扉が出現していた。

「やはりな。神霊に至った者にのみ反応する扉か。塔の攻略の助けとなるかも知れぬ、開けてみよ」

 そう言われ俺は扉に手を掛ける。すると自動ドアのように扉は横にスライドした。そして中には小さな円形の部屋があった。

「…何に見える?」

「私の元の世界のエレベーター…昇降装置に見えますね。もしそうなら中にボタンが…ああ、ありました」

 俺は内側、扉の横に2つのボタンを見付ける。恐らく上昇と下降だろう。

「成程。安全確認の為、まずは下に向かってみるか。恐らく階層の指定は出来ぬのだろう、皆乗り込め」

 全員が中に入り、フィーラウルさんが下側のボタンを押す。すると扉が閉まり、下降を始める。

 扉の上には階層が表示されている。その数字が凄い速度でどんどん小さくなって行く。

 そして数字が1を指した時、軽い振動と共に下降が止まり、扉が開いた。

 扉の外を見ると、大きな両開きの扉が見える。1層で間違い無さそうだ。

「何処からでも最下層と最上層に行ける機構か。恐らくだが、正攻法での最上層到達は困難なのだろうな」

「そうですね。…で、どうします?」

 俺がそう尋ねると、フィーラウルさんは迷わず言った。

「一方通行で無いのなら、最上層に向かうべきだろう。魔物がどれだけ強力になっているかは判らぬが、見ずに戻る選択肢は無いな」

「そうですか。シンシアさん達はどうですか?」

「私達も同意見です。撤退も視野に入れながら、まずは最上層を見るべきかと思います」

 その言葉にパーティの仲間達も頷く。ならば否定する理由も無い。

「では、このまま最上層に向かいましょう。念のため、到着したら私が先頭で降ります」

「うむ、任せたぞ。お前なら簡単に致命傷は負わぬだろう」

 俺は上側のボタンを押す。すると同様に扉が閉まり、今度は上昇し始めた。

 扉の上の数字がどんどん増えて行く。先ほど到達した51層をあっさり超え、大台の100層も超えた。

 だが違和感を感じた。これだけ上昇すれば気圧の変化を感じる筈だが、そういった感覚は無い。外部とは隔離されているのだろうか。


 そんな事を考えていると、数字は999層を指して停止した。

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