第98話

 先日、褒章として大量の金貨が国から送られて来た。流石にまた昇爵という事は無かったようで安心した。

 俺は早速シアンと相談し、部下に金貨を配る事にした。小隊長と一般兵とでは差を付け、シアンは小隊長と同じとした。

 だがこの村では金貨を然程使う機会も無いので、3交替でデルムの街への遠征を提案した。各小隊長が順番に部下を率い、デルムの街へ行き2泊程して戻って来る計画だ。

 早速指示を出し、トールの部隊がシアンを連れて出発した。その後はリューイの部隊、萌美の部隊となる。

 なおアンバーさんにも金貨を渡そうとしたが、拒否されてしまった。曰く「使い道が無い」との事。まあ本人が要らないのなら良いが。

 そんな風に日常に戻って数日後、冒険者ギルドから俺宛てに手紙が届いた。

 送り主はフィーラウルさんで、数日後にこちらに伺うとの内容だった。

 そして手紙の日付通りの日に、フィーラウルさんが何人か人を連れて村に訪れた。

 良く見ると、同行者はS級冒険者パーティ「銀嶺の咢」の人達だった。

 早速とばかりにフィーラウルさんが挨拶をして来る。

「先日の戦はご苦労だったな。勝利という結果は、お主の活躍による処が大きいだろう。…少し話がしたい。場所はあるか?」

「では、こちらへ。応接室に案内します」

 俺が先導し皆を案内する。

 椅子にはフィーラウルさんとシンシアさんが座り、こちらは俺とアルト、アンバーさんが座った。

 …何故2人が居るのかと言うと、「妻だから」だそうだ。

 特に気にせず、フィーラウルさんが話し始める。

「さて。お主は正教国の聖都にある、光の塔については知っているか?」

「…存在程度なら。後は神霊に至った者だけが踏破出来る、でしたっけ?」

「そうだ。実は戦の直前に正教国から許可が出てな。光の塔に挑む事となった」

 光の塔が正教国の許可制だと言う事に驚いた。まあ聖都と言う位だから、外部の人は基本的に入れないのだろう。

「でも、何故この時期なのですか?」

「実は正教国から許可が出るのは稀でな。この機会に全容を把握したいのだ」

「成程。…で、何故私にその話を?」

「それは当然、お主に同行して貰いたいからだ。折角だから、可能ならば踏破したい。それには神霊に至った者が必要だからな」

 ふと殺気を感じ横を見ると、アルトとアンバーさんが鬼の形相をしていた。

「…また新婚生活を邪魔されるのかしら?」

「…浮気者」

 邪魔されるのは確かだが、浮気では無い。

 俺は気になる事を尋ねてみた。

「あの、私は神霊に至っているんですか?そんな実感は無いんですが」

「うむ。試しに竜人体に成ってみよ」

 そう言われ、俺は竜人体になる。もう服ごと変わるのも慣れたものだ。

「おお…!本当に同一人物なのですね。驚きました」

 シンシアさんが驚いた表情で呟く。

 すると、フィーラウルさんが俺の額に手を当てた。じわりと魔力を感じる。

「…やはりな。その姿なら確かにレベル5千を超えている」

 そうか、特に超えても何か変化がある訳では無いのか。

「そういう訳でだ。是非同行をお願いしたい。どうだ?」

 妻達の視線は気になるが、正直光の塔については興味がある。

「それでしたら、是非同行させて下さい。宜しくお願いします」

 俺はそう返事をし、フィーラウルさん、そしてシンシアさんと握手をする。

「では本日はこの村に宿泊させて貰い、明日出発としよう。それでは失礼した」

 そう言いフィーラウルさん達が立ち去る。

 さて。残された俺は頭をフル回転させる。どうやって宥めたものか。

 などと考えていると、アルトが俺の耳に唇を寄せた。

「今夜は全員を相手して貰うわよ。…覚悟しなさい」

 そう言い、アンバーさんと同時に両頬に口付けをされた。


 翌朝。俺は村の入口で待つフィーラウルさん達と合流した。

「…む?何やら眠そうだが、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です」

 本当は大丈夫では無いが、表面を取り繕っておいた。

「そうか。聖都は正教都の更に奥にあるからな、長旅となる。体調には気を付けよ」

 そう言い、馬車に乗り込む。俺も後に続く。

 1台目は俺とフィーラウルさん、それにシンシアさんの3名。2台目は「銀嶺の咢」の残りのメンバー全員が乗っている。

 馬車が出発し、まずは正教国との国境を目指す。前回は親善大使として通過したのを思い出す。今回は戦争の心配も無いだろう。

 遠くに天へと続く光の筋が見える。魔王城を出た直後に、アンバーさんと一緒に初めて見た光の塔。まさか俺が挑む事になるとは。


 その道のりを眺めながら、俺は感慨深さを感じていた。

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