第89話
村に到着した俺は、挨拶もそこそこにニーアさんの指示で皆を集める。
そして応接室には、主要な人が集まる事となった。
皆を見渡すと、ニーアさんは口を開いた。
「それでは、経緯と用件につきまして説明させて頂きます。…貴方達の主人であるユート様も参加した依頼に於いて、隣国グランダルの国内での暗躍が判明しました。これは戦争を睨んだ工作であると、王国は判断しました」
そう一息に言うと、紅茶を啜ってから続けた。
「1ヶ月以内にグランダルが戦争行動を起こすと想定、現在貴族と冒険者に事前招集を掛けている最中です」
流石に行動が早いな。俺は感心していた。
「私が此処に直接来たのは婚約祝いもありますが、ユート様に確実に参陣下さるよう念押しする為です」
ニーアさんが俺に向けて言う。
「いやいや、其処までされなくても参陣しますよ?」
「兎に角心配なのでしょう。今回の件でギルド統括もユート様を認められましたからね、名実共に王国の最大戦力ですから」
「そんな大げさな」
「…まあ良いでしょう。言質は取らせて頂きました。国王様にはそう伝えさせて頂きます」
取り敢えずは納得してくれたようだ。俺は皆に向けて言う。
「そういう訳だから、直ぐに出陣出来るよう準備を整えておいてくれ。頼むぞ」
さて、これで用件は済んだのかと思いきや。
「じゃあ本題に入るわ。アルト、婚約おめでとう!結婚披露パーティを急ぎ行ないましょう。今は明るい話題が必要だわ」
「あら、本当にそっちが本題なのね。冗談かと思ったわ」
アルトはさらっと返す。と言うか戦争直前に結婚なんて、明らかな死亡フラグなんだが。
「まあ確かに、そろそろやろうとは思っていたから丁度良いわね。日程の希望はあるの?」
「今日から数えて15日後が良いですね。それで良ければ、招待状は私が預かりますよ」
「じゃあ頼むわ。エスト、お願い」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
俺とアンバーさんも当事者の筈なのだが、関係無しにどんどん話が進んで行く。まあ信頼して任せているとも言えるが。
「じゃあ移動も考えると日数は無いけど、こっちで準備しておくから安心して。何か要望があれば、今日のうちに教えてね」
「判ったわ。別に奇抜な演出なんて考えてないから、特に無いとは思うけどね」
「では、後は個人的な話になるので皆は解散して良いですよ。ご参集頂き、有難う御座いました」
ニーアさんがそう言い、皆が部屋を出て行く。残ったのは俺とアルト、アンバーさんに丁度戻って来たエストさんだ。
「こちらが招待状になります」
「はい、確かに預かったわ。任せて頂戴」
ニーアさんは招待状を受け取ると、笑みを浮かべた。
「さて、これでやる事は終わったわ。さあ、再開を喜んでイチャイチャして良いわよ」
「そう言われて誰がやりますか。…アンバーさん、座って下さい」
「えー」
渋々座り直すアンバーさん。やる気だったのか。
「それは後でで良いわ。私も見せびらかす気は無いもの」
そう言うとアルトは、俺に向かって言う。
「それよりも、ユートには急ぎ決断して貰う事があるわ」
その表情は真剣だ。何か重要な案件があっただろうか。
「モエミの事よ。第3婦人に迎えなさい」
…え?一体何の話だ?いきなりで脳が働かない。
「あら、既に3人目がいらっしゃるの?…確か元聖女様だったかしら」
「そうなの。どうせなら一緒に披露したいのよね」
俺は何とか言葉を絞り出す。
「あー、俺は初耳なんだが…」
「そりゃそうよ、初めて言ったもの。ユートが不在の間にモエミが決断したの。私達は応援する事にしたわ」
「…そんな簡単に結論を出して良いのか?」
「簡単にじゃないわよ、真剣に考えなさい。その上で、今答えを出しなさい」
するとアンバーさんが声を挙げた。
「モエミは、いじらしくて良い子。私達とも上手くやれる。安心して」
悩んでいるのは妻同士の関係じゃなくて、俺自身の気持ちなのだが。
「もし結婚が嫌なら、そう言いなさい。でも判断が難しいなら、まずは結婚する事にしなさい。最悪、第3婦人なら離婚の影響も少ないわ」
「…そんなんで良いのか?」
「モエミは貴方を好きなんだから、結婚してから気持ちを確かめれば良いじゃない。私は上手く行くと思っているわ」
「…私も」
「…そうか。なら、そうしよう。萌美とも結婚、だな」
妻2人がそう言うのだ、従ってみよう。
「とても御目出度いですが、招待状の文言は大丈夫ですの?」
「それは大丈夫よ。モエミの名前も既に入れてあるから」
俺が受け入れると信じていたのか、それとも説得させる自信があったのか。
まあ後は直接、萌美と話をするだけだな。
俺は早速、萌美の所に向かった。
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