第129話
白竜王のその答えに、俺は地竜王の言葉を思い出していた。
子供…目的の達成のみを是とし融通が利かず、善悪の認識が無い。こういう所だろうか。
ならば、同様に目的を変えなければ良いだけだ。
「黒竜王様の特訓で目的は成せます。なので幻竜王を止めて頂けませんか?」
「…結果が見えなければ判断出来ません。目的を達した事が確認出来たら、幻竜王に話をしましょう」
「…そうですか」
それはつまり、特訓をしている彼等自身で一度は幻竜王を撃退する必要があるという事だ。
地力で行けばフレミアスと風竜王は大丈夫だろう。問題はファルナだ。以前の特訓で多少はマシになったが、それでも普通の竜族よりも劣るのだ。相当な期間を見込まなければ期待出来ない。
唯一の救いは、バランタインさんの所に居る限りは幻竜王も手を出せないという事だ。だがそれが逆に、別の手段を取る可能性も秘めている。直接先代に『竜玉継ぎ』を迫るかも知れない。
ではどうするか。幻竜王が余計な事をしないように手を打つしか無い。
ならば出来るのは先代へ通達を行ない、更に幻竜王を俺が抑える事位か。
俺がそう考えていると、白竜王から話し掛けて来た。
「今のこの状況を不満に感じているのかも知れませんが、その一端は貴方にある事を自覚して下さい」
「…それはどういう意味ですか?」
「貴方自身が光の塔の頂上に到達し、更には別の者を導きました。結果として人族の力が増し、一部の竜王が抑止力として力不足となったのです」
確かに特訓前のあの3人なら俺は勝てる。力を得た教主も同様だろう。流石に予測出来る事態では無いが、白竜王の言う事も尤もだ。
「では、私自身の責任に於いて目的を必ず達します。確認出来ましたら幻竜王を止めて下さい」
「判りました。お約束しましょう」
此処が妥協点か。粘っても良い方向には転ばないだろう。
「ではこれで失礼します。有難う御座いました」
「いえ。貴方にも女神様の祝福がありますように」
俺はその言葉を聞き、背を向け歩き始める。2人もそれに従う。
螺旋階段を降り切った所で、萌美が話し掛けて来た。
「…あれで良かったのですか?」
「あれ以上は何を言っても、他の解決策が提示できなけりゃ無駄だろうな」
「会話は出来るが子供、ですか。地竜王さんの言っていた通りでしたね」
「そうだな。お陰で面食らう事も無かったとも言えるな」
すると楓が口を挟んだ。
「それで、決裂とまでは言いませんでしたが、どうします?」
「地竜王の所に寄るかどうか、か。できれば頼みたい事もあるから、寄る事にしよう」
俺はそう答えつつ、まずは此処で野営をする事を提案した。今のまま下山しても、直ぐに日が暮れるだろう。
2人も納得したので、勝手ながら塔の1階で野営を行なう。…焚火が煙いとか言わないだろうな。
そして翌日。ソリに行きとは逆にロープを繋ぐ。引っ張るのでは無く、滑って行かないよう引き留める必要がある。
荷物は行きと比べて大分減っているので、2人にはソリに乗って貰う。これで疲労は大分抑えられる筈だ。
そうして帰りは一度の野営のみで、夜には麓の村まで戻る事が出来た。
村の宿屋では2泊し、疲れをしっかり取る事にした。
そして村を出発し、地竜王に会う為に迂回路の宿場を目指した。
「此処に寄ったという事は、交渉は失敗に終わったか?」
そう問う地竜王に対し、俺は答えた。
「一応言質は取れましたが、現状維持ですね。…それで相談なんですが、匿っている3竜王の先代に連絡を取る事は出来ますか?」
「可能だが、何故だ?」
「所在が掴めないとなれば、幻竜王が先代に接触する可能性があります。口車に乗らないよう、釘を刺しておく必要があります」
「成程な。既に殺したとの嘘を信じる者も居るかも知れぬ、か」
「はい。お願い出来ますか?」
「約束であったからな、此度は協力してやろう。安心せよ」
「そうですか、有難う御座います」
これで一安心だ。自分の足でそれぞれの住処を廻るのは一苦労だし、時間が掛かるからな。
俺達は地竜王に別れを告げ、山を降りた。
そうして暫くして村に戻ったが、2人を置いて俺は直ぐに出発した。目的地は魔王城だ。
バランタインさんの所に行き、特訓の状況を確認しなくてはならない。特に1人、非常に不安の残る存在が居るからな。
俺がアイリさんとの挨拶もそこそこにバランタインさんの部屋に入ると、3人が特訓をしている最中だった。
フレミアスと風竜王の2人は神霊を相手取り、ファルナは精霊を相手にしている。
俺に気付いたバランタインさんが話し掛けて来る。
「ユートよ、久しいな。どうであった?」
白竜王に会いに行く行程は、それなりの時間が掛かった。ならばこの空間では相当の日数が経過しているのだろう。
「白竜王が納得する程度に3人が成長すれば、幻竜王を止めてくれるそうです。それで、どうですか?」
「ふむ、2人は既に問題無いであろう。ユートとも良い勝負をする筈だ」
「…ファルナは?」
「本人の気質にもよるのだろうが、特訓を嫌がるのでな。多少はマシになったが、全く足りぬであろうな」
「やっぱりですか…」
俺がそう答えると、ファルナが噛み付いて来た。
「聞こえておったぞ!この最強たる儂に何たる言い草じゃ!勝負せい!」
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