第130話

「おぶあっ!?」

 ファルナが壁に向かって豪快に吹っ飛ぶ。そして壁に激突し床に落ち、ぴくりとも動かなくなった。

「いやいや、冗談だろ?」

 すると突然起き上がり、俺を睨み付けて来た。

「死ぬかと思うたぞ!少しは加減せんか!」

「いや加減したから元気なんだろ。つーか、あれくらい避けろよ」

「手加減するなら先手を譲らんか!これだから若造は」

「…そんな見た目のお前に、若造なんて言われたくねえよ」

 さて、これは本格的に駄目なようだ。少しは期待していた俺が馬鹿だった。

 白竜王なら2人の成長で納得して貰えそうだが、幻竜王が納得しなさそうだ。

 2人には住処に戻って貰って、白竜王と幻竜王が接触するのを期待するか?

「…どう思います?」

 俺はバランタインさんに尋ねた。

「本質が戦いに向いておらぬな。このままレベルを上げても、技量で負けるであろう」

「そうですか。…ファルナの事は諦めるか」

「ちょっと待て!聞き捨てならぬぞ!儂を見捨てるでない!」

「…2人はどう思う?」

「幻竜王の奴に諦めて貰うしか無えんじゃね?」

「…誰か代役でも立てますか?」

「…ファルナ、一族の中で誰か強かったりしないか?」

「お主の所に暫く居たシャルトーが上位じゃぞ」

 成程、じゃあ駄目だな。戦えば幻竜王が勝つ。

 そうするとフレミアスの言うように、幻竜王には納得して貰うしか無いのか。

 それなら、ついでに2人の強さを確認して貰うのも手か。向こうから襲撃されるよりは対応し易いだろう。

「バランタインさん、此処に幻竜王を呼んでも良いですか?」

「…ふむ。状況からすれば止む無しか。構わんぞ」

 良し。これで一応の方針は決まった。

「なら俺は、これから幻竜王を探して連れて来る。それまで特訓は続けていてくれ」

 俺はそう伝え、外に出た。

 さて、千里眼で幻竜王を探してみると、そこそこ離れた所に居るのが判った。

 どの辺りかと頭の中で考えていると、その距離がどんどん短くなって行く。こっちに近付いて来ているのか?

 そして暫く待つと、上空に灰色の竜が現れた。…俺を探していたのか?

 その竜は地面に降り立つと、竜人体に成った。見覚えのある姿。幻竜王で間違い無いようだ。

「こんな所に居たか、竜族の脅威よ」

「その言い方…白竜王に何か聞いたか?」

「様を付けろ無礼者が。…お前と正教国の教主、その2人が発端だそうだな」

「…それで?脅威を取り除くやり方に変えたのか?」

「いや、それは以前の戦いで困難だと判断した。やり方は変えぬ。奴らの居場所を教えろ」

「教えても良いが、条件がある。3人の成長を認めてくれ。そしてその上で、白竜王…様に話を聞いてみてくれ」

 彼は顎に手を当て、少し思案する。

「…戦っても良いが、殺すなと?」

「ああ。竜王の力が増していれば問題は解決する筈だ」

「…判った。取り敢えず従おう」

「良し、こっちだ」

 俺は彼を案内し、バランタインさんの所に向かった。


 バランタインさんの部屋で相対する3人と1人。

 沈黙を破ったのは幻竜王だった。

「黒竜王様、こ奴らの実力を測らせて貰います」

「うむ。良かろう」

 そして彼は短剣を両手に構える。最初に戦うのはフレミアスのようだ。

 2人の戦い、そしてその後に行なわれた風竜王との戦いは、拮抗したものだった。

 2人ともバランタインさんが言っていた通り、しっかり成長していた。フレミアスは余計な遠距離攻撃は捨てて近接戦に特化し、風竜王は魔法と真空波の連撃による遠距離での戦いを主体としていた。

 阻害魔法が無ければ圧倒されていたであろう戦いに、幻竜王も一応は納得したようだった。

 さて、残るは問題のファルナだけだ。恐らく不合格との評価になるだろうが、その後の説得が本番だ。

「良し、最強の力を見せてやろうぞ」

 自信満々に歩を進めるファルナ。あの自信は何処から来るのだろうか。

 戦いが始まると、早速彼女は魔法を唱える。やはり魔法主体か。

 そして魔法を放つかと思われた瞬間、ドシュッ、という音が響く。


 ファルナの胸から、短剣の先端が飛び出していた。

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