第47話

 村に戻って2日後、クリミル伯爵より遠話石にてアルト宛に連絡が入り、王家からの招集が決定した。書簡はクリミル伯爵の所に届いているそうだ。

 その翌日、王都に向けて俺達は出発した。俺とスタウトさん達、それにミモザさんとアルトが同行している。前回と違い、兵士は同行していない。

 そして無事王都に到着し、まずはクリミル伯爵の屋敷に直行する。書簡の受け取りと段取りの確認の為だ。だが全員では応接室に溢れてしまう為、俺と代表としてスタウトさん、里帰りのアンバーさん、そしてアルトの4名に絞った。

「…父様、久しぶり」

「うむ。健勝そうで何よりだ」

 親子の会話は随分とあっさりしていた。確執があるようには見えないので、お互いの性格なのだろう。

 そして伯爵より書簡を見せられたのだが、俺は気になった事があったので、真っ先に訪ねてみる。

「あの、私の名前が一番上にあるんですが…」

「お主が一番功績があったのであろう?騎士団からの報告を元に裁定されておる。今更覆ったりはせんぞ」

 …本当に一番の功績という事になってしまった。そんな実感は無いので、申し訳無さでいっぱいなのだが。

 そんな俺の気持ちを他所に、伯爵からの説明が続く。

「式典は明後日、王城の謁見の間で行なわれる。場所が場所だけに、正装が必要だな。時間が無いので出来合いで済ませるしか無いが、明日にでも全員分揃えておけ」

 聞く限り、何やら堅苦しい式典のようだ。男の姿で出席するので、ドレスを着なくて良いのが救いか。

「其処で功績に応じた褒章の授与を行ない、併せてアスラド侯爵に対する処断についても発表するそうだ」

 暗殺未遂については兎も角、扇動の件については証拠があったのだろうか。処断という言葉が物騒だが、いきなり斬首刑とかは勘弁して欲しい。

「後で儀礼について簡単にだが教える。当日まで此処に逗留するが良い。以上だ」

 どうやら説明が終わったようだ。するとアルトが口を開いた。

「私と姉様は所用があります。お二人は先に戻っていて下さい」

 その言葉に従い、俺とスタウトさんは一礼して応接室を出た。



「…それで、あの者がそうなのか?」

「ええ、お父様」

 私はそう答える。遠話石で連絡があった時に、一通り説明はしておいた。私と姉様の夫候補として。

「見る限り普通の青年のようだが、彼が功績第一、しかもユーナ嬢と同一人物とは…」

 お父様は驚きを隠せないでいた。それはそうだろう。竜族の女性に変身する男性なのだ。

「…お前の目論見通りの褒章授与が予定されている。何かトラブルが無い限り覆らん。其処は安心しろ」

「宰相殿への働き掛け、有難う御座いました」

「構わん。お前達の目を信じよう。なればこそ、私も全力で事に当たる。娘達の願いだからな」

「…有難う、父様」

「しかし…口説き落とせるのか?」

 お父様が不安そうに呟く。

「負け戦をするつもりはありませんが、戦は時の運。なればこそ、策を弄せず誠意をもって当たります」

「…力押し」

「まあ…其処は任せよう。私が口を出しても好転するでも無し。だが、事の顛末は伝えよ」

「判りました、お父様」

「うん。…任せて」

 そうして、父と娘との密談は終わった。



 翌日、俺達男性陣は一緒に仕立て屋に来ていた。礼服を買い揃える為だ。なお女性陣は別の店に行っており、別行動だ。

「魔王討伐の時も、正装して出席したんですか?」

 俺は気になったのでスタウトさんに尋ねる。

「いや、いつも通りの冒険者の恰好で出席したよ。今回は伯爵が噛んでいるから、体面があるんだろうね」

 成程。やはり貴族社会は面倒そうだ。

「しかしよー、1回限りの服を買うのって、無駄じゃね?」

 ポーターさんが愚痴る。

「費用は伯爵持ちだから、気にしない方が良いよ。それにこういう服を持っておけば、また着る機会もあるんじゃないかな」

「…うむ」

「あー、お前ら2人は貴族側だもんなぁ。俺は一介の冒険者だからな。正装なんざ今回限りだ。なあユート?」

「…だと良いなぁ」

 既にドレスを何度も着た経験がある俺としては、ポーターさんの言葉に安易には頷けなかった。

 とりあえず服のチョイスは店側に任せている。若干の調整程度なら今日中に出来るので、合わせてみて判断する形だ。

「しかしよぉ、ユートは何を貰えるんだろうな?功績第一だろ?」

「恐らくだけど、僕と同じように爵位になるんじゃないかな?領地は持たないけど給金は出る、名誉爵位みたいな物だけどね」

「爵位ねぇ…。持つ事の有用性がピンと来ないんだよなぁ」

 それが正直な感想だ。地位を活用して成したい事が無いのだから、当然なのだが。むしろしがらみが増えそうだ。

「それなら、王様に会う記念とでも思っておけば良いよ。国政に関わらない限り、今回のような事以外では会えないからね」

「そうだな。気楽に考えておくよ」

 俺はそう答える。気負いする必要は無い、という事だろう。


 そうして無事全員服を選び終わり、翌日の式典を待つばかりとなった。

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