第46話
一度の野営を挟んで地上に出た時には、空は夕焼けに染まっていた。
騎士団は未だ到着していなかったので、遺跡の入口近くで再度野営を行なう事となった。
そして皆で食事をしていると、何時の間にか1人の男が直ぐ近くまで来ていた。その男は片膝を付き、話し始めた。
「王家隠密、ロドス男爵家の者です。騎士団の到着は明日の午前中となります。私は先行し報告に参らせて頂きました」
そう話す男に、俺は見覚えがあった。何番目だったかは覚えていないが、俺を含む12人の中に混ざっていた唯一の外国人。良く見れば、格好もあの時の迷彩服だ。
俺は思わず話し掛けた。
「あの、転移者ですよね?私の事、覚えていますか?」
「その顔…日本人?あの時の1人ですか。申し訳無いですが、あの一時で顔までは覚えていません。逆に、私が唯一日本人では無かったので、覚えて頂いていたのでしょうね。改めまして、ケビン・ハミルトンです」
「紬原 侑人です。こちらに来て、初めて同じ転移者に会えました」
そう言い、お互いに握手する。
「私…と言うよりは、王家隠密として数名は転移者を把握しています。有名な所では正教国の聖女。後は王都の料理人。それに1名、既に死亡している者も居ます」
「え…!?どんな人だったか、判りますか?」
あの時の12人の中で、唯一名前を知っているのは八重樫さんだけだが。もしその亡くなった人が八重樫さんだとしたら。
「私も印象深かったので覚えていた者です。一番最初に転移した、ガラの悪い男です。騎士団に狼藉を働き、手打ちとなりました」
「そうですか…」
彼は真っ先に恩寵を選んでいたが、それを活かせなかったのだろうか。何はともあれ、八重樫さんでなかった事に安心した。
「…では、私は騎士団の野営地に戻ります。また明日お伺いさせて頂きます」
そう言うと、突如その姿が消え、気配も無くなる。流石は隠密。
「…ユート、やけにほっとしていたけど、転移者の中に知り合いの女でも居るの?」
アンバーさんが突然俺に、そんな事を尋ねて来た。
「いや、名前を知ってて、挨拶を交わした程度の人だよ」
俺は正直に答える。八重樫さんと再会を願いはしたが、行方を捜す程では無い。
「そう…。要警戒?」
アンバーさんは疑問形で話を打ち切った。
そして翌日。野営の片付けを済ませ、騎士団の到着を待つ。
程無く騎士団が到着した。およそ60名程。其処に王家隠密も3名随伴している。
騎士団の代表としてメイヤさんが前に出る。
「第1、第3、第8騎士団、新たな魔王誕生の危機に際し、後詰として推参した。…見る限り、無事に討伐出来たと見て良いか?」
「お察しの通り、元四天王のクアールは無事…とまでは言えませんが、何とか討伐する事が出来ました」
スタウトさんが代表して答える。
「そうか。ならば証拠を確認させて頂く。…第3、第8騎士団は先行して突入、検分を進めておいてくれ」
「はっ」「了解しました」
そう返事をし、40名程が遺跡に入って行く。
そしてミモザさんが灰の入った袋をメイヤさんに渡す。
「吸血鬼でしたのでー、灰になってますよ~」
「有難う。王都にて調べさせて頂く。…頼むぞ」
メイヤさんはそう言うと、袋をケビンさんに渡す。
「必ずや。ではお先に」
そう言うなり、またケビンさんの姿と気配が消える。
すると、メイヤさんは不思議そうに辺りを見渡す。
「そう言えば、ユーナは何処だ?討伐に参加していると思ったのだが」
そうか。俺は竜人体でしかメイヤさんと会っていないのだ。俺がそうだと判る筈も無い。
仕方無いので、メイヤさんだけを岩陰に案内し、竜人体を見せる。後々拗れるよりはバラした方が良いだろう。
「おお、これは奇妙な。転移者としての恩寵か?」
どうやらケビンさんが昨日のうちに、俺が転移者だと言う事は報告していたらしい。
「そのようなものです。色々と面倒なので、できれば内密に」
話がややこしくなるので、恩寵という事にしておく。
「そうか、判った。…男の姿なら、模擬戦でも手加減される事は無いか?」
…どうやら以前の模擬戦で手加減した事もバレているようだ。
「いや、多分俺の方が簡単に負けてしまいますよ。この姿ではあまり強くないので」
「謙遜するな。勇者パーティに混ざっていても遜色無い程度には強いだろう。ならば相手として不足は無い。再戦を楽しみにしているぞ」
そう言い、メイヤさんは戻って行った。相変わらずの戦闘狂だ。
皆の所に戻ると、スタウトさん達は騎士団からの質問に答えている所だった。敵の素性や強さ、仲間の有無など。今回の件の脅威度を測っているのだろうか。
「…では、皆が苦戦を強いられている中で、其処のユート殿が見事倒したと?」
「はい。彼が居なければ皆倒され、魔素を吸収されて更なる脅威を生んでいたでしょう。彼は恩人であり、一番の功労者ですよ」
うわ。俺が持ち上げられている。と言うか、持ち上げられ過ぎている。本当に勘弁して欲しいのだが。
だが恐らく、俺1人が否定しても多勢に無勢。俺の意見は押し切られてしまうだろう。ならば諦めよう。
そして暫くして、話が終わったようだ。メイヤさんが声を挙げる。
「我が第1騎士団は、半分は此処に残り第3、第8騎士団を待つ事!残りは私と共に王都に戻る!…スタウト殿達は、アルト様の領にて招集をお待ち下さい」
「判りました。ご報告の方は宜しくお願いします」
「畏まった。では出発!」
そう言い、メイヤさんが遺跡を発つ。
そしてスタウトさんが口を開いた。
「じゃあ、僕らも戻ろうか。王様からの招集待ちになるから、それまではあの村に居させて貰うよ」
どうやら王様に招集されるのは確定のようだ。
そうして俺達は、村へ向けて出発し、遺跡を後にした。
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