第45話
俺に竜人体が発現して以降、シェリーさんとは手加減する事を訓練して来た。そして依頼でアルトと会ってからは、その手加減の状態が当たり前になっていた。
だが、クアールは手加減で倒せる相手では無い。全力を出す必要がある。
俺の目的は、接近戦で魔法を打たせない事、そして触手を封殺する事。
カタナを一閃する毎に、赤黒い触手が塵となって消えて行く。相手の威力を上回っている証拠だ。
「くそっ!何だ貴様は!何故この私の魔血手がこうも簡単に…!?」
クアールが苦悶の表情で言葉を吐く。
「…ならばもう一度食らえ!轟雷風旋陣(ヴォルテック・ストーム)!」
「轟風竜巻陣(テンペスト・ストーム)!」
間髪入れずに俺も魔法を放つ。俺の魔法の一撃で雷雲は全て霧散した。
「その魔法起動…竜族か!なぜ中立である筈の竜族が、私と人族との争いに干渉する?そうして住処を追われた過去を忘れたか!?」
「…そんな事は知らない。それにこんなナリだが、俺は人間だ」
「くそっ!ならばその魔素を吸収し、真の最強になってやる!」
そう言うなり、数を減らしていた触手が一気に増大する。先程までの倍はあるだろう。
だが、やる事は変わらない。本体に届くまで、また1本1本消し去るだけだ。
そう思い再度カタナを薙ぐが、触手に受け止められる。どうやら複数本で同時に受け止める事で防いだようだ。
ならば。俺は一度納刀し、腰の回転も加えて抜刀する。シェリーさんとの特訓で得た、刀身よりも先まで斬る技術。それを最大限まで発生させた。
結果、カタナは素通りし、その直後に触手が3本消失する。
これなら抜刀状態でも行ける。そう考えた俺は、全力の振りで触手に当たるギリギリを狙う。結果、威力を殺せずにまた触手が塵になった。
そして更に数撃の後、触手は全て消え去っていた。
「な…、私の魔血手が…。血が、魔力が…」
クアールは呆然としている。ならば今だ。
俺は一気に間合いを詰め、突きを放つ。カタナの最大の威力を生む一点集中の一撃は、クアールの胸を真っ直ぐに貫いた。
「ぐはっ!!…ま、まだだ…」
「だよな。吸血鬼だもんな。でもバラバラになっても、生きていられるか?」
俺は其処から連撃を放つ。首、腕、足、胴。五体をバラバラにする。
最後に床に落ちた頭に一突き。骨を貫通し、脳に届く感触が手から伝わる。
するとクアールの身体はずぶずぶと崩れ、最後には灰の山が残った。
「…終わった、か…」
俺は大きく息を吐く。
全力を出すと身体が追い付かない。関節が悲鳴を上げている。竜人体そのものを鍛えていない事が原因だろう。余裕ぶってはみたが、結構ギリギリだった。戦闘が長引けばどんどん不利になっていった筈だ。
「そうだ。皆、大丈夫ですか?」
そう声を掛けると、スタウトさんとヴァイツェンさんがよろよろと立ち上がる。
「ああ。何とか大丈夫。…危なかったね」
「…うむ」
どうやら大丈夫そうだ。俺は一安心する。
「とりあえず、この灰を証拠に持って帰れば良いのかな?」
「そうだね。…だけど、まずは少し休憩しよう。治療も充分では無いしね」
スタウトさんの提案により休憩にする。ベルジアンさんは2人の治療に専念している。
アンバーさんとミモザさん、それにポーターさんもへたり込んでいる。直接攻撃は受けなかったが、相殺し切れなかった魔法攻撃は受けていたので、未だ痛みがあるようだ。
俺はもう大丈夫だろうと判断し、身体を元に戻す。そして脱いだ靴を履き、外した防具を付け直す。
まだ魔力に余裕はあるので、応急処置の魔力放出をアンバーさんに行なう。ミモザさんは自前で行なっているようだ。ポーターさんは…後回しにしてごめん。
応急処置をしていると、アンバーさんが口を開いた。
「ユートが居なかったら、私達は倒されていた。そして吸収されて、クアールは手が付けられなくなっていた筈。…有難う」
「俺も今の身体では惨敗だったしなぁ…。あまり勝った気がしないよ。むしろ2人で魔法を相殺してくれていたから保ったようなものだし」
俺は素直に感想を言う。所詮、竜人体は借り物のような力だ。これで勝っても、あまり自分の成果には感じないのだ。
そう思っていると、ポーターさんが話し掛けて来た。
「あんま謙遜しなくて良いぜ。僅かな期間で俺達と並んで戦えるだけでも凄えんだ。S級パーティとだぞ?もっと誇れよ」
「そうだね。今回は良い教訓だった。ユートに負けずに鍛えないと」
スタウトさんもそれに続く。そこまで言われると逆に恐縮してしまう。今の結果は、皆を含む色々な人達のお陰だから。
「じゃー、灰は袋に回収しましょうねー。魔力の残滓で相手の強さは理解して貰える筈ですよ~」
「危険度からすれば、前の魔王討伐よりも功績は大きいんじゃないかな?もしかしたら、ユートも叙爵されるかも知れないね」
ミモザさんの発言に続いたスタウトさんの言葉に、俺は意表を突かれる。叙爵?
「そういう面倒そうなのは勘弁…」
俺がそう意見を言っていた所に、アンバーさんが言葉を被せて来る。
「叙爵。受けるべき。うん。作戦通り」
「…作戦?」
「ユートは気にしなくて良い。とにかく、もし叙爵されるなら受けるべき。王族の体面もある。功績に合った恩賞を与える事は王族の役目。それを断るなんて、とんでもない」
アンバーさんが流暢に語る。其処に違和感を感じずにはいられないが、これも気にしたら敗けだろうか。
「まあその辺りは、騎士団の報告次第だろうね。外に出る頃には合流出来るだろうから、僕達でユートの雄姿を語ってあげれば良いんじゃないかな?」
「採用。流石スタウト。良い援護射撃」
俺の実力は今の身体では大した事無いのに、どう説明するつもりなのだろうか。うっかり変な事を言うと、騎士団長達に一騎打ちを挑まれるのではないか。
だが、皆が無事で終われた事は、本当に良かった。
そんな思いを抱きながら、俺達は遺跡の最下層を後にした。
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