第48話
式典当日。俺達は着替えを済ませ、大きな扉の前に待機していた。
アルトのドレス姿は多少見慣れたが、アンバーさん、ベルジアンさん、そしてミモザさんのドレス姿は新鮮だった。…男連中はあまり差が無い。
昨日のうちに、伯爵より儀礼について簡単には教わっているので、アドリブを求められない限りは大丈夫だろう。功績の関係で、俺が一番前になっているのはプレッシャーだが。
どうやら入場のタイミングらしく、扉の前に居る執事さんが声を掛けて来る。
腹を括り、俺は開かれた扉に向け、一歩を踏み出した。
大きく縦長のその部屋には、両側に沢山の貴族と、護衛として騎士団が立ち並ぶ。そして真正面には5名。玉座のような中央の椅子に座る壮年の男性、この人が王様だろう。そして両側に座る若い男女。王子と姫だろうか。後ろには中年の男性と、騎士団長のメイヤさんが控えている。中年の男性が宰相だろうか。
俺達は歩を進め、決められた位置で止まり、片膝を付く。
「此度の功労者、勇者パーティとその協力者一行、参られました」
宰相らしき中年男性の声が響く。
「うむ。客人よ、面を上げよ」
低く響く、渋い声。王様の声は貫禄があった。
その声に従い、俺達は顔を上げる。
そのタイミングに合わせ、中年男性の説明が続く。
「元魔王軍四天王、クアールなる者が仲間を取り込み、精霊・竜種と同等の脅威となり、新たな魔王を名乗ろうとしていた所を、先んじて情報を得たアルト=クリミル領主代行の采配によりスタウト殿達勇者パーティを招集、同行者として大賢者ミモザ様、指南役ユート殿を加え、暁の遺跡を攻略。最下層に居たクアールを見事打ち滅ぼし、この国の危機を未然に防がれました」
「精霊・竜種と同等の脅威」との説明の所で、周囲よりどよめきの声が挙がる。その危険性を認識しているようだ。
「この度はその功績を称え、陛下より褒章を授与致します。それではまず、指南役、ユート殿」
「はい」
中年男性からの指名に返事をし、俺は立ち上がる。そして王様の前まで行き、再度片膝を付く。
「ユートよ。クアールに止めを刺し、打ち倒した功績は見事であった。我が裁量により、汝に子爵の位を授ける。今後も励むが良い」
王様の言葉に、先程よりも大きなどよめきの声が挙がる。て言うか、スタウトさんの時は男爵で、俺は子爵?
「静まれい。かつての魔王よりも脅威と成り得る者を倒したのだ。当然であろう?」
そう言う王様の言葉に、皆が静まり返る。
「所領は無いが爵位は本物だ。今後も役立って見せよ」
「有り難く頂戴致します」
俺は教えられた通りの返事をする。すると王様は一言付け加えた。
「家名はこの後で宰相と相談するが良い」
そして中年男性の言葉が続く。
「続きまして、勇者パーティ一行、代表スタウト=ウルフェロン男爵」
「はい」
俺は元の位置に戻り、また片膝を付く。そして入れ違いにスタウトさんが前に出た。
「スタウトよ。2度目の魔王討伐をよくぞ成し遂げた。我が裁量により、汝を子爵に昇爵する。今後も頼むぞ」
「はっ。有り難くお受け致します」
「続きまして、大賢者ミモザ様」
「はいー」
今度はスタウトさんと入れ替わりで、ミモザさんが前に出る。それよりも大賢者なんて称号で呼ばれている事に驚いた。
「ミモザ様。此度のご尽力、感謝の念に堪えません。以前より申請のありました、禁書の閲覧につきまして解禁させて頂きます。今後とも我らが国を見守り下さい」
「あら、有難う御座います~」
…王様が敬語を使うなんて、物凄い大物じゃないか。となるとアンバーさんは大賢者の弟子か。それだけで凄い存在に感じてしまう。
「続きまして、アルト=クリミル領主代行」
「はい」
ミモザさんと入れ替わりで、アルトが前に出る。
「アルトよ。新たな魔王が動き出す前に討伐出来たのは、其方の采配に拠る所が大きい。選ぶが良い。新領地への異動か、現領地の拡大か」
「…現領地の拡大をお願い致します」
「…そうか。上手く行っているようで何よりだ。今後も励めよ」
アルトが元の位置に戻った所で、王様が口を開く。
「先程の褒章に加え、皆の功績を鑑み金貨1千枚を与える。配分は任せる」
金貨1千枚…約5億円!?凄い大金だ。
中年男性の声がまた響く。
「では次に、マイヤール=アスラド侯爵の処断について言い渡す。前へ出よ」
その言葉に従い、2人の男性が王様の前に出る。1人は恰幅の良い口髭を生やした壮年男性、もう1人は20代後半の細身の男性だ。
「この者、クアールに話を持ち掛け、協力の見返りに特定の村への襲撃を依頼していた事が判明した。未遂に終わったとは言え、国家への反逆とも取れる行為。…陛下、ご処断を」
「うむ。…マイヤールよ、お主は隠居の上、別荘にて幽閉とする。そしてコドヤールよ、伯爵位に降爵する。父の轍を踏まぬよう精進せよ」
「…畏まりました」「はっ」
処断だと言うからもっと厳しい物かと思ったが、想像よりは軽かったように感じる。結局、アルトの暗殺未遂については証拠は出なかったようだ。まあ次が無ければ良しとしよう。
「では、これにて閉会とする!なお客人は暫し留まり下さい」
その言葉に、貴族達と騎士団がぞろぞろと外に出て行く。残ったのは俺達と正面の5人だけだった。
「改めて紹介しよう。儂がバリアス=フォン=アーシュタル。そして息子のカイラルと娘のアステリアだ。後ろが宰相のルイス=リシュアス、それに第1騎士団長のメイヤだ」
其処で、予想通り宰相だったルイスさんが口を開く。
「早速ですがユート殿。叙爵に当たり、家名を決めて頂きたく。ご希望はありますか?」
家名は姓と同じような物だろう。なら決まっている。
「私は元々、ツムギハラと言う姓を名乗っておりました。なので問題無ければ、その姓をそのまま家名として使いたいのですが」
「…どうだ?」
「問題ありません。我が国にも他国にも、同一の家名は存在しません」
「良し。では本日より、お主はユート=ツムギハラ子爵だ。領地は無いが、給金は渡す。有事の際は民草の為に身を捧げよ」
「有難う御座います。精進致します」
こうして、俺は子爵となった。
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