第85話

 シェリーさんと別れた俺は早めに宿を取り、招集が掛かるまでの間のんびり過ごした。

 そして数日後、遠話石で呼び出された俺は、冒険者ギルドにやって来た。事前の忠告通り、既に竜人体になっている。

 入口前には馬車が何台も停まっており、沢山の冒険者が集まっていた。

 俺は早速フィーラウルさんを探す。と、直ぐに見付ける事が出来たので声を掛ける。

「お早う御座います」

「おお、良く来たな。宜しく頼むぞ」

 そしてフィーラウルさんが声を挙げる。

「全員集まったようだな。これから覇王の迷宮への移動を開始する。パーティ1組につき馬車1台を割り当ててある。では乗り込め!」

 その声に従い、各パーティがそれぞれの馬車へと乗り込む。

「お前は私達と同じ馬車だ。これに乗れ」

 俺は案内され先頭の馬車に乗り込む。フィーラウルさん、ガルファングさん、フィーリンさんと一緒だ。

 馬車が出発して程無くして、ガルファングさんが話し掛けて来た。

「ユート。先日初めて見たが、その姿はどういう仕組みなんだ?性別まで変わるとはなぁ」

「えっと…竜玉が魔力機関と融合していて、元の竜の姿になる感じです」

 其処にフィーラウルさんが言葉を挟んで来る。

「それはこの世界への転移時に起きたのかね?」

「そうです。転移場所に丁度竜玉があったみたいで」

「成程…興味深いな。時空魔法で再現出来そうだが、流石に危険か?」

 そう呟く姿は、やはりマッドサイエンティストだった。

「と言うか、時空魔法では転移も出来るんですか?」

「ああ。中級で短距離、最上級で遠距離の転移が可能だ。中級なら戦闘にも活用出来て便利だぞ。魔力消費が激しいが、お前なら大丈夫だろう」

「そうですか。後で習得してみますね」

 村に帰ったら、楓に聞いてみよう。一緒に訓練するのも良いかも知れない。

 そんな事を考えながら、馬車は進み続けた。


 そして宿場での宿泊と野営を繰り返し、1週間が経過した。

 眼前には神殿のような建物が建ち、正面の階段は地下へと続いている。これが覇王の迷宮のようだ。

 今は夕方なので此処で野営をし、明日の朝から突入するとの事だ。

「では、明日突入するメンバーを紹介する」

 フィーラウルさんがそう言い、順番にパーティ名を紹介して行く。

「まずは銀嶺の咢、リーダーはシンシアだ」

 銀色の鎧を纏った、長身の女性が頭を下げる。他のメンバーは斧を背負った戦士、槍持ちの戦士、治癒術士、魔術士2人の6人パーティで、全員女性だ。

「次は獄炎虎狼、リーダーはガラールだ」

 軽装鎧の獣人男性が手を挙げる。他のメンバーは剣士2人、弓使い2人の5人パーティで、全員が獣人。弓使い2人が女性だ。

「そして深淵の葦、リーダーはモルドールだ」

 ローブを纏った初老の男性が軽く会釈する。他のメンバーは魔術士5名、全員男性だ。

「最後に私とパーティを組む、ユートだ」

 俺は皆に頭を下げる。

「以上の4パーティで突入。可能な限り魔物を倒しながら進み、最奥で魔素濃度上昇の原因を探る。…何か質問はあるか?」

 すると獄炎虎狼のリーダー、ガラールが手を挙げた。

「統括と組むっていうその嬢ちゃんは、大丈夫なんすか?S級で聞いた事無いっすよ」

「ああ。先日私が試験し、S級に昇格した者だ。実力は保証しよう。私に単独で勝てるのだ、不足はあるまい」

 フィーラウルさんの返答に、皆がざわざわと騒ぎ出す。

「統括に勝ったってマジか?俺達、パーティで負けたんだぞ」

「…確かに存在感と魔力量が飛び抜けてる。凄いわね」

「めんこいのう」

「そんな強そうには見えないんだが…」

「単独なら、後で勧誘するか?」

「付き合ってる男性は居るんだろうか…」

 何か好き勝手な事を言っている。これは精神衛生上、聞き流した方が良さそうだ。

 すると手を叩く音が響き、声が続く。

「皆、静まれ!詮索はその辺で良かろう。興味があるなら、後で本人に直接聞け。だが礼節は弁えろ。詳しくは言えぬが、そこそこ高貴な出なのでな。では解散!」

 皆が静まり、此処で話が終わった。

 すると早速とばかりに、銀嶺の咢のリーダーであるシンシアさんが話し掛けて来た。

「ちょっと手合わせをお願い出来るかしら」

「…ええ、構いませんよ」

 俺はそう答え、お互いに武器を構える。シンシアさんは長剣を両手に持っている。二刀流だ。

「はっ」

 掛け声と共に間合いを詰めて来る。中々早いが、シェリーさんには及ばない。

 タイミングをずらして向かって来る剣戟を、両方ともカタナで外側に弾く。

 そしてがら空きになった胴体、その鎧の隙間を狙いカタナを突き、ギリギリで寸止めした。

 此処までが一瞬の出来事だ。シンシアさんは両手を挙げ、降参の意思を示した。

「自信のあった速さで負けるとはね、流石だわ。…有難う」

 そう言い、剣を収める。特に気分を害した様子も無いので、安心した。


 その後、何人もの相手と模擬戦をする羽目になってしまった。

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