第86話
翌朝。準備を終えた俺達は、ダンジョンの入口前に集まっていた。
フィーラウルさんがガルファングさんに指示を出す。
「これより私達は突入する。もし外に出て来る敵が居たら、対処を頼むぞ」
「判ってますって」
「…それと、もし15日経過しても私達が戻らなかった場合は、全滅と判断し本部に指示を仰げ」
「…そうならないよう、頼みますよ」
その言葉を背に、俺達は覇王の迷宮へと突入した。
中の構造は天井が高く、それでいて四方に道が伸び、迷路状になっていた。
そして早速、正面から魔物が複数襲い掛かって来た。人間の倍はある背丈に筋肉質な身体、そして特徴的な頭部の角。オーガだ。
まずは左翼に銀嶺の咢のメンバーが向かう。シンシアさんは敵の正面に立ち、回避盾として敵を引き付けている。その間に他の2人が左右から襲い掛かり、攻撃を加えて行く。魔術士は同士討ちを避けて上半身を狙っている。
そして正面に向けて獄炎虎狼が襲い掛かる。弓使い2人がまず射撃を加え、其処に近接3名が切迫。ガラールさんは徒手空拳で打撃を加えて行く。手甲とブーツに金属を仕込んでいるようだ。
右翼には深淵の葦が向かう。
「阻害3、上級3!」
モルドールさんの指示に従い、3名が阻害魔法を発動。そして残り3名が上級魔法を放つ。
最後に俺達が、正面の更に背後に居る1体に向かう。
「遅速鎖(スロウ・チェイン)!」
フィーラウルさんの魔法により敵の動きが鈍る。そして更に指示が飛ぶ。
「首を狙え!」
俺は一足飛びに敵の肩に乗り、瞬時にカタナを一閃させる。
そして飛び降りた俺の横に頭が落ち、一息遅れて身体が崩れ落ちる。
最初の敵はあっさり倒せたようだ。見回すと、それぞれ対峙した敵を倒した所だった。
「良し、このまま最短距離で最下層を目指す。道中の敵は全て倒して行くぞ」
フィーラウルさんの掛け声に従い、全員が進み始めた。
S級向けのダンジョンという事もあり、魔王城や暁の遺跡では見掛けなかった魔物が多く出現した。
だがその全てに見識があるフィーラウルさんが、随時的確な指示を出して行く。
お陰で大した消耗も無く、順調に階層を踏破して行った。
此処まで見て来た限り、銀嶺の咢はスタンダードな戦いをしている。スタウトさん達に近いだろうか。
獄炎虎狼は攻撃直振りで搦め手無しだ。どんな相手も力押しで倒して行く。
深淵の葦は、リーダーであるモルドールさんの判断力が凄い。瞬時に采配し、確実に遠距離で倒して行く。
…そして俺はと言うと。
「全て一撃とは…。剣速と技量が凄まじいですね」
「そうだな。カタナは扱い難いと聞いたが…此処まで使いこなしている奴は見た事が無ぇ」
「めんこいのう」
…皆に褒められていた。フィーラウルさんの指示通りに動いているだけなのだが。
そんな中で野営の準備を始める。そう言えば俺達は野営の荷物を持っていないな、と思ったら。
「空間通門陣(ポータル・ゲート)」
フィーラウルさんが空中に穴を生み出し、其処から荷物を取り出す。
時空魔法の空間収納のようだ。道理で手ぶらな訳だ。
「見張りだが、パーティで分担する。初日は銀嶺の咢で対応してくれ」
「判りました。お任せを」
シンシアさんが答える。
「ユートは2日目、獄炎虎狼に混ざれ。5名パーティだからな」
「了解です」
そうして初日は無事終了した。
2日目。現在は4階層だ。
魔素濃度の影響か、魔物と遭遇する頻度が高い。場合によっては連戦となる事もあった。
そんな中でも流石はS級パーティだ。特に疲労の色も無く進んでいた。
すると前方に、白んだ半透明の物体が立ち並んでいるのが見える。
「レイスだな。銀嶺の咢、対処可能か?」
「はい。…リリア、頼むわ」
リリアと呼ばれた治癒術士が前に出て、魔法を放つ。
「不死送還陣(ターン・アンデット)!」
眩い光が周囲を包む。そして光が収まると、レイスは1体残らず消え去っていた。
回復以外の治癒魔法を初めて見た。残念ながら俺は習得出来ないが。
「残存魔力が厳しいようだったら、私が対処する。その時は言え」
「判りました」
「フィーラウルさん、対処出来るんですか?」
疑問に思ったので、俺は聞いてみる。
「ああ。私は自前で魔力を変質させる事が出来るからな。治癒魔法も扱う事が出来る」
おお、本当に万能な人だ。…魔力の変質か、俺にも出来ないだろうか。
そうして、俺達は順調に覇王の迷宮を踏破して行った。
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