第151話

 教主達が去った後も、俺はその発言について考えていた。

 損得勘定も確かにあるのだろうが、こちらにとって何の意味も無い提案はしないだろう。そう結論付け、慈竜の住処に行く事を決意した。

 理由についてはファルナに相談し、水竜王の代替わりの報告という形にした。本人が面倒臭がり、何処にも報告に行っていないのは結果的に助かった。

 早速ファルナには竜に成って貰い、進言通り萌美も連れて出発する。

 千里眼で場所を確認すると、正教都よりも西の国境近くのようだ。俺が随時方向を示しながら進む。

 そして到着した場所は、他の竜族の住処と良く似た洞穴だった。

 ファルナを先頭にして中に入る。入口に比べて中はかなり広い。

 暫く進むと、竜人体に成っている竜族が数人視界に入る。淡い光を放つ銀髪と、シンプルな民族衣装が特徴的だ。

 向こうもこちらに気付くが、その表情を一変させる。其処には怒りと驚愕が入り混じっていた。そしてその中の1人が檄を飛ばす。

「人族の侵入者だ!迎撃準備!」

 緊迫した空気の中、計6名が横一列に並び真正面に立つ。

 リーダーと思しき1人が一歩前に出て、口を開く。

「水竜の者よ、どんな思惑で人族を招き入れた?」

「な…なんじゃ?ただ儂は挨拶に伺っただけじゃが…」

「それは人族を連れている理由にはならない。目的は何だ?」

「むー、目的と言われてものう…」

 ファルナが困っているので、助け舟を出そうと一歩前に出た所、その表情が一層険しくなった。

「退かぬというなら…覚悟せよ」

 そう告げると、6人全員に魔力が集まり始める。その瞬間、背筋がぞわりとした。

 俺は竜人体に成りファルナの前に出る。そして魔法を放った。

「轟炎球状壁神界(フレイム・ドーム)!」

 濃密な炎の壁が、俺達の周囲を球状に覆う。熱で歪んだ視界の向こうで、魔法が放たれた。

「「「「「「殲滅光断罪陣(イナレーション・レーザー)!!」」」」」」

 青白い光線が6本、超速で襲い掛かる。そしてそのまま炎の壁に当たり、その一部が周囲に乱反射する。その光は洞穴の壁を穿った。

 …成程。納得している場合では無いが、確かに治癒魔法しか使えないだろうと油断していたら危なかった。流石に驚いた。

 だが驚いているのは向こうも同じで、渾身の一撃が防がれた事が信じられないようだ。

 どうやら何とか神代級魔法を習得しておいたお陰で、助かったらしい。最上級魔法では防げたか判らない。

 今のタイミングだと思い、俺は声を挙げる。

「こちらに居られるのは水竜王です。先程申した通り、代替わりの挨拶に伺いました。どうしても人族を受け入れられないなら私達は引き下がりますので、まずは慈竜王様への取次をお願いします」

 慈竜達は困惑していたが、リーダーらしき者が後方へと下がった。慈竜王の所へと向かったのだろう。

 それから暫くして、こちらに1人向かって来た。あれが慈竜王なのだろうか。

「お騒がせしました。皆様、こちらへどうぞ」

 人族で言うなら30歳位だろうか。すらりとした体躯に束ねられた髪、切れ長の目をした美人だ。俺達は言われた通りに後を追う。

 案内されたのは洞穴の最奥にある空間だった。慈竜王の部屋なのだろうか。

 などと考えていると、突然頭を下げられた。

「まずはお詫びを。とある事情により敵対し、申し訳ありませんでした。この慈竜王が代表しお詫び致します」

 その言葉にファルナが俺を見たので、俺は頷いて返す。

「気にするでない。人族と何やら確執があるのは把握しておったのでな、無遠慮だったのはお互い様じゃ」

「そうですか。…ちなみに、その情報は何処で?」

 その問いには、俺が答えた。

「詳しい内容は知りませんが、正教国の教主より伺いました」

 俺の教主という言葉に、彼女は納得といった表情を浮かべた。

 すると彼女の視線は萌美へと向いた。

「…貴女は普通の人族でしょうか?」

「あ、はい。正確には転移者ですが」

 そして彼女の視線が俺へと戻る。

「貴方は…何者でしょうか」

「私も転移者です。この姿には事情がありまして…」

 其処で俺は竜玉と融合した経緯を説明した。

「そのような事が…。では貴方も、私達の竜玉を目当てに此処へ?」

「いえ、単に教主の口車に乗っただけでして。何かを掠め取ろうという意図はありません」

 この言い方からすると、教主は竜玉を得ようとして此処を訪れたようだ。

「竜玉は私達にとって、遺灰であり墓標です。おいそれと渡せるものではありません」

 俺はファルナに小声で、そうなのか?と尋ねてみた。

「扱いの良し悪しはあるが、その通りじゃ」

 成程。それなら欲しいので下さい、が通る訳が無い。

 俺は別の話題を振ってみた。

「先程の魔法ですが、あれも治癒魔法の一つなのですか?魔導書では見た事も無いのですが」

「あれですか。人族には伝わっていないのですね。…どうですか、覚えて行かれますか?治癒術士が居られるのなら、ですが」

「それなら是非。彼女が治癒術士です」

 俺は萌美に手を向ける。治癒術士が攻撃魔法を扱えれば、レベル上げがやり易くなる。

「では、こちらへどうぞ」


 俺達は慈竜王の案内で、隣の部屋へと移動した。

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