第133話

 翌日、午前の執務時に人の誘致について提案をしてみた。

「成程ね、良い考えだと思うわ。お金は貯めて置いても価値を生まないもの」

 アルトはあっさりと俺の提案に同意した。ならば後はやり方だ。

 するとシアンが口を挟んだ。

「それなら、丁度良い話があります。グランダルからの移住希望者を受け入れましょう」

「そんな話があるのか。と言うか、グランダルで何があったんだ?」

「先般の戦争に伴う我が国からの賠償請求の影響で、税金が上がっているそうですよ。どうやら戦死者への補償も重なったのが原因のようです」

「そうか。なら地代や当面の生活費をこっち持ちにすれば、結構呼び込めそうか?」

「ですね。早速国を通して受け入れを提案しますか?」

「ああ。ついでに国境からの馬車での移動と護衛も行なおう。徒歩では距離があるからな」

「判りました。資材準備と人員配置を含めて、進めておきます」

 これで後は任せて大丈夫だろう。今よりもこの村の規模が大きくなる筈だ。

「そう言えば、村と街の線引きって何だ?」

 その疑問にはアルトが答えてくれた。

「人口が千名を超えると街を名乗れるわ。街に成ればギルドや商店の誘致とか、色々とやり易くなるわね」

「成程。でも流石に先が長いな。今どの位だ?」

「ざっくりで此処が200名、以前に統合した村が150名ね。統合した村までの範囲で街とした場合でも、3倍に増やす必要があるわ」

 3倍は流石に容易では無いな。

「シアン、移住者はどの程度見込める?」

「上限を設けなければ千名を超えますが、住居の用意などの受入体制が整いません。妥当なのは100名、無理しても200名が限界でしょうか」

「なら良い機会だ、限界まで受け入れるようにしてくれ。受入体制は今日からでも着手を頼む」

「了解です。準備には兵の皆さんにも手伝って貰いますよ」

「ああ大丈夫だ。どうせ専属の工兵は居ないんだ、訓練の一環で取り組んで貰おう」

 するとアルトが1枚の紙を差し出して来た。

「ならこれも一緒に進めましょうか」

「何々?…正教国より、教会の建設について?」

「教主と聖女の連名による、直々の依頼よ。この村にとっても助かるし、外交的にも受けておいた方が良いわ」

「…この村の監視が目的じゃないか?」

「可能性としてはあるけど、常駐するのは聖職者が数名だけ。せいぜい大雑把な動向を知る程度よ」

「なら良いか。寧ろ兵の練度を伝えて貰った方が、抑止力にもなるか」

「問題無いわね。許可の返事を送っておくわ」

 ちなみにファルナはソファーに寝転がっている。内容には興味も無さそうだ。

「村の拡大は東の方向に進めるわ。後は…これかしらね?」

 そうして渡されたのは封筒だった。既に開封済みだが、裏には王家の紋章が刻印されている。

 中の手紙を読んでみると、領地持ちの貴族への会議案内だった。

「俺って領地持ちだったっけ?」

「私との結婚のせいで有耶無耶なのよね。王家からは共同領主として見られているわ。だからその手紙の宛先も、私とユートの連名になっているのよ」

「あ、本当だ」

「出席出来るのは本人と従者が1名。私はエストを連れて行くから、ユートはファルナになるかしら?」

「ん?儂の名前が出なかったか?」

 ファルナがソファーから起き上がる。確かに護衛である以上、離れない方が良いだろう。

「だが心配だな。会議で大人しくしていられるのか?」

「良く判らぬが、竜族きっての淑女たる儂に対し失礼じゃな」

「じゃあ決まりだな。同行者はファルナで頼む」

「判ったわ。会議は約1月後よ、忘れないようにね」

 アルトが念押しするように、俺に告げた。


 そして暫く経ち、王都に向け出発する日を迎えた。

 馬車の御者はエストさんに任せ、俺とアルト、ファルナが乗り込む。他の護衛は不要と判断した。

 幾度かの宿泊と野営を経て、王都に辿り着いた。

 其処では早速服飾店へと向かった。ファルナの服を買う為だ。今の恰好は会議には不向きとの事だ。

 最終的に、エストさんに合わせる形でメイド服を選択した。見習いの子供にしか見えないが。

 その後はクリミル伯爵の屋敷に向かう。俺にとっても義理の父親になるので挨拶し、そのまま宿泊させて貰う。

 翌日、王城に向かった俺達は大きな会議室に案内された。俺とアルトが指定された隣同士の席に座り、その後ろにエストさんとファルナが立つ。

 暫くすると席の大半が埋まり、最後にリシュアス宰相がやって来た。国王は出席しないようだ。

 会議は宰相の挨拶に始まり、次に爵位の高い順に領地についての報告が始まった。

 アルトからは病気の発生や家畜の被害、魔物の発生等の自領にも関わる情報に注意するよう言われていた。なので真剣に報告に耳を傾ける。

 報告者の中には、件のアスラド伯爵も居た。真面目にやっているようで何よりだ。

 そして俺達の番だが、より詳しいアルトに報告は任せた。

 領地経営は順調である事、それに住民の受け入れを広く行なっている事が報告された。

 アルトによる報告は無事完了し、次の子爵へと順番が移った。


 だがその子爵の報告に、会場がどよめき立った。

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