第132話

 村に戻り、俺はファルナを連れて執務室に向かった。

 すると真っ先にアルトが呟いた。

「…新たな嫁候補かしら?」

「そうなのか?残念じゃがお主と儂とでは子供は出来んぞ?…いや、竜玉を取り込んでおるのだから可能性はあるかも知れぬ」

「いや違うから。ファルナも乗るな。て言うか見た目からして駄目だろうが」

「何を言う?儂は125歳じゃぞ、お主らよりも年長じゃ」

「冗談よ。それで、どういった事情なの?」

 俺は幻竜王の件を説明した。

「そう…ユート以外では護衛に着いても無駄ね」

「ああ。だから基本的には俺の行動に合わせて貰う事になる」

「判ったわ。後で皆にも周知しておきましょう。…ああ、それと。楓の件は既に手紙を出しておいたわ。後は身内への報告だけお願い」

「了解だ。午後の訓練の時で良いか」

 さて、暫く不在にしていたが通常の執務に戻るか。

 その前に、エストさんにお願いしてファルナの部屋を用意して貰おう。


 午後の訓練を始める前に、訓練場で俺は楓と並んで報告した。

「そんな訳で、楓を第4婦人として妻に迎える事になった。皆、承知しておいてくれ」

「よ、宜しくお願いしますっ!」

 突然の報告ではあったが、皆からは拍手で歓迎された。一安心だ。

「流石は兄貴!判ってましたよ!」

 しかし祥からは、確実にロリコン認定されたようだ。言い訳したい所だが、どう言っても結果は覆らないので諦める事にした。

「すると儂が第5婦人か?随分下じゃのう」

「だから止めてくれ。本気にする奴が出る」

「ではまさかシャルトーを狙っておるのか?…まあ本人同士の気持ち次第じゃから、儂は口出しせぬがな」

「其処で寛容にならないでくれ。別に狙ってないから」

 ファルナが近くに居ると、何やら気苦労が増えそうな予感がする。

 まあこの性格だ、放っておいても直ぐに皆とは馴染むだろう。

 さて皆の成長度合いを見てみるが、久しぶりなだけあって随分と強くなっているようだ。

 なのでその実力を測る為、張り切って魔物を召喚する事にした。

 そして直ぐに判る。以前は苦戦していた魔物に、優位に戦えているのだ。

 魔法小隊も扱える魔法のレベルが上がっている。特に祥は上手く4属性を使い分け、攻撃面では隊内の最大戦力に成りつつある。やはり恩寵の効果は大きいようだ。

 取り敢えず魔法小隊の訓練にファルナを混ぜてみる。元々魔法主体なので問題無いだろう、そう思ったのだが。

「うわははは!精霊を倒せし儂にとって、只の魔物なぞ物の数に入らぬわ!」

 そう言い、水属性の最上級魔法を連発する。皆と比べて軽く5倍以上のレベル差なだけあり、流石に圧倒的だ。

 其処で俺は気になった事があったので、ファルナに尋ねてみる。

「なあ。他の竜王は皆特殊な属性の使い方をしていたんだが、お前も何か出来るのか?」

「む?まあ出来るぞ。儂は接近戦が苦手じゃから滅多に使わぬがな」

 そう言うと、手に冷気が集まり氷の剣を形作った。

「その力って、竜王で無くても竜族なら使えるのか?」

「うむ。あくまで一族としての力じゃからな」

 そうすると、俺でも扱えるのでは無いか。

 早速竜人体に成り、カタナを抜き試してみる。

「…何かコツはあるか?」

「魔力に一族の属性を持たせ、手に集中させれば良いぞ」

 俺の竜としての属性は火なので、火属性魔法をイメージして魔力を集めてみる。

 するとカタナの刀身が炎に包まれた。フレミアスの拳と同様、手に持つ武器に炎を纏わせる力のようだ。

 ゲームで言う魔法剣のような物か。色々と素振りをしてみる。弱点属性なら有効だろう。

 後はフレミアスのようにこの炎を飛ばせるか。纏った炎を切り離すイメージでカタナを振ってみる。

 すると炎の剣戟が前方に飛んで行った。そして地面を抉り、炎を巻き上げる。

 最上級魔法より威力は低いが、詠唱が不要な分使い勝手は良さそうだ。

 ついでに風属性も試してみるが、竜としての属性では無いので扱えなかった。まあ仕方無いだろう。

 ファルナは少し場所を離し、精霊を3体召喚しておく。これで暫くは善戦するだろう。

 後は普段魔物にあまり止めを刺せていない2人、萌美と楓を重点に育てる。

 精霊を召喚し、俺が魔法で弱らせてから阻害魔法を掛ける。そして2人に止めを刺させるのだ。

 完全に育成支援だが、特に萌美は属性魔法が使えないので仕方無い。楓も時空魔法を有効に活用する為には多量の魔力が必要だ。ならばレベルを上げるのが手っ取り早い。

 そして訓練を終える頃、ファルナは精霊を1体倒したが、残りの2体にやられていた。

 だか特に大きな外傷は無いので、上手く防護魔法で防いでいるのだろう。

 訓練の後は事務仕事だが、不在の間もシアンが大半は片付けてくれていたので、どうしても俺の承認が必要な物だけを処理した。

 収支報告も受けたが、これだけ兵を抱えていてもプラスになっていた。仮に国からの給金以外の収入源が無くとも、マイナスにはならないだろう。お陰でどんどん貯蓄が増えている。過去の報奨金も殆ど手付かずだ。

 ならば村の発展…例えば人の誘致に使うか。初期投資が掛かるが、将来回収可能だろう。


 そんな事を考えながら、その日の執務を終えた。

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