第137話

 道中、メイヤさんがダンジョンについて話し始めた。

「咎人の回廊だけど、まず名前の通り回廊の構造をしているわ。中央部分は最下層からの吹き抜けになっていて、その外周を回りながら下って行くの」

 聞く限り、今までに見た事の無い変わったダンジョンのようだ。

「構造上魔物を回避するのは難しいのだけど、調査時に一通り殲滅済みよ。だから新たに湧いた分しか魔物は居ない筈だから、最下層まではすんなり行けると思うわ」

「道中で余計に消耗しないのは助かりますね」

「ええ。湧いた分程度なら私だけで対処可能だから、貴方は最下層の変異体に専念して頂戴」

「判りました。頑張ります」

「その変異体だけど、種類は蜥蜴型。主な攻撃方法は爪と尻尾、それに酸の毒液を吐くわ。壁を這う事も出来るから、手を出し難い相手ね」

「となると、魔法で地面に落として接近、とかですかね」

「そうなるわね。ただ動きがかなり素早いから注意して」

 変異体の魔物は巨大化するから、攻撃範囲も広くなる。余裕を見て回避しないと難しそうだ。

 何にしろ、実際に戦ってみないと判らない事もあるだろう。

「それにしても、今までにも同じような魔物は発生していたと思うんですが。どうやって対処していたんですか?」

 俺は素直な疑問を尋ねてみたが、答えたのはファルナだった。

「人族に対処出来ぬ時は、我ら竜族が出張っておったらしいぞ。その殆どは人知れず対処しておったのじゃろうな」

 言われてみれば、過去には地竜王が白竜王の指示で魔物の大軍を討伐していた。同様に対処していたのだろう。

 今回は干渉しないのだろうか。だとすると、人族で対処可能と判断したのか。


 そのまま暫く馬車は進み、数日の後にリシュアス公爵領に入る。

 ダンジョンの位置は更に南東なので、そのまま進み続ける。

 途中、宿場や街に寄りながら進み、更に数日後にダンジョンに到着した。

 石積みの平らな建造物だ。これが地下まで続いているのだろう。

 早速馬車を降り、中へと進み入る。

 回廊部分は広く、天井も高い。通路は真っ直ぐ伸びている。

 通路の壁には窓が付いており、外側は陽の光を取り込み、内側は吹き抜けが見渡せる。

 吹き抜けの天井部分にも複数の穴が開いており、陽光が差し込んでいた。

 中を覗いてみるが、動く物体は見つけられなかった。何処かに潜んでいるのだろうか。

 そのままどんどん進み、三度角を曲がった先の階段を降りる。

 降りた先も同様の構造だ。外窓が無くなった分暗い。この構造が最下層まで続くのだろう。

「このダンジョンだけど、最下層は20層よ。このまま代り映えのしない景色が続くわ。でも一応魔物が出る可能性はあるから、油断はしないで」

 メイヤさんの忠告を聞きながら、更に歩を進める。確かに道中は単調だ。

 横を見ると案の定、ファルナが退屈そうにしている。

 そうして何事も無く下層へと進み、6層へと到着した。

 すると前方から金切り声がする。しかし目を凝らすが何も居ないようだ。

「…上ね」

 メイヤさんの言葉に目線を上げると、天井に大型の蝙蝠が居た。

「素通りしますか?」

「背後を取られると面倒だし、此処で倒しておきましょう」

 メイヤさんの返答を受け、ファルナが声を挙げた。

「なら儂に任せよ。暇つぶしじゃ」

 そうして間を置かずに魔法を唱える。

「水刃多層旋陣(カッター・ウォール)!」

 水の刃が広範囲かつ多重に飛んで行く。そして蝙蝠は回避する隙間も無く、幾重にも切り刻まれた。

 細切れにされた死体と水が、天井からボタボタと落ちて来る。

「…やり過ぎじゃね?」

「避けられるよりは良かろう?」

「…私は魔法が苦手なんだけど、凄まじいわね」

 さて、更に歩を進めて行く。事前にメイヤさんから話があった通り、殆ど魔物は現れなかった。

 稀に遭遇するが、近接ではメイヤさん、遠距離ではファルナが一撃で倒した。

 途中に休憩を挟みつつ進み、やっと最下層である20層に到着した。

 そして最後の回廊を進み、吹き抜けに到着する。

 天井からの光により周囲は見渡せるが、対象となる変異体は見当たらない。瓦礫の影にでも隠れているのだろうか。

 俺は千里眼を発動させる。対象は変異体だ。

 距離に関係無く感知するので複数見付かるが、その中で一番近いものを探す。

 …すると視界の上方、100メートル程の距離に居る事が判った。

 見上げると穴から光が差し込む天井が、そして其処に張り付く巨体が見えた。

 それは突如天井を蹴り、真っ直ぐこちらへと落下して来た。

 俺はメイヤさんとファルナを両脇に抱え、回廊へと飛び込む。直後に背後に響く轟音。

 間一髪で回避出来たようだ。振り向くと無機質な両眼がこちらを見ていた。


 俺は竜人体に成り、カタナを抜いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る