第136話
俺はシュタイン子爵を見付けると、話し掛けた。
「お疲れ様です。少し良いですか?」
「おお、ツムギハラ伯爵殿。此度は有難う御座いました」
「いえ。ちょっと1つ忠告を。以前に地竜王に聞いたのですが、地竜の一族は昔の戦で滅んだそうです。そして今回の屍竜は元地竜でした。つまり…」
「…今後もこの周辺で同様の事態が起こる、と?」
「可能性はあります。なので住民は避難させたままで、監視を継続して行なって下さい。有事の際は私もご協力しますので」
「…判りました。もしもの時はご連絡致します」
「はい。宜しくお願いします」
俺はそう言い、その場を離れる。
この周辺を掘り起こしたいが、流石に労力が掛かり過ぎる。予想が外れていたら無駄足になるので、再発したら提案してみよう。
馬車が次々と王都に向け出発する。既に王都に向け連絡は済んでおり、戻ったタイミングで会議を再開する予定だ。
そして王都にて、会議前に宰相より報奨金を手渡される。今回の屍竜討伐によるものだ。
再開した会議では、まずシュタイン子爵より事態が解決した事が報告された。そして村の完全封鎖に伴い住民の避難から移住への切替があり、自領で受け入れ切れない人の受入提案があった。なのでアルトと相談し、受け入れ可との宣言をしておいた。
残りの子爵・男爵の報告は恙なく終了した。ちなみに少領の騎士爵は会議に招集されていないようだ。
最後に宰相より閉会の挨拶があり、会議は終了した。しかし立ち上がろうとした所で、宰相より声が掛かる。
「ツムギハラ伯爵とアルト殿は、申し訳無いが此処に残っていてくれ」
仕方無いので椅子に座り直し、エストさんとファルナにも空いた椅子を勧める。
そして皆が帰った後、残った宰相が近付いて来た。
「すまぬな。1つ相談があり、残って貰った」
「相談、ですか?」
「うむ。ある魔物の討伐をギルドに依頼したのだがな。ギルドによる調査の結果、統括より複数のS級パーティでも討伐は困難だ、などと匙を投げられてしまってな」
「それで私に?」
「そうだ。統括からは、人族で対処出来るのはツムギハラ伯爵ぐらいだろう、とも言われておってな。此度の件でも、騎士団が手も出せなかった屍竜を討伐してみせた。なればこそ他に選択肢は無いと思ってな」
随分と買われているが、確かに屍竜を冒険者や騎士団が対処するのは危険だ。中隊規模は必要だろうし、それでも死人は確実に出る筈だ。
「判りました。そういう事情でしたらお受けします。詳細をお願い出来ますか?」
「そうか…すまぬな。場所は南東にあるダンジョン『咎人の回廊』、その最下層に発生した変異種だ」
「変異種ですか。元の魔物は?」
「蜥蜴型の魔物だそうだ。通常種でもS級パーティでの対処が妥当との事だ」
「そうですか。ちなみに、何故国がわざわざ討伐依頼を?」
「変異種は思考も変異するらしく、いきなり地上に出て来る可能性もある。それにダンジョンのある所は、私の弟の所領でな」
「リシュアス公爵様の所領ですか。それは確かに何かあれば、国内外に影響が出ますね」
「理解してくれて助かる。食料等はこちらで準備させて貰うし、案内も付ける。急かせて悪いが、明日出発とさせて頂く」
慌ただしいが、危険な状況ならやむを得ないだろう。
「それで、私は何故一緒に同席を?」
疑問に思ったのか、アルトが訪ねた。
「夫を危険な任務に就かせるのだ、妻であるそなたにも伝えた方が良いと思ってな」
「そういうお気遣いでしたか。納得致しました」
「では明日、王都の入口に来てくれ」
そうしてその場は解散となった。
その日の夜、隣で眠っている筈のアルトが話し掛けて来た。
「…所領を空ける事が多い貴族様よね」
「それを言われると弱いな。でも仕方無いだろう?」
「それは判ってるわ。でも本音を言えば、そういう危険な仕事は後継ぎを作ってからにして欲しいわね」
「そればかりは、授かりものだからなぁ」
「だからしっかり時間を作って、励みなさいって事。だからほら、今から頑張るわよ」
「そういう言い方は、気が殺がれるから止めて欲しいんだよな…」
「女から誘わせるユートが悪いわ。観念しなさい」
そうして夜は更けて行った。
翌朝、王都の入口には2台の馬車が並んでいた。
1台は村に帰るアルトとエストさんが乗る馬車。もう1台はダンジョンに向かう馬車だ。
俺はアルトに別れを告げ、馬車に乗る。ファルナも一緒だ。
馬車の中には顔見知りが1人居た。第1騎士団長のメイヤさんだ。
「お久しぶり。今回は国からの依頼だから、案内人兼書記官として同行させて貰うわ」
「お久しぶりです。宜しくお願いします」
「貴女が水竜王様ですか。お初にお目に掛かります。第1騎士団長のメイヤと申します」
「うむ、苦しゅうない。宜しく頼むぞ」
挨拶を終え、馬車が出発する。向かうはダンジョン『咎人の回廊』だ。
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