第43話

 4層は真っ直ぐな通路が続き、両側は壁で部屋などは存在しない場所だった。そして暫く進むと壁は無くなり、広大な空間が広がっていた。

 その巨大な円形の空間では壁から水が流れ込み、広大な地底湖を形成していた。灯りを向けると水は透明度が高く、深くまで見通す事が出来た。

「この先に開けた場所がある。其処で休憩にしよう」

 スタウトさんの提案を受けて、もう少し歩を進める。

 その場所は丁度地底湖の中心で、直径10メートル程の台座のような物があった。風が冷えた湖面の空気を運び、少し肌寒く感じる。

 皆で昼食の準備を始める。そういった作業に不向きな男達は準備の間、前後の見張りを行なった。

 そして準備が終わったので昼食を頂く。硬いパンを薄目のスープに浸し、干し肉と一緒に食べる。干し肉は保存用に塩が多く使われているので、これで丁度良い味になるそうだ。

「この遺跡がかつて居住区だったと考えると、此処が水源だったのだろうね」

「ですねー。ちなみに、地下に住居を構えるのは魔族の特徴です~」

 スタウトさんの言葉にミモザさんが続ける。魔族は日光を浴びなくても大丈夫なのか。アイリさん達も地下暮らしだし、納得だ。

「相手は吸血鬼というお話ですが、何か特長があるのでしょうか?」

 ベルジアンさんの問いに、俺が答える。

「聞いた限りですと、肉弾戦も出来るけど魔法の方が得意な事、それと吸血により一時的な強化が出来る、らしいです」

「何か随分と曖昧ですね」

「四天王の中でも秘密主義だったらしく、あまり自分の事を語らなかったそうです。アイリさんも実力で四天王にはしたけど、信用はあまりしていなかったみたいですね」

「じゃあ、何か隠し玉でもあるって事か?だとすると面倒だぞ」

 俺の答えにポーターさんが続ける。確かに怪しい。最弱との話だが、警戒した方が良さそうだ。

 なおアンバーさんは、俺の隣でずっとこっちをチラチラと見ていた。顔に食べかすでも付いているのだろうか。


 休憩を終えて再開する。この層は地底湖のみのようで、通路を真っ直ぐ進むと階段があった。

 階段を降り5層に来ると、湿気が和らぐ。

 5層は3層に構造が似ている。水源に近いので、同形状の居住区を構築したのだと思われた。

 ポーターさんが先行して進む。今の所魔物には遭遇せずに順調に進んでいる。

 3層と違うのは、最奥から更に通路があり、その奥が広場になっている事だった。

 そして其処には、大型の魔物が鎮座していた。ゲームなら中ボスエリアという所だろうが、現実にも存在するのか。

 その魔物は体長5メートル程のデーモン系。イビルデーモンをそのまま大きくしたように見える。ならば警戒すべきはあの爪だろう。

「対大型のセオリー通り、魔法と遠距離で先制、近接は足を狙う!魔法は先制の一発だけにして、戦況が厳しそうなら追加を頼む!」

 スタウトさんの指示を受け、アンバーさんとミモザさん、そして俺が敵に手を翳す。

「火炎爆砕(フレア・バースト)」

「巨石落天(ストーン・フォール)~」

「竜巻風旋(エアリアル・ストーム)!」

 有効な属性が不明なので、それぞれ違う属性の中級魔法を放つ。ポーターさんは継続して矢を放っている。

 相手を見ると、どうやらミモザさんの土属性が一番効いている。ならば魔法では無く物理で攻めるべきか。

 スタウトさんとヴァイツェンさん、それにベルジアンさんが魔法を放つと同時に接近している。俺もカタナを抜き、敵に向け駆ける。

 敵の攻撃は手の爪による切り裂きと、足蹴りだ。なので2人1組になって同時に斜め後ろに回り込む。一方に対処している間に、もう一方が攻撃する算段だ。

 鎧姿が目立つのか、スタウトさんとヴァイツェンさんの方に敵が意識を向ける。その隙にベルジアンさんのメイスが足の腱の辺りを強打する。ぐしゃり、と鈍い音。骨が潰れたか。

 続いて俺は膝裏を狙う。大型相手には機動力の排除と、転倒による急所への接近が基本だ。俺の一撃は足を切断する事は出来なかったが、痛みにより片膝を着いた。

 そして下がった首と胸へスタウトさんとヴァイツェンさんの同時攻撃。攻撃は通り、盛大に血が噴き出す。

 前のめりに倒れ込んだ敵に、止めとばかりにベルジアンさんが頭を砕く。敵は一瞬ぴくりと動いたが、そのまま動かなくなった。

「やっと攻撃に参加できました!最高でしたね!」

 ベルジアンさんが満面の笑顔で言う。そう言えば、こういう人だったと思い出す。

 そして部屋の先には、6層へ続く階段。俺達はそのまま下へ降りた。

 6層は通路の左右にある部屋の間隔が広い。部屋自体が広いのだろう。魔物は部屋の奥にでも居るのか、通路には見当たらない。

 通路を進むと、丁字路に辿り着いた。

「地図だと、どちらに行っても階段がある。どっちも7層に行くようだね」

「ここからだと、今のとこどっちも魔物は見えねぇ。好きに選べば良いんじゃね?」

 スタウトさんが説明し、ポーターさんが続ける。確かに此処からでは、どちらからも気配は感じない。

「なら基本通り、右に行こう」

 迷ったらまず右に行くのが基本のようだ。右手の法則だろうか。

 右に行った結果、魔物に会う事無く階段に辿り着いた。

 階段を降り、7層へ。

 7層は真っ直ぐ通路が伸びている。恐らくもう一方の階段に繋がっているのだろう。どうやら6層と同様の構造のようだ。

 案の定、先へ進むと丁字路があった。皆で左へ曲がる。すると左右に広めの部屋が並ぶ通路になっている。此処でも通路には魔物は居ないようだ。

 結局魔物には遭遇せず、突き当りの階段に辿り着いた。そのまま階段を降り、8層へ。

 中ボス以降は順調だが、何分距離が長い。そろそろ野営のタイミングだろう。

 予想通り、スタウトさんが口を開く。

「この層の最初の部屋で野営を行なう。ポーター、確認を頼む」

「了解。っと、大丈夫だな。魔物は居ないぜ」

「良し。じゃあこの部屋で野営をしよう。ヴァイ、ポーター、ユート。僕達は周囲に魔物が居ないか確認して来よう」

 そうして4人で近くの通路や部屋に魔物が居ないか確認をする。

 確認の結果、魔物は居ないようだった。俺達は部屋へと戻った。

 天井が高く風の流れもあるので、火を焚く。此処なら酸欠にもならないだろう。

 そして食事。昼と違い、調理された物を食べる。やはり干し肉よりも焼いた肉の方が美味しい。

 スタウトさんが話し出す。

「今日の見張りだけど、組み合わせは同じで順番を変えるよ。最初はアンバーとユート、次が僕とベル、最後にヴァイとポーターだ」

 そうして、食事が終わったら俺とアンバーさん以外がテントに潜り込む。

 昨日は妙な空気になったが、今日は大丈夫だろうか。…などと懸念していたが、何気ない世間話で時間は過ぎ去った。

 俺がスタウトさん、アンバーさんがベルジアンさんを起こし、見張りを交代する。

 疲れていたのか、それとも石の床で寝るのに慣れて来たのか、俺は直ぐに眠りに付いた。


 そして夜が明けた。10層は目前に迫っていた。

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