第42話

 暁の遺跡は、広めの通路の両側に部屋が並んだ形状をしており、基本的には通路の最奥に下へ続く階段があるが、階層によっては部屋の中に階段があったりするので、最短距離で進むには地図が必須だ。

 スタウトさんが地図を持ち指示を出し、ポーターさんが先行して斥候を行なう。俺は最後尾で後方からの奇襲に備えている。

 これがダンジョン攻略なら部屋を1つ1つ探索し、宝箱を探すのだが、今回はスルーだ。

「…通路上に魔物、3体居る。デーモン系だな」

「そうか。魔法は音で部屋の魔物を呼び寄せるかも知れない。近接で倒そう。僕が1体、ヴァイで1体、ユートで1体だ。ポーターは、苦戦している者が居たらフォローしてくれ」

 ポーターさんからの報告を受け、スタウトさんが指示を出す。

 名前を呼ばれたので俺も後方から前に出る。

「3人で同時に接近する。可能なら一撃で急所を狙ってくれ」

「「了解」」

 俺とヴァイツェンさんが頷く。

「では、3、2、1、行くぞ!」

 一気に3人で通路の角から飛び出す。前方にはレッサーデーモン。散々バランタインさんとの特訓で戦った相手だ。俺は左、スタウトさんが中央、ヴァイツェンさんが右の敵に斬りかかる。

 レッサーデーモンがこちらに気付き、反撃を仕掛けてくる。だが動きが緩慢に見える。咄嗟の反応の時は爪で斬りかかって来る。その動きは知っている。

 俺は左にステップで躱し、カタナを急所である首に向けて薙ぐ。レッサーデーモンの首が飛び、身体が地に崩れ落ちる。横を見ると、スタウトさんもヴァイツェンさんも一撃で相手を行動不能にしていた。

「…良し。皆、もう大丈夫だ」

 スタウトさんの言葉を受け、皆がこちらに進んで来る。

「部位の剥ぎ取りはどうするよ?」

「不要だよ。進行を優先しよう」

 ポーターさんの問いにスタウトさんが答える。

 そしてまたポーターさんが先行し、斥候を務める。俺は隊列通りに最後尾に戻った。

 今回はあまり会話は行なわない。部屋に居る魔物を呼び寄せる可能性があるからだ。最低限、通路に居る魔物だけを相手にする。今回の作戦だ。結果的に魔法職の魔力温存にもなる。魔法はクアール討伐の要だ。

 俺は通路を歩きながら、扉の空いた部屋を通り過ぎる際に注意深く中を確認する。中に居る魔物がこちらに気付いていないか把握する為だ。気付けないと後方から奇襲を受けてしまうので、注意は必要だ。

 奇襲の際は、人命優先で魔法の使用も作戦として想定している。だがレッサーデーモン程度なら、問題無く相手取れる。音に注意する必要はあるが。

 そうしている間に、2層への階段に辿り着いた。隊列を保ったまま下へ降りる。

 2層に着くと、温度が少し下がった感じがした。そして空気が湿気を含んでいるような。

 2層を同様に進む。装備の関係上、重鎧のヴァイツェンさんが一番音を立ててしまう。だが音を出しながら動く魔物も居るので、この音だけで敵に認識される事は殆ど無い。

 今のペースなら4層辺りで休憩、7~8層で野宿になりそうだ。

 2層は1層と比べ通路が入り組んでいる。見通す先が直ぐに曲がり角だったりするので、ポーターさんの確認が頻繁になる。結果、進んでは止まる事が多くなる。

 ポーターさんの確認中にふと横の部屋を除くと、中に魔物が複数体居る。あのシルエットはアラクネだろう。こちらに気付き、近付いて来るのが見える。

「部屋の魔物に気付かれました。倒して来ます」

 俺は皆にそう伝え、部屋に飛び込む。

 アラクネは虹糸造りで散々狩った相手だ。4体居るが、問題無いだろう。

 一気に間合いを詰めて前方の1体目の顔を一突き。返す刃で右側の2体目の首を切り落とす。アラクネは頭部が弱点だ。胴体は斬っても効果が薄い。

 倒した1体目を飛び越え、3体目の頭を上から突き刺す。4体目からの腕の攻撃を横に弾き、その反動を利用して横に薙ぐ。

 頭が弱点なのは確かだが、どちらかと言えば糸線を損傷しないように戦っていた結果である所が大きい。…今日は採取は諦めよう。

 部屋を出て、隊列に戻る。問題無く倒せた旨を皆に報告した。

「ユートはやっぱり、多数を単独で相手取るのに慣れているね。バランタインさんとの特訓の成果かな?」

「ですね。逆に味方の動きを捉えながら動くのは苦手ですが」

 スタウトさんの言葉に、俺はそう返した。

 そして3層への階段は、通路の一番奥から1つ手前の部屋の中にあった。積まれた石で視界から隠れており、判り難い。

 3層へ降りる。3層は更に温度が下がり、湿度も上がったようだ。

 今度は通路が四方へ網の目のように張り巡らされている。遠くまで見渡せるが、死角も多い。地図を頼りに最短で目的地を目指す。

 途中でポーターさんが止まり、注意を促す。

「この十字路の左右、両方に魔物が居る。左に2体、右に3体。距離が近いが、素通りするか?」

「…いや、バレたら挟み撃ちになる。奇襲しよう。ユートとポーターが左、僕とヴァイが右だ」

 スタウトさんの指示を受け、俺は左側の角から先を除く。

 狼型の魔物が2体居る。今は通路の先を向いているようだ。2体の距離は近い。

 俺はポーターさんに言った。

「…同時に倒しますので、生き残ってたらフォローお願いします」

「了解だ。頼むぜ」

 ポーターさんの返事を受け、カタナを構える。

「…今!」

 スタウトさんの声に合わせ、全力で駆け出す。

 そして敵の直前で飛び、頭上から2体の首を同時に狙い、一閃。

 地面に着地して即座に振り向く。首が落ち、2体とも身体が横倒しになる。一撃で倒せたようだ。

 向いた先ではヴァイツェンさんが1体、スタウトさんが2体を倒した所だった。

「流石だな。俺は見てただけだったぜ」

「距離が近かったので、上手く行きました」

 ポーターさんの言葉にそう返す。

 そして再度進み始め、地図の中央辺りの部屋に入る。その部屋の奥に4層への階段があった。


 4層へ降りると、温度が一層下がり、空気は湿気を含んでいた。

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