第79話

 居間は居心地が悪かったので、俺はバランタインさんの部屋に戻って来た。

「あばばばばばぁっ!」

 ファルナは変わらず回避を続けている。何回かに一度は攻撃を食らっているが、ダメージは特に無いようだ。

 俺はバランタインさんに提案する。

「身体を動かしたい気分なので、お願い出来ますか?」

「ふむ、良かろう。では竜人体に成れ。その実力を見極めよう」

 俺が竜人体になると、眼前には4体の精霊が現れた。全て色が違う。4属性か。

 俺はカタナを構える。萌美の時に2体は相手にしたが、その倍か。

 まずは魔法攻撃でのダメージの心配の無い、火属性の精霊に接近する。

 ノーモーションで勢い良く炎が飛んで来るが、俺は構わずその中を抜ける。

 経験上、接近時に近接攻撃をして来る筈。其処を躱そう。

 案の定、手が伸びて鞭のように俺に向かって来る。俺はそれをギリギリで躱し、カタナを横に一閃。剣戟は胴体を裂き、精霊が消滅する。

 だが気は抜けない。水、風、土と、予想通り魔法が次々と飛んで来る。俺は大きく回避し、1体が射線に入るように位置取る。

 賭けだったが、どうやら成功だ。射線の向こう側の精霊が攻撃を止めた。他の精霊を仲間として認識しているようだ。

「獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)!」

 俺は魔法を放ち、奥の2体を巻き込む。同時に近くの1体に接近する。

 その1体は風属性だった。両手の腕が槍のように伸び、俺の頭と心臓を同時に狙う。

 俺は頭を振って躱し、胸にカタナを翳して防ぐ。威力が殺せず後ろに飛ばされるが、何とか踏み止まる。

 そして引っ込める前の手を、カタナで切り裂く。そして再度接近。次はもう片方の手だけでの攻撃なので、勢いは殺さぬまま体勢を低くして躱す。

 そのままカタナを切り上げ、股下から頭までを両断する。

 …まだ安心出来ない。残心を忘れると死にかねない。俺は自分で魔法を放った先を見やる。

 砂埃の向こうに、まだ動く者が2体。姿がはっきり見えると、身体の所々が欠けている。最上級魔法は効果はあるが、一撃で倒すまでは行かないようだ。

「獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!」

 俺は残る2体のうち1体、水属性の精霊に魔法を放つ。そして土属性の精霊に対し間合いを詰める。

 突如地面が蠢き、土の槍が無数に突き出す。俺は間一髪で上に飛び、天井を蹴って更に間合いを詰める。

 すると先程と同様に両手が槍のように伸びて来る。空中でその攻撃は拙い。

「火炎爆砕(フレア・バースト)!」

 俺は自分の真横で魔法を発動させる。爆発により身体が横に跳ね、精霊の攻撃を躱す。

 着地した俺は、精霊の手が伸び切っているうちにカタナを一閃。胴を両断する。

 カタナを構えて最後の1体に向くと、魔法が直撃し消え去る所だった。

 俺は一度大きく深呼吸し、カタナを鞘に仕舞う。

「見事。少々危ない所もあったが、我が領域も近そうだな。ファルナの特訓が終わるまでの間、続けるか?」

「はい、お願いします」

 俺はそう答え、カタナを構えた。


 其処から約10日、俺はファルナと一緒に特訓を続けた。部屋の向こうに戻り難いのが一番の理由だが、やはりバランタインさんとの特訓は楽しいのだ。

 10日目になるとファルナの悲鳴も止み、見事に攻撃の全てを躱して見せていた。

「ふはははは!下等生物共よ、身の程を知るが良いわ!」

 言う事は一々魔王的だが。

 俺は精霊6体を相手取っていた。4属性に加え、時空属性と召喚属性が混ざっている。

 この追加された2体が曲者だった。時空属性の精霊は魔力にかまけて阻害魔法を重複して放ち、召喚属性の精霊はイビルデーモンクラスの魔物を次々と召喚して来る。

 俺も同じ戦略では厳しく、最上級魔法の連打で最初に数を減らす必要があった。

 それでも数さえ減らせれば均衡が崩れるので、後は同様に1体ずつ仕留めて行く。そうして最後の1体を切り裂き、一息つく。

「そろそろ良かろう。ファルナよ、最後は魔法を使わずに全て倒してみよ」

「おお、総仕上げじゃな?任せておけ!この真・水竜王の力を見せてくれるわ!」

 ファルナはそう言うと、身軽に身体を動かしながら腕を振り、1体、また1体と爪で切り裂いて行く。訓練し始めの頃とは雲泥の差だ。

 そして最後の2体を同時に踏み潰し、決着が付いた。

「ふっ…。我が糧となるが良い」

 格好つけているが、インプは弱い魔物だ。

「良し、これでマシにはなったであろう。ユートも精霊相手は良い経験になったであろう。2人とも戻るが良い」

「有難う御座いました」

「感謝するぞ、黒竜王殿」

 そうして俺達は部屋を出た。


 部屋を出ると、真っ先にシャルトーさんが駆け寄って来る。

「水竜王様、如何でしたか?」

「うむ。お主も真・水竜王の力にひれ伏すが良い!」

「…?」

 シャルトーさんは意味が判らないとばかりに、俺に視線を向ける。

「レベル、回避、接近戦とも、バランタインさんの合格ラインをクリアしました。特訓の成果としては充分でしょう」

「そうですか!それは良かったです」

 するとファルナが声を掛けて来た。

「お主には感謝しておる。礼をせねばならん。我が住処に来るが良い」


 そうして俺達は、住処である洞窟に向かった。

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