第80話

 洞窟に到着した俺達は、ファルナの案内に従い最奥まで行く。

 するとファルナは、最奥の部屋の隅で探し物を始めた。其処は傍目にはガラクタが積み上がっているようにしか見えなかった。

「んー、これでも無いのう。これか?いや違うたわ」

 などと探し始めて暫く後、やっと目当ての物が見付かったようだ。

「おお、これじゃこれじゃ。ユートよ、こっちに来い」

 俺が言葉に従い近付くと、手に何かを渡される。見るとそれは、綺麗な青色に輝く指輪だった。

「水竜の指輪じゃ。水属性魔法の威力を増す効果がある。誰か水魔法が得意な者にでもくれてやるが良い」

「それじゃ、有り難く頂くよ」

 俺はそれをポケットに入れる。

 するとファルナが手を差し出して来た。

「それとな。これは礼になるかは判らぬが…儂ら水竜の者は、お主らとの友好を望む。何かあれば駆け付けるのでな、その時はくれてやった指輪に祈りを込めよ」

 珍しく真面目な顔をして、そう言った。

 俺は手を握り返し、告げる。

「判った。なら逆にそっちに何かあったら、俺達が助ける。その時は呼んでくれ」

「おお、有難う!ではシャルトーよ、頼んだぞ」

 そう言われたシャルトーさんは、きょとんとした顔で呟く。

「え?何を頼まれたんですか私?」

「親善大使じゃ。ユートの所に暫く滞在せよ。一緒に生活し、色々な事を持ち帰るが良い」

「突然過ぎですよ水竜王様。…まあ判りました。荷物を纏めるので少々お時間を下さい」

「こっちとしては特に困りませんが、良いんですか?」

 俺は心配になり尋ねる。

「水竜王様が断言された以上、決定事項ですからね。それにああ見えて、考え無しではありませんから」

 成程。それならこっちも拒否する理由は無い。

 そして荷物を纏めたシャルトーさんと共に、俺達は村に戻った。


 村に戻り、皆に帰還の報告をする。そして早速シャルトーさんの部屋を宛がう。

 念のため、普段は竜の姿には戻らないようお願いしておく。

 皆に不在の間の話を聞くと、第2の村の統合は完了したとの事だ。

 対して俺達の本来の目的だった素材については、兵達の訓練を兼ねて徐々に階層を進めて行く事にした。部位と採取方法はフィーリンさんから教われたので、後は実際にやらせてみて状況を判断しよう。

 そして午後の訓練と執務を終え、夕食とお風呂を済ませた俺は、アルトに呼ばれた。

 何となく話の予想は付くが、まずは大人しく部屋へと向かう。

 ノックをして部屋に入ると、寝間着姿のアルトが椅子に座っていた。

 早速とばかりにアルトが口を開く。

「姉様から話は聞いたわ。やっと手を付けてくれて、これで一安心ね」

「…ちなみにだが、どの程度聞いた?」

「それはもう、細部に渡るまで一挙手一投足を。姉様、嬉しそうに話していたわよ」

「其処は恥じらいを持って欲しいんだが…」

「諦めなさい。私と姉様との間には隠し事は無いの。これからの事も、私は姉様に報告するわ」

「これから…まあ、そうなるよな」

「あら、気乗りじゃないの?」

「俺の居た国では、アルトは未だ手を出しちゃいけない年齢だからな。流石に少しは引っ掛かるさ」

 俺は正直にそう言う。戦国時代なら兎も角、今の時代で15歳はアウトだろう。

 身体の発育は別として、精神年齢はアンバーさんよりもアルトの方が上だから、然程罪悪感も忌避感も無いのだが。

「今はこの世界に生きているのだから、諦めなさい。でなければ、私の方から夜這いするわ」

「…それは流石に情けないな。それじゃアルト、おいで」

「ええ。師匠…いえ、ユート」

 俺はアルトを抱き締める。するとアルトも手を背に回し、抱き締め返して来た。

 そのまま暫く抱き心地を堪能した後、俺はお姫様抱っこでアルトをベッドに運ぶ。

 そして両手を繋ぎ、影が重なり合った。


 翌朝。窓からの日差しを受け目を覚ます。アルトは既に起床しており、隣には居なかった。

 俺はそそくさとベッドを出て着替える。すると丁度アルトが部屋に入って来た。

「あら、お早う。お風呂は無理だけど、せめて水を浴びて来たら?」

 そう言うアルトの髪は濡れていた。先に水浴びをして来たのだろう。

「そうだな。じゃあ俺も行って来るよ」

 俺はそう返し、お風呂に直行する。アルトは普段通りだった。何だか照れ臭いのは俺だけか。

 だが、部屋を出る直前に見せたアルトの笑顔は、今までに見た事の無いものだった。

 その後、廊下を歩いているとエストさんに呼び止められた。

「ユート様にお手紙です。デルムの街の冒険者ギルドからですね」

「そうですか、有難う御座います」

 俺は手紙を受け取る。お風呂まで距離があるので、開封して中身を読みながら歩く。


 …簡潔に言うと、ランクをS級にしたいので昇格試験を受けて下さい、との事だった。

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