第78話
起床した俺は早速バランタインさんの所に行き、様子を確認する事にした。
すると、ファルナが部屋の真ん中で横たわっていた。
バランタインさんは平然としているので、怪我の類では無いのだろう。俺は近寄り、声を掛ける。
「おいファルナ、どうした?」
「…飽きた」
返って来たのは一言。まあ気持ちは判るが。
「来る日も来る日も魔物に魔法をぶっ放すだけ…。食事も保存食ばかり、顔を会わすのは黒竜王殿だけ。まるで牢獄じゃ」
俺は成長が実感出来て結構楽しいのだが、人それぞれか。
「バランタインさん、どんな感じですか?」
「レベルは充分だろう。狩りも余裕でこなせる筈だ。だが結局、近接戦闘は鍛えられなかったのでな、其処だけが不安ではある」
成程。魔法で狩りをすると、獲物を駄目にしてしまうからな。
俺はファルナに提案してみる。
「じゃあ気晴らしに、俺と近接戦をしてみるか?」
「おお?それは良いな!いよいよ儂の真の実力を見せる時が来たな!」
ファルナは乗り気のようなので、早速俺も構える。
「じゃあ当然だが、攻撃魔法は禁止な」
「承知じゃ」
…さて。流石に大怪我はしたく無いので、俺は竜人体になった。練習通り服も変わっている。
まずはファルナの動きを伺う。近付いて来るか、その場に留まるか。
「氷結晶結界陣(プリズム・ゾーン)!」
防御魔法が発動し、ファルナの周囲が障壁に包まれる。
確かに禁止したのは攻撃魔法だけだが、いきなり使って来るか。
俺はカタナを構え、障壁に近付く。最上級魔法に剣戟で効果があるのか。
俺は思い切りカタナを一閃する。ばきんっ、という音と共に、カタナが直撃した場所にヒビが入る。もう一撃加えれば割れそうだ。
なのでもう一撃。ぱりんと障壁の一部分が割れた。多重障壁なので、その内側にも障壁があるが、同じ事を繰り返せば良いだろう。
しかもどうやら、この障壁は内側からでも攻撃出来ないらしい。ファルナは最初の場所に留まったままだ。
俺は地道に障壁を割って行く。そしてやっとトンネルが開通した。俺は遠慮無く障壁の内側に入る。
「儂の最上級魔法が、只の足止めにしかなっておらんでは無いか!」
「…良かったな、この魔法の弱点が判って」
俺はそう言い、一気に間合いを詰める。近接での攻撃の選択肢は少ないが、どう出るのか。
ファルナは爪を横に薙いで来た。だが、レベルの恩恵か。想像以上に攻撃が早い。竜人体で無かったら危なかったかも知れない。
俺はバックステップで攻撃を躱し、再度間合いを詰める。
今度は上から叩き潰す攻撃が来る。俺は勢いはそのままに横に躱し、側面に移動する。
そしてカタナで脇腹辺りを突く。ファルナは回避行動が取れず、俺は寸止めをした。
「…手の動きは良くなってるが、身体が動けていないぞ」
「そりゃ特訓の間、全く動いて無かったからの!」
何故か自慢げだ。本当に終始固定砲台で頑張っていたようだ。
「これは、ランニングや体捌きをやらせた方が良いのか?」
移動時は飛ぶにしろ、身体が動かないのでは狩りも困難では無いだろうか。
バランタインさんも俺の言葉に頷く。
「そうだな。弱点がはっきりしたのだ。其処を特訓するのは当然であろう。ファルナよ、今から魔物を出す。戦わなくて良いから、可能な限り避け、逃げよ」
そう言うと、インプが12体出現する。飛んで逃げられないよう、飛行する魔物を選ぶ所がバランタインさんらしい。
「うおおい!いきなり数が多すぎるじゃろうが!少しは女性に対する心遣いを覚えよ!」
そう言いながらも、ファルナは懸命に逃げ、躱し続ける。言わば今は運動不足のような状態だ。これで少しは身軽な動きになるだろう。
「そちらで1刻程の時間で切り上げる予定だ。後は任せよ」
「はい、お願いします」
俺はそう答え、部屋を出た。
居間に行くと、アイリさん、マーテルさん、アンバーさん、萌美の4人が座って話をしていた。
俺の存在に気付くと、アイリさんが笑みを浮かべ、萌美が顔を赤らめる。マーテルさんとアンバーさんは普通だ。
…嫌な予感がする。俺は恐る恐る尋ねた。
「…何の話をしていたんですか?」
「えー、教えちゃって良いの?アンバーちゃん」
「…昨晩の、子作りの話」
アンバーさんが平然と答える。
「え、いや、それ話しちゃう?俺がズレてるのか?」
「大丈夫です。ユート様は正常です。私もこの話題をされた時は驚きました」
マーテルさんが冷静に答える。本当に驚いたのだろうか。
となると、萌美の反応も納得が行く。アイリさんは兎も角、アンバーさんの行動と反応が異常だ。
「…アンバーさん、そういう話題は躊躇ってくれませんか?恥じらいが足りませんよ」
「…余りに嬉しくて、報告してしまった。でも大丈夫。ユートが失敗した事は話してない」
「えぇ、失敗!?何したの?」
アイリさんが嬉しそうに尋ねる。これは泥沼だ。
俺は話を止めさせるのを諦め、この場を離れる事にした。
俺が離れた後も、話し声が止む事は無かった。
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