第77話
俺は早速、バランタインさんに状況を尋ねる。
「どんな感じですか?何か悪乗りしてるようにしか見えませんが」
「うむ。やはり魔法に秀でており、本人もそれを自負しているようでな。魔法を使わせている限りはあの調子だ。最初の時よりはマシだろうて」
まあ進歩の見られない近接戦よりは、レベルが上がっている分良いのだろう。
「何じゃユートよ、何なら再戦するか?今なら儂が勝つぞ!」
ファルナはどうやら自信満々だ。
「…どの位強くなったんですか?」
「レベルが倍程度か。魔法の威力は相当増している。だがお前の竜人体なら余裕だ。今のままでも、懐に入り込めれば勝ちだろう」
「となると、水竜王を名乗るには未だ弱いですね」
「そうだな。精霊と同等で竜族の最低ラインだ。八大竜王なら神霊と並ばなくてはな」
今回の特訓では、流石に其処までは到達出来ないだろう。成長後に狩りを頑張って貰うしか無いか。
「じゃあ、そのまま特訓を続けていて下さい。俺はちょっとやりたい事があるので、隅の方を使わせて貰います」
「承知した。ファルナよ、続けるぞ」
「おお、任せておくが良い!」
俺はそのまま部屋の隅へ行く。シャルトーさんに教わった、竜玉に服を収納し、引き出す方法を試してみるのだ。
あくまで感覚的な説明だったのだが、竜になる時は竜玉に服が吸い込まれるイメージをするらしい。そして竜人体になる時は、竜玉から服を引き出すイメージをするそうだ。
俺の場合は、収納と引き出しを同時にやる必要がある。今着ている服を収納し、収納していた服を引き出すのだ。
まずは今の状態から竜人体になる際に、着ている服を収納する所からだ。
身体強化の魔力濃度を上げながら、竜玉に服が吸い込まれるイメージを強く持つ。
身体が赤く光り、竜人体になった。服は…着ていない。裸だ。思ったより簡単に成功したようだ。
俺は荷物から竜人体用の服を取り出し、着用する。問題は次だ。
身体強化の魔力を落としながら、同様に竜玉に服が吸い込まれるイメージを、そして竜玉に収納してある服を引き出すイメージを強く持つ。
光が収まり、元の姿に戻る。自分を見ると、収納していた服を着ている。成功だ。
これで竜人体になる時に、着替えを気にする必要が無くなる。中々便利だ。
念のため、暫く何度か竜人体になり、元に戻る事を繰り返す。結果、全て問題無く成功した。これで大丈夫だろう。
「バランタインさん、俺の用事は済んだので戻りますね。後は宜しくお願いします」
「任せておけ。気が向いたらまた様子を見に来い」
俺はその言葉を聞き、部屋を出た。
バランタインさんとファルナを除いた全員で、夕食を囲む。相変わらずマーテルさんの食事は美味しい。
そしてお風呂に入り、宛がわれた部屋に入る。
すると、ベッドにアンバーさんが座って居た。
「…作戦通り」
「いや、いきなり作戦ってバラすんですか?」
アイリさんと組んでの作戦だろう。まさかこう来るとは。
「理由はある。私が最初、アルトが2番目。今のままだと、アルトが待ち続ける事になる」
「…その順番は、何ですか?」
「…子作り」
そう来たか。ネタで繰り返しているのかとも思っていたが、どうやら本気だったようだ。
だがそうか。身分上アルトが正妻だが、そっちの順番は年齢順か。
既に2人とは婚約し、近々結婚するのだ。いい加減俺も、覚悟して踏み込む必要があるのだろう。
俺はアンバーさんに近付き、その身体をしっかりと抱き締める。
「…ユート」
アンバーさんが俺の耳元で呟く。
「俺も不慣れですけど、大事にしますから」
「…ん、大丈夫」
そうして、俺達は2人でベッドに倒れ込んだ。
翌朝。俺はいつも通りの頃合いに目を覚ます。
ふと横を見ると、アンバーさんは未だ眠っている。穏やかな寝顔。
冷静になると、これはかなり気恥ずかしい。と言うか、1人で起きて良いのか?それともアンバーさんが起きるまで待つべきか?
などと考えていると、丁度アンバーさんが目を覚ました。
「…ユート、お早う」
そう言うアンバーさんも照れ臭いのか、顔が赤い。
「ああ、お早う」
…さて。
今はお互い裸だ。俺は先にベッドから出て着替える。
そして気を利かせ、アンバーさんに言った。
「俺は先に部屋を出てるから。ゆっくり着替えて」
「…見ないの?」
「朝っぱらから何を言ってるんですか。歯止めが効かなくなるので駄目です。他人の家なんですから」
「…そう。判った」
納得してくれたようなので、俺は部屋を出る。
すると、アイリさんが意味有り気な笑みを浮かべていた。
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