第156話
街に戻った俺達は、先ず冒険者ギルドに行き依頼達成の報告を行なった。山賊の首なぞさっさと手放したい、というのが本音だ。
更に武器屋と道具屋へ行き、宝石類と装備品を売り払った。そして最終的に得たお金は、澪と周藤さんとで折半にして貰った。これで当座は充分に凌げるだろう。
程良く日も暮れたので、同じ食事処に向かう。
周藤さんは暫く手が止まっていたが、吹っ切れたのか突如ハイペースで食事を食べ始めた。これならトラウマにもならなそうだ。
落ち着いた所で、俺が話しを切り出す。
「今後の事ですが、幾つか選択肢があります。まず一つは、澪のように冒険者として生活する事。充分依頼をこなせる事は、今日見させて貰いました。地道に続ければ生活も楽になる筈です。魔物を相手にするのが嫌でなければ、ですが」
「ええ。弓さえ使えれば、ちゃんと自分でも戦えるのは判ったわ」
「次は、私兵として雇われる事。解雇された経験があるから忌避感もあるでしょうが、例えば私の所なら弓兵として雇います。訓練も先ずレベル上げと身体強化の習得を行ないますので、付いて来れないという事はありません。戦争に駆り出される可能性はありますが」
「走ったり槍を振ったりしなくて良いのなら、続けられそうね」
「そして最後。戦いに身を置かず、一般人として生活する事。恩寵は無駄になりますが、魔物や人を相手にする事はありません。何かしら仕事を探す必要はありますが」
「…日本に居た時のように暮らす、って事ね」
「大雑把ですが以上です。考えてみて下さい」
すると澪が口を挟んだ。
「私の時には、3番目の選択肢は無かったのだが?」
「既に戦いを楽しんでたからな。なら恩寵を活かせる提案をするのが筋だろ?」
「…成程。納得した」
周藤さんは暫く思案顔を浮かべていたが、やっと口を開いた。
「取り敢えず一晩、考えさせて貰えるかしら」
「良いですよ。焦らずに検討して下さい」
そうして俺達は食事処を出て、解散した。明日の朝に此処に集まる事にした。
俺達は宿屋に向かい、一泊する。周藤さんは澪の泊まっている宿屋に向かったようだ。
「それで、兄貴はあの人を雇うんすか?」
「本人が希望すればな。こっちから強要する気は無いよ」
「個人的に、美人が増えるのは大歓迎っすよ。日々の頑張りには彩りが必要っす!」
祥は拳を握り締め、力説していた。そんなに大事な事なのだろうか。
そんな考えを読まれたのか、言葉を返された。
「綺麗どころを嫁にしてる兄貴には、俺達の気持ちは判らないっすよ」
俺達って…お前以外にも何人も居るのか。訓練時にはそんな気配は無いのだが。
俺は深く追求するのを止め、布団に潜り込んだ。
翌朝。食事処に再度集まった俺達は、朝食を食べながら周藤さんの結論を聞く事にした。
「色々考えたけど、戦う事自体は覚悟したわ。でもなるべく早く生活を安定させたいから、私兵を希望したいわ。貴方の所で雇って貰えるのよね?」
「ええ。私の部下として中隊長・小隊長の下に就く事になります。給与面での待遇も、他家と比べて良い方ですよ」
「なら決まりね。宜しくお願いするわ」
横で祥が隠れてガッツポーズをしている。見なかった事にしよう。
過剰戦力な為に昨日も出番の無かったサイードは、今日も無言で朝食を食べている。存在自体を忘れそうになる静かさだ。
「なら、私も連れて行って貰えないだろうか」
突如、澪から提案があった。
「いつか顔を出すとは言っていたがな、冒険者として生活していると中々行ける機会が無い。ならばこの機に訪問させて貰おうと思ってな」
「そうか。こっちとしては大歓迎だが…サイード、4人でも大丈夫か?」
「問題無い」
なら大丈夫だ。4人乗れるなら直ぐに帰れる。
俺達は朝食を終えると村の外に向かい、サイードに竜に成って貰う。そして全員で乗り村へと向かった。
村に戻った俺達は早速兵舎へと向かい、リューイを呼ぶ。そして周藤さんを弓兵として雇う事を伝えた。
「そうですか。…私はリューイ、中隊長を務めている。これから宜しく頼む」
「周藤 久子よ。宜しく頼むわ」
「まだレベルが低いから、当面は訓練でのレベル上げを重点にしてくれ。だが後方からの遠距離攻撃だから、遠征も早い段階で連れて行ける筈だ」
「判りました。…ではこっちへ、部屋に案内する」
さて、これで後は任せても大丈夫だろう。
俺は澪を連れてアルトの元に向かった。そして周藤さんの件も含めて報告する。
「そう。ユートの判断なら問題無いわ。で、そちらがミオさんね。客分扱いで良いかしら?」
「ああ、それで頼む。訓練とかに参加して貰う予定だ」
「了解したわ。…ミオさん、ようこそ私達の村へ」
「ああ、宜しく。…貴女は侑人の上司か?」
「いいえ。共同領主であり、第一婦人よ」
「何と…。侑人、結婚していたのか。しかも第一という事は、第二も居るのか?」
「第四婦人まで居るわ。うち2人は貴女と同じ転移者よ。どう?第五婦人にでも立候補する?」
「それは魅力的な提案だな。強い相手と戦えて、生活にも困らないとは。悩む所だな…」
「頼むから、悩まないでくれ…」
俺を見る八重樫さんの目は、若干冷たかった。
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