第155話

 岩陰からその先を覗くと、山賊達は地面に座り込んで食事をしていた。

 丁度大きな岩同士の隙間に居り、周囲からは見付かり難い。それがこの場所に陣取っている理由だろう。

 俺は澪に声を掛ける。

「山賊の討伐証明は?」

「生死問わずだからな、首が証明になる。手間を惜しまなければ、捕縛という方法もあるのだが…」

「人数的にこっちが少ないからな、逃げられる可能性が高いか」

「そういう事だ。なので近接がそれぞれの逃げ口に先回りし、遠距離攻撃で先制するのが最適だと考える」

「それが良さそうだな。祥、頭が原型を留めないような魔法は控えてくれ」

「了解っす。水属性にしときますよ」

 そして俺は不安そうにしている周藤さんに向く。

「…どうしても無理なら止めても構いません。人を殺さない生き方もありますから」

 しかし彼女は悩んだ末、真剣な表情を見せた。

「私もこの世界で生きて行くんだから…、やります」

「…判りました。では俺と澪は下に行きますので、合図をしたら2人で攻撃を頼みます」

「了解よ」「任せて下さいっす!」

 2人の返事を受け、俺と澪はそれぞれの岩陰に向かう。

 そして丁度上の2人から見える位置で、手振りで合図を出した。

「…行けっ!」

「氷結連槍陣(フリーズ・ファランクス)!」

 放たれた矢が1人の頭を貫き、地面から飛び出た氷の槍が3人を穿つ。

 その間にも周藤さんは次の矢を放ち、もう1人も地に伏せた。

「襲撃だ!生きている奴ぁ逃げろ!」

 その声に残りが二手に分かれる。俺の方に3人、澪の方に2人が向かった。

 俺は逃げる3人の前に立ち、無言でカタナを抜く。山賊達の表情が絶望に歪んだ。

 その状況を破ったのは、先程も逃げるよう声を出した男だった。

「仕方無え、こいつを殺って逃げるぞ!同時に掛かれ!」

 そして3人とも似た曲刀を構え、俺に襲い掛かって来る。

 竜人体に成るまでも無い。せいぜい冒険者でも中堅程度だろう。

 俺は山賊達の剣が振られる前に、全員の首を落とした。見ると澪も2人目に止めを刺した所だった。

 俺は斬り落とした首を持ち、澪の所へ向かう。

「どうだった?」

「手応えが無かったな。遅かれ早かれ誰かに討伐されていただろう」

 俺は上の2人に、下に降りて来るよう声を掛ける。

 澪が用意した麻袋に、俺はまず自分が殺した分の首を入れて行く。

 そして俺のカタナを祥に渡す。

「初めてで辛いかも知れないが、責任を持って最後まで処置するんだ」

「…了解っす」

 そう答えると、祥は自分の魔法で倒した山賊の首を落とし始めた。その光景を見た周藤さんが、顔を真っ青にして蹲る。

 この感じだと、葬式とか以外で人の死体を見るのは初めてなのだろう。刺激の強い光景だが、甘えさせる訳には行かない。

 祥が首を3つ落とした所で、カタナを受け取る。俺はそれを今度は、周藤さんに差し出した。

「…判り、ました。やり、ます…」

 そうして矢で頭を貫かれた2人の死体に向かう。多少はレベルが上がっているので、首を落とす位は可能だろう。

 彼女は何とか鋸のようにして首を落とし、麻袋に入れた。

 そこまでが限界だったのか、堪らずその場で嘔吐した。初めてでこれなら上出来だろう。寧ろ泣いて慰められた俺の方が情けない位だ。

 ついでに換金出来そうな宝石類、それに金貨と装備品を拾う。駆け出しの支度金としては充分な筈だ。

 周藤さんは祥が背中を擦ってやっているので、任せる事にする。

 俺は首の入った麻袋を背負う澪に話し掛ける。

「重そうだな、俺が持とうか?」

「いや、身体強化のお陰で苦では無い。私の受けた依頼だからな、其処は責任を持つさ」

「なら良いか。ちなみに魔法は覚えられたか?」

「魔導書を買う資金を貯めている最中だ。流石に余裕という訳でも無いしな」

「そうか…ならこの依頼、1人でどうやるつもりだったんだ?」

「隙を見て特攻。混乱している内に全員を斬り伏せるつもりだったぞ」

「…まあ、この実力差なら可能か」

 それに相手が女性1人となれば、逃げずに相手取りそうだ。

 すると周藤さんが祥と一緒にこちらにやって来た。まだ顔色は悪いが、向けられた目はしっかりしていた。

「ふう…、もう大丈夫。御免なさいね」

「いえ、当然の反応ですから問題無いですよ。…というか、祥は思ったより平気だな?」

「散々グランダルとの戦争の話とか、同僚から聞かされてましたからね。覚悟は出来てたっすよ」

「そうか。じゃあ澪、戻るとするか」

「ああ。皆、お疲れ様」


 そうして俺達は街へと帰って行った。

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