エピローグ

 来賓の最上位という事で、教主が前に出て口を開いた。

「それでは…白竜王様と黒竜王様の御復活を祝って、乾杯!」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 会場となった館のホールに、大勢の声が響く。

「…まさか、このような結果になるとはな」

 バランタインさんが感慨深げに呟く。

「そうですね。女神様も、良く叶えたものです」

 白竜王が言葉を返す。正直言って、俺も同感だ。

 光の塔を踏破した俺達は女神エフィールと面会し、同行した3人に願いを叶えて貰ったのだ。

 まず一つ、竜族でも願いを叶えてくれるのかという心配があった。そしてもう一つ、2人を復活させてくれるのか。懸念点は其処だった。

 だが竜族の願いも叶えてくれたし、2人の復活も元の姿に戻すだけなので、すんなりと受け入れられた。

 その結果、この今の場がある訳だ。

「…まさか私も開放されるとは。感謝するだけでは申し訳無い程だ」

 ラドホルトさんも感極まったように言葉を発した。

 女神への願いは2人の復活だけでなく、彼を元に戻す事もあったのだ。

 2人の竜による世界の監視は元通りやって貰うが、強硬な手段は取らない事。それを確約して貰ったので、ラドホルトさんもこうやって戻って来れたのだ。

 其処へ教主が近付いて来た。

「壮観じゃのう。此処まで世界の根幹と関わった人族は、お主だけじゃろうて」

「今回は色々と助かりました。何かお返し出来ればと思うのですが、何か御座いますか?」

「そうじゃの。…正教国は後日、正式に貴国に同盟を申し入れる予定じゃ。その時は親善大使として取次を頼むぞ」

 その言葉に俺は驚く。

「…野心は捨てられたのですか?」

「違うわい、世界最強を敵に回さぬ為じゃ。お主の居る限り、王国に手は出せぬからのう」

 そう。彼の言う通り、白竜王の竜玉も取り込んだ俺は現在世界最強らしい。実感は無いが。

 それに1人で出来る事は限られている。今まで通り、皆を鍛えて行き村を発展させるだけだ。

 竜族同士の関係も変わって来ているらしく、フレミアス達と幻竜王が一緒に居る。幻竜王は気難しい表情をしているが、会話は弾んでいるようだ。

 ファルナはスターレンさんに言い寄られているようだ。…見なかった事にしよう。

 俺は挨拶を交わしながら人混みを抜け、妻達の居る所へとやって来た。

「突貫でのパーティだったけど、上手く行っているようで安心したわ」

 アルトが周囲を見渡し、そう呟く。急遽俺が決めた事だったが、大半は彼女が仕切ってくれたのだ。

 アンバーさんは、スタウトさん達と会話に花を咲かせている。

 萌美と楓、それに桃華は、祥と周藤さんに加え澪も混ざって歓談している。同郷同士、思い出話でもしているのだろうか。

 ふとアルトが俺の手を握る。

「これでひと段落ね。次は後継ぎを頑張って作らないと。このままじゃ、クリミル家とツムギハラ家が両家とも断絶しちゃうわ」

「…こんな場でする話じゃないだろ」

「あら、夜の睦言を話している訳じゃないわ。貴族の責務の話よ」

 彼女はくすりと笑いながら言う。からかい半分なのだろうか。

 俺は今のような関係のまま、これからもずっと一緒に居られる事を願った。



 アーシュタル王国の西、正教国との国境近くに1つの都市がある。

 公爵まで上り詰めた者とその妻が共同領主となり運営しているこの都市は、わずか10数年で村から此処まで発展したと言う。

 此処は同盟を結んだ正教国との物流拠点であり、西方を睨む橋頭堡でもある。

 その都市の中央にある領主館で、彼は窓の外を見やった。

「…随分と発展したものだな」

「あら、まるで他人事ね。一緒に頑張った成果でしょう?」

「正直、目先の事を頑張って来ただけだからな。この結果は想定外だ」

「まあいいわ。子供達の訓練の時間よ」

 改めて外を見ると、広場に子供達が集まっていた。

「そうか。皆筋がいいからな、将来が楽しみだ」

「貴方の遺伝なのかしらね?私でも負けそうになるわ」

 そんな言葉を交わしながら、2人で執務室を出て外に向かう。

 既に彼の他の妻達は子供と一緒に集まっており、武芸顧問のラドホルトも一緒だった。

 彼は皆の前に立つと、手を叩き声を挙げた。

「良し、それでは今日の訓練を始める。まずは素振りから、始め!」

 そう告げる彼の頬を、春を告げる暖かい風が通り過ぎる。

 この都市は彼ら家族と共に、これからも更に発展して行くだろう。女神から与えられた縁によって、物語が紡がれるように。



 縁が紡ぐ異世界譚   - 完 -

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縁が紡ぐ異世界譚 龍乃 響 @hibikisa

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