第115話
俺は竜人体から元に戻り、一息ついた。やはり大型の魔物は攻撃が通り難くなるので、倒すのも一苦労だ。
2人がこちらに戻って来る間に、俺は魔素増幅装置を魔法で破壊する。これで魔物も増え難くなり、外へ出て来る事も滅多に無いだろう。
近付いて来た澪が、驚いた表情で話し掛けて来る。
「女性の姿に変わるとは…。あれが貴方の恩寵なのか?」
「いや、あれは転移時の事故みたいなものだ。恩寵は別にある」
「そうか。私など到底及ばない強さだった。感服したぞ」
「ああ、有難う。魔物が溢れていた原因も破壊したから、これで今後は大丈夫な筈だ。後は念のため、ギルドにこのダンジョンを教えておく位か」
ギルドが把握していれば、定期的に間引きも行なわれる筈だ。
「さて、それじゃ地上に戻るか」
俺はそう言い、階段に向け歩き始める。
そして地上に出た頃には、外は暗くなっていた。
村までの距離は近いが、この暗さで森を抜けるのは危険だと判断し、ダンジョンの入口前で野営を行なう事にした。
見張りは澪、俺、楓の順番になった。ダンジョンの中では無いので、1人ずつでも大丈夫だろう。
「…そろそろ時間だ。起きてくれ」
澪に肩を揺すられ、俺は眼を覚ます。どうやら交代の時間のようだ。
「ああ、お早う。何かあったか?」
「いや、問題無しだ。魔物は一度も来なかったぞ」
「そうか。じゃあしっかり休んでくれ」
俺はそう答え、気配感知を限界まで広げる。範囲内に魔物は居ないようだ。
すると澪が話し掛けて来た。
「少しだけ話をしたいのだが、良いか?」
「俺は別に構わないが」
「じゃあ聞いてくれ。…今後の事についてだ」
澪はそう言うと、真剣な表情を浮かべた。
「これであの村に留まる理由は無くなった。だが、私はその後の事を何も考えていなかった。なので、何かアドバイスが欲しい」
「アドバイスか。んー、まずは何をして生きて行くかだな。糧を得る手段が必要だ」
「手段か。折角なら、この恩寵の力を活用したいが」
「なら冒険者だろうな。兵士とかの選択肢もあるが、槍以外で戦う可能性もある。それなら武器を自由に選べる冒険者が向いているだろう」
「そうか。どうすれば冒険者になれる?名乗った者勝ちか?」
「冒険者ギルドに登録すればOKだ。その強さなら、俺が推薦状を書けばC級からでも大丈夫だろうしな。何か事情が無い限り、この国にも冒険者ギルドはあるだろう」
「成程。ならば推薦状を頼む。ギルドの場所は村で聞いてみよう」
「そうだな。ついでにこのダンジョンについても報告する必要があるしな」
「…これで安心出来た。有難う」
澪はそう言い横になり、直ぐに寝息を立て始めた。
俺の見張りの間も、魔物は一度も来る事は無かった。一度感知範囲ギリギリの所を魔物が数匹通ったが、そのまま通り過ぎて行った。
俺は楓の肩を叩き、声を掛ける。
「楓、そろそろ交代の時間だ。起きられるか?」
すると楓は半身を起こし、未だ眠そうな目を擦った。
「あー、…おはよう、ございますぅ…」
「ああお早う。…見張り中に寝ないだろうな?」
「大丈夫、です。…低血圧なもので」
楓はそう答え、頭を振る。覚醒までに時間が掛かるようだ。
流石にこのまま任せるのは心配なので、少し待つ事にする。
楓は体勢を変えないまま、徐々に目だけが開いて行く。
そして目が開き切ると、びくっと一度身体を震わせた。そして口を開く。
「あっ、お早う御座います!はい、起きました!」
「判ったから声を少し抑えろ。澪が起きるぞ」
「はっ、す、すいません…」
「まあ良い。見張りの交代だ。大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。…あの、直ぐに寝ますか?」
「問題無さそうだから寝るつもりだが…何かあるのか?」
「もし良ければ、相談に乗ってもらいたくて」
澪と言い、今日はそういう日なのだろうか。まあ少しなら良いだろう。
「で、どんな内容だ?」
「あ、あの…好きな人が、居るんですけど…」
「…早いな。いや普通なのか?」
この世界でなら結婚も考える年齢なのだろうが。
「それでですね、どうすれば振り向いて貰えるのかな、と…」
「俺も実体験でしか語れないが…兎に角アタックするしか無いんじゃないか?」
「…それでも中々気付いて貰えない場合は?」
「んー、誰かに手伝って貰う、とかか?」
「そうですか、判りました!有難う御座います」
「あ、ああ…」
どうやら本人が納得したようなので、俺は眠りに付いた。
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