第148話

 俺はギルドより派遣された魔導士を引き連れ、シュタイン子爵の村を訪れていた。

 早速俺は千里眼を発動し、竜玉の存在する箇所に旗を立てて行く。最終的に数は12箇所に及んだ。

 そして指示を出し、深さの浅い所から掘り起こしを開始する。

 俺は竜人体に成り、近くで待機している。屍竜が出現した場合の備えである。

 暫くして、1体目の遺体が発掘された。身体の半ば程が腐肉に覆われている。

 俺は次の箇所の掘り起こしを指示し、単独で1体目に近寄った。

 腐肉で全体が覆われないと屍竜に成らないのか、動く気配は全く無い。俺は早速手を伸ばし、鈍く黄色に光る竜玉を掴み取る。

 手持ちの袋に入れようとすると、あの時と同じように竜玉は手を離れた、そして俺の鳩尾の辺りに沈み込む。

 激痛が身体を包む。だがこうなる事を予想していたからか、何とか気絶せずに耐える事が出来た。未だ痛みが引かないので、暫くその場に蹲る。

 痛みがやっと引いて来たので、俺は立ち上がる。どうやら否応なく竜玉を取り込んでしまうようだ。地竜王の所に持参するのは無理そうだ。

 しかし放置しておく訳にも行かないので、再発防止の為にも同様に取り込む事にする。

 その後、同じルーティンで幾つか竜玉を取り込んだが、鳩尾の辺りが出っ張る気配は無い。物理的に取り込んでいる訳では無いのだろうか。

 だが確実に魔力量は増大している。この分だと作業前の数倍になるだろう。

 魔導士達の魔力量の問題もあり、途中に休憩を挟みつつ作業を継続する。

 そうして日が暮れ始めた頃には、最後の1箇所に取り掛かり始めた。

 此処は一番深く、約10メートル程掘り下げる必要があった。なので俺も地属性魔法で作業を手伝う。

 するとしっかりと腐肉に覆われた身体が掘り起こされる。そして突如身体をもたげ、こちらに目を向けた。

「後退し防壁を展開!」

 俺の声に皆一斉に退き、土壁を展開する。穴の深さがあるので大丈夫だろうが、念のためだ。

 俺は穴の中に飛び降りる。以前に討伐した屍竜よりも一回り以上大きい。かなり年齢を重ねた個体なのかも知れない。

「獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)!」

 倒し方は以前の戦いで把握している。先ずは腐肉を削ぐため、火属性魔法を連発する。

 穴の中なので熱が籠るが、今の姿なら耐性があるので問題無い。魔力増加により魔法の威力も増したので、どんどんと腐肉が削がれて行く。

 そして腐肉が無くなったら、間合いを詰めて手足を攻撃。その動きを止める。ものの数撃で骨が砕かれて行く。身体強化の魔力量も確実に増しているようだ。

 足を砕き、横倒しになった所に飛び乗る。そして竜玉に手を伸ばし、掴み取った。

 竜玉はまたも鳩尾の辺りに取り込まれ、今日一番の激痛が走る。痛みは魔力量に比例するのか。

 何とか耐えた俺は、穴の外に跳躍して出る。そして皆に無事討伐が済んだ事を伝えた。

 これで今後、この村で毒沼と屍竜の発生は起きないだろう。

 魔導士達とは現地で別れ、俺は先ずシュタイン子爵の屋敷に向かう。

 其処で無事再発防止の処置が完了した事を伝えた。大いに感謝されたが、地下水汚染の問題もあるのであの村は放棄し廃村にするそうだ。

 そして自分の村に戻った俺は、サイードに声を掛けた。

 早速竜に成って貰い、地竜王の住処へと向かう。今回の件を報告しておく為だ。

 縦穴に降り立った所でサイードを待たせ、俺は奥へと向かう。

 地竜王は以前と変わり無く、同じ場所に座していた。

「また顔を出すとは…何かあったか?」

「今日は報告に参りました」

「…同胞の気配がするな。関係あるのか?」

「はい、実は…」

 俺は以前に屍竜を討伐し竜玉を取り込んだ件、それと本日の件について説明をした。

「ふむ…竜玉を取り込むとは特異な性質だが、案ずるな。『竜玉継ぎ』は自らの竜玉にしか使えぬ。もし竜玉を持って来られても、復活させる事は出来ぬ」

「そうですか。それだけが気掛かりでしたので、安心しました」

「そうか。…それで幻竜王の件はどうなった?」

「狙われていた3竜王につきまして、その実力を認めさせる事は出来ました。後は白竜王様の判断次第です」

「そうか。ならば時間の問題だ、安心せよ」

「…1つ懸念点はあるのですが」

 俺はそう正直に呟く。

「お主の魔力量についてか?」

「はい。竜玉を取り込んだ事で、以前の3倍以上になりました。それで再度目を付けられそうなんですが…」

「他の竜王に手出し出来ぬ存在が居ようとも、白竜王様か黒竜王様が対処可能なら問題無い。お主と同様の存在が何人も出てくれば別だろうがな」

「そうですか。では問題無いだろうと割り切っておきます」

「それが良かろう。此度のように世代交代が重ならねば騒ぎはすまい」

 これで報告は無事に済み、不安材料も多少は払拭された。

 俺は地竜王に別れを告げ、サイードと共に村に戻った。

「有難うサイード。これからも何かあれば頼むよ」

「いや、力になれるのなら幾らでも。助けて貰った礼も未だだしな」

「そうだ、魔法は得意か?」

「幻竜族は基本的に近接戦よりも魔法が得意だが…」

「なら神代級魔法を覚えるか。ファルナと同様、実力を示す事になる筈だ」

「成程…でも良いのか?只の客分の俺に」

「それを言うならファルナも一緒だ。それに俺の敵になる訳じゃないだろう?」

「…そうだな。ならば是非頼む」


 そうして俺は、今度はサイードに神代級魔法を覚えさせる事にした。

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