第66話
その日の夜、私は皆を部屋に集めた。
師匠は正教国との戦争回避の功績により、王都に呼ばれ今朝出発した。そして元聖女のモエミも同行している。
今この場には、姉様とエスト、それにリューイとカエデが居る。
私は今回の件について口火を切る。
「…そういう訳で、非常事態よ。皆の知恵を借りたいわ」
私の言葉に、姉様を除く3人はきょとんとしている。
「あの、全く意味が判らないのですが」
リューイがおずおずと手を挙げ、言う。そう言えば事情を話していなかったか。
「前提条件として、師匠には私と姉様を貰って欲しいのよ。でも強敵が現れた。此処までは判る?」
「初耳かつ衝撃発言で、理解が追い付かないのですが…」
リューイは混乱しているようだ。私はカエデを見た。
「あの、師匠って…主様の事ですよね。え、そういう関係だったんですか?」
「未だよ。そういう関係になれるよう、頑張っているの」
私はそう答える。
「強敵と言うのは、聖女様の事ですか?」
「元、よ。聖女で良かった事なんて無いみたいだから、ちゃんと名前で呼んであげなさい」
「判りました…。それで、非常事態とは?」
「モエミは師匠に助けられたわ。その前の境遇も相まって、師匠に依存し始めている。あれは直ぐにでも恋愛感情に変わるわ。恐らく王都への道程ででも」
「…流石に早計では?」
エストが冷静に呟く。この中では最年長だから頼りにしているのだけど。
「師匠と一緒に行くと決まった時の、モエミの表情を見なかったの?あれは今までで一番の笑顔だったわ」
「今までと言いますが、たかだが数日でしょう」
エストは常に冷静だが、今日は何故か冷たい感じがする。…呆れているのだろうか。
「色恋に日数は関係無いわ。そうでしょう、カエデ?」
「え、何で私に聞くんですか?」
「だって、カエデも師匠の事を好きでしょう?」
「え、あ、な、何言ってるんですか!?」
カエデは顔を真っ赤にして否定する。バレバレではないか。
「リューイは…ちょっと違うわね」
「尊敬はしていますが、恋愛感情までは…」
「エストは…」
「興味ありません」
「…という訳で、カエデは要注意、モエミは非常事態なのよ」
「さらっと確定事項にしないで下さいー!」
さて、カエデの苦情は兎も角。今の状況は皆も理解しただろう。
「それで話は最初に戻るわ。非常事態なの。皆の知恵を借りたいわ」
私がそう言うと、エストが口を開いた。
「…具体的に、達成要件を提示して貰えませんか?いきなり結婚という話でも無いでしょう」
「…そうね。…姉様、どう?」
私は一言も喋っていない姉様に話を振る。
「…子作り」
「貴族は結婚、せめて婚約してから子作りでは?」
エストは突っ込みも冷静だ。そして姉様は相変わらずだ。
「あのー」
カエデが手を挙げる。
「やっぱり、先ずは告白かと思うのですが…」
成程。確かに思いを伝えるのが先決か。
「じゃあカエデ。貴女なら、どう伝える?」
「え?あ、あの…す、好きです、と…」
カエデの顔は真っ赤だ。こちらが告白されている気分になる。
「リューイはどう?」
「カエデと同意見ですが、もう少しこういう所が好きだ、とか伝えると良いかな、と思いますが…」
「成程。エストは?」
「いっその事、告白では無く求婚でも良いのでは?」
皆の意見が揃ったようだ。纏めよう。
「では、結論としては…はい、姉様」
「…告白して、求婚して、あわよくば子作り」
…姉様は欲求不満なのかしら。
「…子作りは兎も角、その流れで行きましょう。師匠が帰って来たら即行動を起こします。…カエデも混ざりますか?」
「え、良いんですか?」
「…やっぱり」
「え、あ、違っ!つい!」
モエミとの進展具合も気になるが、行動を起こす事は確定だ。
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