第74話
さて、取り敢えずの方針は決まった。水竜王を無理矢理引っ張り出し、鍛えるだけだ。ネックはしきたりと、本人のやる気だが。
「そういう訳でだ。引っ張り出す事でしきたりを破る事になる。だが其処は先代の意思にも沿っているという事で、皆を説得してくれ。一斉に敵対されたら敵わないからな」
「判った。説明して来るから、待っていてくれ」
そう言い、シャルトーさんが洞窟へと入って行く。
そして暫くして、シャルトーさんが洞窟から出て来た。
「説得が終わったぞ。皆も同じ思いだったようでな、あっさり納得してくれたぞ」
「それは僥倖だ。じゃあ俺達も行くか」
そうして俺達も洞窟に入って行き、最奥に向かう。
そして再度水竜王に向き合う。見た目は12歳位か。髪を左右で結んでおり、シャルトーさんと似た衣装を着ている。今は寝転がっており、生意気そうな雰囲気を漂わせている。
「そう言えば、水竜王の名前は何て言うんだ?」
「ファルナ様だ」
「そうか。…良し、ファルナ。今から外に出るぞ」
俺がそう言うと、ファルナは顔を背けた。
「そんなん嫌じゃ~」
相変わらずダラダラした返事。これは本格的に矯正が必要なようだ。
「嫌なら嫌で構わない。力づくで連れて行くぞ」
俺はそう言い、彼女を持ち上げて肩に担ぐ。…軽いな。竜の時の質量は何処に行っているのだろう。
「はーなーせー!無礼者ー!」
そう言うや否や、手が出る足が出る。俺は頭を叩かれ、頬を膝蹴りされる。耐えられる痛みだが、鬱陶しい事この上ない。
仕方無く俺は彼女を降ろし、訪ねる。
「じゃあ、どうすれば大人しく付いて来るんだ?」
「ならば儂を倒してみよ!さすれば従ってやるぞ!」
シャルトーさんが弱いって言ってたと思うんだが、何か自信があるのだろうか。でも好都合だ。
「良し、なら勝負だ。勝敗はどう付ける?」
「儂が魔法障壁を張る。それを見事打ち破って見せよ。さすれば負けを認めてやるぞ」
するとシャルトーさんが口を挟んで来た。
「水竜王様、流石にそれは狡いのでは…」
「何を言う?頼んで来たのはそちらじゃ。ならば勝負を決める権利は儂にあろう」
俺はシャルトーさんに尋ねる。
「一体、何が狡いんですか?」
「水竜王様は狩りはしてないのだが、魔法の手解きは先代様にみっちりされててな。特に防御魔法は一人前だ。人族では到底破れぬ」
成程。相当優位な勝負を仕掛けて来たのか。
「まあ物は試しです。ちなみに魔法を放っても、この洞窟は大丈夫ですか?」
「それは心配無いが…本気か?」
「ええ。駄目だったら他の手を考えましょう」
俺はそう言い、ファルナに向かい合う。
「覚悟は決まったか?では行くぞ!氷結晶結界陣(プリズム・ゾーン)!!」
彼女を中心に、氷の障壁が多重展開される。それはさながら氷のドームのようだった。
「…凄い」
アンバーさんが感嘆の声を漏らす。それだけ凄い魔法だと言う事か。
今の俺では上級の風魔法までしか使えない。それではこの障壁を破壊出来ないだろう。
なので、俺は躊躇わず竜人体になる。髪が赤く伸び、目線が下がる。
「ん?あれ?お主、人族では無かったのか?」
ファルナがそう呟く。だが俺は返事はせず、使える最大威力の魔法を放つ。
「獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)!」
青白い火の玉がふわりと飛び、障壁に触れる。その瞬間、周囲を揺るがす大爆発を起こす。
ぱりん、と言うガラスの割れたような音が複数重なる。見ると、障壁は悉く粉砕されていた。
「良し、俺の勝ちだな」
すると倒れていたファルナは勢い良く起き上がり、俺の胸倉を掴んだ。
「良し、じゃないわ!死ぬかと思うたぞ!!何より、その姿はなんじゃ?同族か!?」
俺はそっと竜人体を解き、言った。
「え?何が?」
「何が?じゃないわ!くそう…まあ負けは負けじゃ。止むを得まい。付いて行こうではないか。お主は面白そうじゃ」
どうやら納得してくれたようだ。これで渋られたら面倒なので助かった。
「じゃあ、バランタインさんの所に向かうか。ファルナも竜になれるのか?」
「当たり前じゃろ。竜族にとっては本能じゃ。良し、お主は儂に乗るが良い。これは栄誉な事じゃぞ」
ファルナはそう言い、竜の姿になった。シャルトーさんより小柄だが、美しい透き通った水色をしている。
「おお、これなら水竜王に見えるぞ」
「失礼な奴じゃな。まあ良い、早う乗れ」
俺はファルナに乗り、シャルトーさんに呼び掛ける。
「じゃあシャルトーさん、2人と案内を頼みます」
「判った。任せておけ」
そうして俺達は、バランタインさんの元へと向かった。
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