第75話
魔王城21階に到着した俺達は、そのままバランタインさんの部屋に直行した。
そしてバランタインさんに経緯と、ファルナを鍛えるのに手を貸して欲しい旨を伝えた。
「ユートに任せた責任もあるからな。良かろう。我が鍛えるとしよう」
そう答えるバランタインさんを、ファルナは驚きの表情で見上げていた。
「おお…、本物の黒竜王殿か。やはり威厳が違うのう」
「これから特訓なんだが、大丈夫か?」
俺は心配になってファルナに尋ねる。
「む?そうじゃの…。ユートよ、儂に付き合え。なれば大人しく特訓を受けようぞ」
「付き合うって、特訓に?」
「そうじゃ。黒竜王殿と2人きりでは味気ないのでな」
「…まあ、大人しく受けるのなら良いか。判った。俺も付き合うぞ」
俺がそう答えると、アンバーさんが俺の裾を引っ張る。
「…浮気?」
「いや違うから。俺の許容範囲じゃ無いから。そもそも特訓だから」
すると萌美が声を上げた。
「わ、私も参加します!」
「え、特訓に?」
「は、はい。メイスの扱いがまだまだ未熟なので…」
ふむ。萌美もついでに鍛えるのなら、ただファルナに付き合うよりも有意義か。
「バランタインさん、2人一緒でも大丈夫ですか?」
「問題無い。以前にも同時に鍛えた事があっただろう」
なら大丈夫か。俺は安心する。
と、再度俺の裾が引っ張られる。
「…ダブル浮気?」
「違うから。特訓だから。…心配なら混ざります?」
「…めんどい」
さいですか。アンバーさんは気にしないでおこう。
そういう訳で、俺はファルナと萌美と共にバランタインさんの部屋に残った。
さて、特訓開始だ。俺は見ているだけなので気楽だが。
まずはそれぞれ1体ずつ、レッサーデーモンが出現する。
萌美はメイスを構え、ファルナは竜の姿で相対する。
萌美は間合いを詰め、相手の腕の一撃をメイスで弾く。そして隙が出来た所に脳天への一撃。レッサーデーモンは消滅した。
ファルナは遠距離から水魔法を放ち、一撃。あっさり勝利した。
「ふむ…。少女は次は3体だ。水竜王、そちらは12体だ。見事倒してみよ」
バランタインさんの宣言通り、萌美の前に3体、ファルナの前に12体のレッサーデーモンが出現する。
ファルナは魔法で一掃出来ると見込んでいるようだ。また萌美は、3体までなら何とか捌けると見たようだ。
「氷結連槍陣(フリーズ・ファランクス)!」
ファルナの上級魔法が発動し、氷の槍が地中から幾本も突き出す。偶然1体だけが魔法を逃れたようだ。
「水竜王よ、1体は魔法を使わずに倒せ」
バランタインさんからの指示が飛ぶ。
「えー!?マジか…」
ファルナは心底嫌そうだ。
最後の1体が近付いて来る。が、ファルナは特に構えたりしない。
間合いに入った所で、ファルナが右手を振り下ろす。精彩を欠く一撃。相手にあっさり躱され、蹴りを放たれる。
「ぐふぅっ!」
悶絶するファルナ。この状況は何だろうか。
バランタインさんが指をぱちん、と鳴らすと、ファルナに相対していた1体が消える。
「魔法の腕は成竜並みだが、近接は駆け出しの冒険者にも劣るな。…良し、我が良いと言うまで魔法は禁止だ」
狩りを経験せず、ただ魔法のみ学んで来た末路がこれか。此処まで弱いとは予想外だ。
「水竜王よ、ジャイアントラット1体にする。被撃せず一撃で倒せるようになるまで続けるぞ」
「うぇ~い、ゲホっ」
これは先行き不安だが、バランタインさんは動じていない。似たような人を鍛えた経験でもあるのだろうか。
片や萌美は、上手く立ち位置を変えながら攻撃を捌き、1体ずつ確実に倒して行く。トールやリューイの戦い方を直に見た事が、経験になっているのかも知れない。
そして最後の1体を倒した所で、俺は声を掛ける。
「お疲れ。中々良いじゃないか、充分戦えてるぞ」
「あ、有難う御座いますっ」
「おい。儂の事も褒めよ」
其処へファルナが口を挟む。
「いや、全部倒してたら褒めたけどさ。最後の醜態がなぁ…」
「ぬうう…。見てろよ!直ぐにシュババッと倒せるようになるわ!」
ファルナはそう言うと、ジャイアントラットに向かって行く。
こうして、特訓は順調?に始まった。
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