第73話

 村に戻った俺は、アルトに事情を話した。

 シャルトーさんの話では、竜の姿でなら3人まで連れて行けるとの事。俺は1人で行くつもりだったが、アルトの指示もあり同行者を連れて行く事になった。

 シャルトーさんの身体が水色に輝き、光が収まった頃には大きな竜の姿が現れていた。

 鞍など無いので少々不安だが、俺は首元に乗る。その後ろにアンバーさん、そして萌美が座った。

「じゃあ行くぞ、しっかり捕まっていろよ」

 シャルトーさんの声掛けに従い、しっかり身体を掴む。

 大きな翼が羽ばたき、徐々に身体が浮いて行く。気が付くと10メートル程の高さになっていた。

 そして今度は前方に向け進み始める。最初はゆっくりだが、徐々にスピードが増して行く。最早風鳴りが物凄く、会話も出来ない状況だ。

「防護風旋(エアリアル・ガード)」

 俺は風の防御魔法を唱え、風圧を緩和する。どうやら定期的にこの魔法を使い続ける必要がありそうだ。

 眼下の景色は凄い速さで後方に流れて行く。やはり高速飛翔体は移動・物流の面で非常に便利だ。

 後ろを見ると、アンバーさんはいつも通りで問題無さそうだ。片や萌美は高所恐怖症なのか、非常に怯えている。到着までに慣れると良いが。

 などと考えていると、山の中腹辺りに到着した。どうやら目的地に着いたようだ。

 其処は洞窟になっているが、人は問題無いが竜族は通行が困難なサイズだ。

 どうやら竜人体での通行が前提のようだ、シャルトーさんも竜人体に変化する。

 俺は1つ気になったので、シャルトーさんに尋ねた。

「あの、竜人体になった時に服を着ていますが、どういう仕組みなんですか?」

「ああ。竜玉に服を収納しているんだ。竜になる時は仕舞って、竜人体になったら取り出す、って感じでな」

 それは便利だ。俺も使えないだろうか。

 シャルトーさんは中に入り、俺達も後を付いて行く。

 中も思ったより大きく無い。何より天井が低い。竜人体での生活を前提に作られているようだ。

 他の住人から好奇の目で見られる。全員の髪色が水色なので、同じ一族という事か。

 そうして案内された最奥には、人ひとりが快適に過ごせるスペースが構築されていた。其処に横になって何かを貪る子供が1人居る。

「水竜王様、バランタイン殿よりご推薦を受けた方をお連れしました」

「うーん?何の用~?」

 ダラダラとしながら返事をする。その姿に俺は引き籠りニートを想起した。

「…という感じでして、何を言っても適当にあしらわれます」

「無理矢理引っ張り出せば?」

「しきたりで許されていないのだ」

 俺は1つ気になり、シャルトーさんに尋ねる。

「先代はどんな方でしたか?」

「公正・公平かつ聡明で、我らにとって理想のリーダーでした」

 成程。ならば先に話を聞く必要がありそうだ。

「シャルトーさん、先代の隠居先は遠いですか?」

「いや、そんなに遠くは無い。飛べば直ぐに着くが」

「じゃあ先に、先代に会いに行きましょう」

 俺はそう言い、一度外に出る。

 そして竜になったシャルトーさんに乗り、移動を開始した。


 先代の隠居先は、山を更に登った所にあった。

 シャルトーさんを先頭に中に入る。入口も通路も狭い。

 通路を抜けた先、程々の広さの部屋の中央に彼女は居た。あくまで人としての見た目だが、未だ隠居と言うには早い程度には若く見える。

「先代様、こちら、バランタイン殿よりご推薦を受けた方になります」

「初めまして。ユートと申します」

「成程ねぇ。外部に頼ったかい。…まあ良いかね」

 そう言うと彼女は顔を上げた。圧倒的な存在感。バランタインさんも本気を出せば、こんな感じなのだろうか。

 アンバーさんは少し怯んだだけだが、萌美は思い切り怯えている。

「…さて、隠居した者にわざわざ会いに来た理由は何だい?」

 駆け引きは不要と判断し、俺は正直に答える。

「水竜王を彼女に継いだ、その本意について教えて欲しい」

 先代は少し考えると、シャルトーさんを指差した。

「シャルトー、どうしてだと思う?」

「え、先代様の娘様だから、じゃないでしょうか」

「…次、そっちの子」

 アンバーさんを指差す。

「…しきたり、だから?」

「次、その隣の子」

「えと、すいません、判りません…」

 すると先代は俺に向かい合った。

「さて、お主はどうしてだと思う?」

 俺は頭の中で考えていた事を、言葉にした。

「敢えて問題を抱えさせ、その解決をさせる事が目的だと感じました」

「ほう…。続けな」

「解決法はざっと4つ。1つは無視。2つ目は説得。3つ目は無理矢理にでも引っ張り出す。4つ目は外部に頼る」

 俺はそう言い、一息ついて続けた。

「恐らくですが、理想は3つ目…自らの手でしきたりを破る事を望まれていたのでは?」

 先代はくっくっと笑うと、言った。

「中々聡明だね。そうさ、一族の将来の為に、敢えてしきたりを破る者が出て欲しかった。だが結局は次善手に落ち着いたようだ」

 そう言うと先代は頭を下げた。

「手間を掛けるが、あ奴を引っ張り出してくれ。死ななければ鍛え方は問わん。…任せたぞ」


 こうして、引き籠り水竜王の更生作戦が発動したのだった。

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