第40話
5日後の午後。スタウトさん達が俺達の村に到着した。
俺は最近では当たり前になった竜人体の姿で出迎え、案の定「誰?」という顔を向けられた。
応接室に案内し、改めて俺から竜人体について説明をした。最初は不審がっていたが、実際に姿を変えて見せた事で納得して貰った。
ポーターさんからは「別にそのままで良くね?」と言われたり、アンバーさんからは「女装癖…?」と言われショックも受けたが、気にしたら敗けだ。
その後、目的地である暁の遺跡についても、俺から説明をした。
ダンジョンの構造を聞いた後、スタウトさんが言った。
「どうやら大勢で飛び込んでも効果の薄そうなダンジョンだね。騎士団を待たずに行動するのは間違っていないと思うよ。少人数での連携は冒険者の専売特許だしね」
成程。騎士団は一定以上の人数での集団戦が基本らしい。騎士団長クラスが単独で潜入するならまだしも、小隊レベルで集団行動するにはダンジョンは向かないようだ。
「…で、師匠も行くの?」
アンバーさんがミモザさんに尋ねる。
「勿論ですよー。修行の成果を見せて下さいね~」
ミモザさんのノリは相変わらず軽い。経験故の余裕とも取れるが。
「それじゃあ今日は一泊して、明日の朝出発しよう。それで問題ありませんか?」
「ええ、それで構いません。宜しくお願いします」
スタウトさんの言葉にアルトが答える。
5人が一気に増えても大丈夫な程には屋敷は広くない為、スタウトさん達男性陣には宿屋に泊まって貰う事にした。宿代はこちら持ちだが。
そしてアルトの要望もあり、アンバーさんとベルジアンさんは屋敷に泊まる事になった。
お風呂から上がった私は、呼ばれてアルトの部屋に来ていた。何の用なのだろうか。明日は早いので長くはならないと思うが。
アルトは真剣な表情で口を開いた。
「…前置きは無しで聞くわね姉様。ユートの事、好きなのよね?」
「…へ?あ、うぇ?」
いきなりの質問に動揺してしまう。落ち着け私。戻って来い、いつものクールな私。
「あ、ちなみに言っておくけど。姉様は興味が無い事には無関心で無表情なだけ。クールとは違うわ」
心を読まれた。流石は自慢の妹。
「えと、どうしてそんな事、聞くの?」
「私の将来にも関わるからよ。先に言っておくわ。私はユートの事が好き。でも私は姉様を悲しませたくないし、姉様と争いたくない。だから私がこれからどう動くかは、姉様次第なの」
「…私も、アルトを悲しませたくないし、争いたくもない。でも、それじゃあどうするの?」
「簡単よ。ユートに2人とも貰ってもらうの」
「…言葉では簡単だけど」
言う程簡単では無い。いきなり第2婦人まで確定だ。
「…そもそも、貰ってくれそうなの?」
「だから動くのよ。行動せずにただ待つつもりは無いわ。でも私だけ動いても意味無いの。姉様も一緒じゃないと」
…そうか。アルトは私の事も色々考えてくれているんだ。優しくて、しっかり者の大事な妹。
「…うん。私はユートが好き。一緒になりたい」
「じゃあ決定ね。あ、もし上手くいったら、表向きは貴族としての立場もあるから私が第1婦人になるわ。でも実際には同列に扱って貰うから、安心して」
「…そこまで考えてるの?」
元々思考が早くて深い子だったが、更に輪をかけて凄まじい。これが本気…色恋だから?
「で、ベルとミモザさん、それにシェリーさんはライバルになる?」
「ベルは大丈夫、好きな人が居るから。師匠は判らないけど、興味は無さそう。シェリーさんは結婚願望はあるらしいけど…どうなんだろう?」
「そう。…そもそも、ユートが年上好きか年下好きかが判らないのよね。先にそっちの確認かしら。年上好きだと難易度が上がるわね」
頼りになる妹。でも置いて行かれないようにしないと。しかし行動…何をすれば良いのだろう。
そう考えていると、アルトが答えてくれた。
「姉様はスキンシップを図って。まずは異性として意識させる事が大事。私じゃ発育が足りないから、其処は姉様頼りよ」
スキンシップ。一度後ろから抱き締めた事はあるが、あれはノーカウントなのだろうか。あんな感じの事をもう一度やれと?
でも、やらないと一緒になれないと言うのなら、やるしか選択肢が無い。
「じゃあ明日からは任せたわ。頑張ってね」
アルトは良い笑顔で私にそう言った。
翌日の朝。スタウトさん達とミモザさん、それに俺の計7名は村を出発した。
目的地である暁の遺跡までの距離は、馬車で丁度1日程。なので入口で野宿してから突入する事になる。
騎士団は後詰として既に王都から出発済みだ。順調に行けば、討伐完了した頃に到着するだろう。
…一つだけ気になる事がある。アンバーさんが頻繁に俺の方をチラチラと見ているのだ。今の俺は元の姿なのだから、見られる理由は無い気がするのだが。それとも、まだ女装を疑われているのか。
馬車の御者はポーターさんが受け持っている。本当に器用な人だ。
今回はミモザさんも居るが、それを除けば俺がこの世界に来て最初に出会った人達だ。恩寵のお陰だったのだろうが、有り難い。彼等が居なければ、とっくに俺は魔王城内で死んでいただろう。
俺は1つ、気になっていた事をスタウトさんに聞いてみた。
「四天王って、強かったですか?」
「ああ、とても強かったよ。僕達も今より未熟だったってのもあるけど、魔族は特に魔法に秀でているからね。上位魔法の直撃を受ければ、一気に前線が崩壊する。そうなれば後は各個撃破だ」
言われてみれば、対魔法の訓練なんてやった事も無い。上位魔法なら広範囲が基本だから、先手必勝だ。あとは近接戦で魔法を使う隙を与えないか。その程度しか思いつかない。
「ベルの防護魔法で威力は減衰出来るけど、完全には防げないしね。1手目は魔法の打ち合い、その間に間合いを詰めるしか無いかな」
「最初の打ち合いならー、私と弟子、それにユートさんが居ますからねー。相手の数次第ですが~」
スタウトさんの作戦にミモザさんが付け加える。俺は今の身体だと風魔法しか使えないのだが。
追い込まれたら竜人体を使うしか無いのだろう。わざわざ着替えは持って来ていないが、少し時間は掛かるが方法がある。もしもの時はそれで対応しよう。
そうしている間に馬車は1日の行程を走り抜け、夕方には遺跡の入口に到着する事が出来た。
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