第16話

「どうぞ、こちらがユート様の冒険者証になります」

 イリノさんから冒険者証を受け取る。素材は金属らしく硬い。対象者の魔力波長が登録してあり、本人が触ると文字が表示される仕組みだ。盗難による悪用防止の意味もあるそうだ。

 その後、イリノさんから依頼についての説明を受けた。簡単にまとめると、下記の通りだった。

 ・受けられる依頼は自分のランクまで

 ・同時に受けられる依頼は3件まで

 ・常時成果のみ受付の依頼も有り(薬草や特定の魔物の素材など)

 ・依頼には期限のあるものと、無期限のものの2種類有り

 ・期限のあるものは、期限を過ぎると無条件で未達成と判断

 ・未達成の場合、報酬の3割をペナルティとしてギルドに支払う

 ・特定の冒険者及びパーティを指定した、指名依頼も有り

 ・依頼を全く受けない事によるペナルティ(ランクダウンなど)は無し

  但しその場合、勅命依頼(国王からの依頼)を年1回は必ず受ける事

 ・一定以上の依頼達成でランクUP 但しCランク以上は昇格試験有り

「もし他に判らない事などがありましたら、お気軽に私達にお尋ね下さい。また、ギルドの2階は書庫となっておりますので、ご自分で調べる事も出来ます」

「判りました。今後とも宜しくお願いします」

 俺はそう答えて受付を離れ、スタウトさん達の所に向かった。


「お疲れ様。無事受かって良かったよ。推薦した甲斐があったね」

 スタウトさんによると、推薦した人が受かった場合、推薦者の評価も上がるそうだ。Sランクより上は無いから意味が無さそうだが、何か融通でも受けられるのだろうか。

「それじゃ、東門まで一緒に歩こうか」

 俺とアンバーさんが、この街に来た時に通ったのは西門だった。なので街を横切る大通りを東に向かう。

 通りを歩きながら、スタウトさんからは贔屓の武具屋、ベルジアンさんからは教会、アンバーさんからは魔法書や魔導具を売っている店、ポーターさんからは道具屋と食料品屋、ヴァイツェンさんからは前に紹介状を貰った元騎士団長のお姉さんの家の場所を教えて貰った。

 そうこうしている間に、東門の手前に到着した。

 俺はここで見送りをする。とうとう皆と別れる時が来た。

 スタウトさん達は、俺との魔王城との経験で自信が付いたので、育成支援の依頼を受ける事にしたそうだ。しかも依頼者はクリミル伯爵家、育成対象はアンバーさんの妹との事。

 俺は感謝の意味も込め、1人ずつ声を掛ける。


「スタウトさん、貴方が居なければ、俺は魔王城で死んでいた。改めて感謝します」

「お礼は要らないよ。次に会う時までに、どれだけ成長しているかを楽しみにさせて貰うよ」


「ヴァイツェンさん、紹介状、有難う御座います。ギルドの試験で弱点も見えたので、訪ねさせて頂きます」

「…うむ。くれぐれも、生活態度には目を瞑れ」


「ポーターさん、街までの移動で、斥候の大変さを少しですが理解出来ました。魔王城では有難う御座いました」

「いやいや、斥候は俺の役割であり使命だからな。でも、感謝されるのも良いもんだな」


「ベルジアンさん、一緒に戦闘狂の汚名は返上していきましょう」

「え、私だけそんな扱いですか?」

「冗談です。俺には治癒魔法は使えませんから。皆の命を預かる大事な役割、これからも頑張って下さい」

「言われるまでもありません。頑張ります!…次は私と模擬戦しましょうね!」


「…アンバーさん、いえ、師匠」

「…うん」

「魔法の指導、特訓の付き添い、そして街までの移動の時の事。全てがこの世界に来てからの、大切な思い出です」

「私も。充実してて、楽しい日々だった」

「次に会う時は、師匠が自慢の弟子だと誇れるよう、頑張って成長します。楽しみにしていて下さい」

「…判った。私も、弟子が自慢の師匠だと誇れるよう、頑張る」


 そして俺は、門を出て東に進む皆を見送った。悲しさや寂しさもあるが、そうも言ってられない。俺がこの世界で独り立ちする、スタートの日なのだ。皆の努力を無駄には出来ない。師匠に恥はかかせられない。成長しなければならない。



 門を背にし、街の中に歩いていく背中。それを私は、見えなくなるまで見送っていた。

 郷愁が胸を吹き抜ける感じ。それだけ、自分の中でユートの占めていた大きさを実感する。

「…本当に良かったのかい?」

 スタウトが声を掛けてくる。

「…大丈夫。約束したから。それに、ユートの恩寵を信じてるから」

「恩寵…『縁(えにし)』だっけ。成程ね」

 そう。私がユートにとって大切な人になれるとするなら、恩寵が、そして運命が彼との再会を紡いでくれる筈。私はそう信じる。

「…その時まで、ユートに追い越されないように頑張らないと」

 私の決意、そして想いが、風に乗って天へと届きますように。そう願った。

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