第139話

 結局俺とメイヤさんは2人とも血塗れになってしまい、ファルナの魔法で水洗いし、俺の魔法で火を起こす事になった。

 なおその際にメイヤさんに羞恥心が欠けている事を知ったが、男の多い職場ではそうなってしまうのだろうか。逆に気を付けそうなものなのだが。

 身なりが綺麗になった俺達は回廊を昇って行く。行きで魔物は倒してあるので、最早散歩と言っても良いだろう。

 そうして20層を昇り地上に戻った俺達は、翌朝出発の為に入口で野営を行なった。

 翌朝、馬車は王都へと向かう。宰相への報告の為だ。

 行きと同じ工程を経て王都に到着すると、早速メイヤさんの案内で宰相の元に向かう。

 執務室に案内された俺達は、宰相の向かいに座る。役目を終えたのか、メイヤさんは既に席を外していた。

「さて…こうして無事戻って来たという事は、討伐が完了したと理解して良いのか?」

「はい。少々危険な場面もありましたが、問題無く討伐する事が出来ました。証拠として剥ぎ取った素材は、メイヤ団長が持っております」

「そうか、ご苦労だった。しかし本当にあっさりと討伐してしまうとはな。王国最強の名は伊達では無いという事か」

 すると宰相から、1枚の紙を手渡された。横からファルナが覗いて来る。

 其処には今回の件での褒章が、目録として記載されていた。

「見ての通り、此度は報奨金以外の物も用意した。グランダルからの移住希望者の優先移住、それに昇爵の進言だ」

 昇爵が進言となっているのは、権限が国王にあるからだろう。それよりも優先移住の件は、村の方針として助かる提案だ。

「ご配慮頂き、有難う御座います」

「この程度は問題無い。本来ならばもっと評価して良いのだが、事が起こる前の処置であったからな。その分評価が落ちるのは我慢してくれ」

「いえ、寧ろこれまで過大評価を受けておりますので…」

「謙虚よな。やはり貴族間の権力闘争には興味が無いか」

「忌憚無く言わせて頂けるのなら、そういった物は嫌悪しておりますので」

「それが良かろう。お主が政略に巻き込まれても、我が国の損失にしかならぬ」

 宰相の言動は包み隠す所が無く、個人的に好感が持てた。貴族が皆こんな感じなら良いのだが。

 さて、退席した俺達は王都を出て、街道を外れる。そしてファルナに竜の姿に成って貰った。

 馬車はアルト達が乗って帰ってしまっていたので、ファルナに乗って帰る事にした。街道を外れたのは、人目を気にしての事だ。

 数刻で村に戻ると、早速結果を皆に報告した。特に褒章については、アルトもシアンも喜んでいた。


 アルトにも釘を刺された所なので、当面は村を離れない事にする。

 直近で行なっているのは移住者の為の住居造りだが、それと併せて行うものがある。農地の拡張だ。

 移住者が皆手に職を持っている訳では無い。そういう場合は必然的に農業に従事して貰う事になる。その為の農地が足りないのだ。

 以前に聞いた話では、流通が崩壊した場合に備えて自給出来る分の農地は確保するべきとの事だった。今は食料を購入に頼っている部分も多く、農地は不足気味だ。

 これがラノベなら農具改革の話になるのだが、少なくとも今使用している農具を発展させるにしても次は機械化になってしまう。流石にそれを実現するだけの知識は無い。

 つまりは農地拡張には工数のみが必要なのだ。なので移住者には衣食住を保障した上で、先ずは農地拡張に従事して貰う事になるだろう。

 普通に水車も活用されているので、俺が知識で新たに手を打てる所は無さそうだ。

 そんな訳で新たな発想が出ないまま、午後の訓練が始まる。

 俺は合間に転移組を集め、話をしてみた。

 すると先ずは祥から意見が出た。

「農地拡張とはちょっと違うけど、例えばハウス栽培とかはやられてないっすよね」

 成程。空気を温める方法は魔導具で何とかなりそうだし、結構現実的な提案だ。季節を問わず栽培出来るのは強みになるだろう。ネックはビニール素材か。全面ガラス張りは費用が掛かり過ぎか。

 次は萌美からだった。

「治癒魔法は植物にも効果があります。病気や台風に見舞われた時は、お力になれそうです」

 治癒魔法を扱える者自体が今は少ないが、魔法の訓練としては良さそうだ。それに緊急時に頼れるのは心強い。

 最後は楓だった。

「地属性魔法を上手く使えば、土地を切り拓く時に有効らしいです。隊の仲間が教えてくれました」

 これは良い意見だ。最初に木を伐り、地中の岩などを取り除き、整地するのが力仕事で大変なのだ。其処が改善出来るのなら、魔法小隊から人員を出すメリットもあるだろう。

 早速得た情報を、午後の執務で提案してみる。

「直ぐに取り掛かれるのはカエデの案ね。早速、小隊から地属性魔法を扱える者を出して実行してみましょう」

 そして早速人を集め、先ずは楓に情報をくれた隊員から詳細を聞く。

 どうやら防護石壁(ストーン・ウォール)の魔法を活用する事で、木を切り倒す必要は無いし岩や石も見付け易いそうだ。

 先ずは木の根の下に魔法を放つ。すると根ごと地面が盛り上がり、伐採する事無く取り除けるのだ。

 次に地面に魔法を放ち、出来た壁から岩や石を取り除く。それが終わったら壁を崩せば良いそうだ。それを順にやって行けば、ある程度耕された状態の畑が出来る。

 当面は魔力が続く限り、これを実行して貰おう。魔法の訓練にもなっている。

 これで農地拡張のペースは上がる筈だ。

 残りの2つの提案は、状況に応じて詰めて行こうと思う。

 こうして移住者の受入準備をしていると、王家より招集の手紙が届いた。

 中身を見るとどうやら宰相の提案が通ったようで、叙爵を行なうとの事だ。

 折角なので、今回は妻達を全員同行させる事にした。これなら不満は出ないだろう。

 後はファルナと御者のみで、護衛は無しだ。この面々なら不要だろう。

 村の陣頭指揮はシアンに任せ、俺達は早速村を出発した。

 叙爵式は俺だけ出席するので、その間はアルトに任せておいた。ニーア達とお茶会をするそうだ。

 最近は物騒な依頼が続いたが、今回はのんびりと旅が出来るだろう。


 馬車はゆっくりと、街道を進んで行った。

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