第14話
日が大分傾いて星も見え始めた頃、俺達はデルムの街の入口に到着した。
ここに来るまでの間、俺は気恥ずかしくてアンバーさんをまともに見られず、黙々とお互い無言で歩き続けて来た。
デルムの街は高さ4メートル程の石壁に覆われていた。魔物が居るこの世界では、街への魔物の侵入防止が必要なのだろう。
入口には衛兵らしき人が複数人居り、街に入ろうとする人や馬車の積荷をチェックしている。
「私はここを拠点にしているから、冒険者証を見せれば無税で入れる。ユートは税金が掛かる。20ゴールド、用意しておいて」
アンバーさんが俺に準備を促す。
入街税は千円くらいか。宿場での食事代のお釣りで銅貨を貰ったので、20枚用意する。
アンバーさんが冒険者証を見せ、俺が同行者である事を説明。衛兵らしき人が手を差し出して来たので、準備しておいた銅貨を乗せる。すると、入街許可証と書かれた木札を渡された。
「有効期間は1週間。それまでに街を出るか、身分証を取得して下さい」
「判りました。有難う御座います」
俺はそう答え、街の門を潜る。
デルムの街は、首都を除けばかなり大きめの街だそうだ。門の先には石造りとレンガ造りの建物が並ぶ。地球でも、地中海辺りで似たような街並みの国があった気がする。
「今日は皆が泊まる宿屋に直行。明日、冒険者ギルドに案内する」
そう言うとアンバーさんは、目的地である宿屋に向け歩を進める。
俺は初めての街なので、思わず周囲をキョロキョロと見やってしまう。門から真っ直ぐ伸びる道は、馬車の通行も考慮し広く幅が取られており、また大きな店や建物が並ぶ。恐らく居住区は離れた場所にあるのだろう。
暫くすると、アンバーさんが立ち止まった。その前には、宿場で止まった時の倍くらいの大きさの宿屋があった。
アンバーさんは受付ではなく、食堂に続くドアを開け、中に入る。俺もあわてて後に続いた。
見渡すと、直ぐに目的の人達を見つける事が出来た。スタウトさん達だ。
「…ただいま」
「ご無沙汰です、皆さん」
アンバーさん、続いて俺が声を掛ける。
「お帰り、アンバー。ユートも久しぶりだね。さ、席に座ってよ。一緒に食事にしよう」
スタウトさんに薦められ、椅子に腰掛ける。スタウトさんは早速給仕さんを呼び止め、俺達の分の注文を済ませる。
食事よりも先にエールが2つ置かれた所で、スタウトさんが話し始める。
「それじゃ、アンバーが無事戻ってきた事、そしてユートと再会できた事を祝して、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
乾杯の掛け声は主流だった。良かった。
話は自然と、特訓の内容になった。
「それでどうだったよ、スタウトもヴァイも嫌がる程の特訓とやらは」
ポーターさんが俺に聞いて来る。
「んー、やってる時は辛いと思う時もありましたけど。それよりも、自分の成長が感じられるのが楽しくなってきて」
「あー、ベルと同じタイプか。そりゃ最高の環境じゃんか」
「ちょっと待って下さい、ポーターさん。いつも言っていますが、私は決して戦闘狂などではありませんよ?」
ポーターさんの返答に、ベルジアンさんがすかさず反論する。そういえば、アンバーさんも戦闘狂云々については、全く同じ事を言っていた。
「アンバー。君の見立てでは、ユートは推薦状を書くに値するレベルかい?」
「私が見た限りでは、Bランクは確実。問題無い」
スタウトさんの問いに、アンバーさんが答える。
「推薦状?何の話ですか?」
「ああ。冒険者はFランクからスタートするんだけど、Aランク以上の冒険者の推薦状があれば、試験を受ける事が出来るんだ。試験に合格すれば、Cランクからスタート出来る」
俺の問いに、スタウトさんが丁寧に答えてくれる。成程、そのようなシステムがあるのか。
あくまで小説とかでの知識だが、最低ランクだと受けられる依頼も薬草採取やスライム退治、報酬も雀の涙、というイメージがある。それならば、確かにCランクからスタート出来るのはメリットが大きい。
「でも試験って、どんな事をやるんですか?」
そこが一番気になる。ペーパーテストがあったら不合格間違い無しだろう。
「試験は、推薦者を含むパーティを除く、Aランク以上の冒険者との模擬試合だよ。勝てなくても、Cランクに充分な実力だと判断されれば合格になる」
「…Aランク以上の冒険者が丁度居なかったら?」
「ギルド職員の中には、Aランク以上の元冒険者が必ず1名は居るから、代理として対応してくれる。だから安心していいと思うよ」
スタウトさんの回答に納得する。実力有りと判断されるかどうかは不安だが、アンバーさんがそう評価してくれているのだ。恥をかかせる訳にはいかない。
「じゃあ折角だし、明日は皆でユートの試験を見学しようか」
「うむ」「いいなソレ!」「賛成です!」「…楽しみ」
賛成多数にて俺の試験の見学が可決されてしまった。これが民主主義か。
そんな訳で翌日。俺は皆に冒険者ギルドへ案内されていた。
推薦状を書いてくれる以上、無碍に扱う訳には行かない。それは判っている。でも、高校の体育祭に知り合いが応援に来るような、微妙な心地悪さがある。
宿から歩いて10分程で、立派な建物が見えて来た。
「はー、何か思っていた以上に大きいんですね」
「基本的には街の規模に準じるからね。それにここは地下じゃなくて中庭に訓練場を設置してるからね。その分、外見が大きくなっているんだ」
俺の問いにスタウトさんが答える。言い方からすると、普通は地下に訓練場を設置するようだ。土地代やスペースなどとの兼ね合いだろうか。
そのまま扉を抜け、スタウトさん先導で複数ある受付の一番端に行き、声を掛ける。
「こんにちは、イリノさん」
「あらスタウトさん、こんにちは。こちらの受付に来るなんて珍しいですね」
「ええ。今日は推薦したい冒険者希望の者が居まして」
スタウトさんはそう言い、俺に隣に来るよう促す。俺はそれに従った。
「彼はユート。冒険者を希望しています。こちらが僕からの推薦状になります」
スタウトさんが受付に紙を差し出す。受付のイリノさんは推薦状に暫し目を通し、口を開く。
「…はい。内容に不備などは御座いませんので、受理させて頂きます。試験を受けられる日程にご希望は御座いますか?」
「特に問題無ければ、今日受けさせて欲しいんですが」
俺はそう答える。するとイリノさんは横の棚から書類を引き出し、何かを調べ始める。
「丁度この街に居て、手の空いているAランク以上の冒険者は、確認する限り居りません。ですので、当ギルドのギルドマスターが対応させて頂きます」
ギルドマスターという事は、このギルドで一番偉い人の筈だ。会社で言うなら社長。そんな人が試験に手を煩わせていられるのだろうか。
俺の表情を読み取ったのか、イリノさんが付け加える。
「当ギルドのギルドマスターは、書類作業やギルド運営を不得手とし、冒険者の訓練や大規模討伐の指揮を得手とするタイプです。ご安心下さい」
「…このギルドの運営に不安が残るんですが」
「そこは不得手を補って余りある、副マスターが居りますので」
思わず俺の口から出た一言に、イリノさんがそう返す。
するとイリノさんの後ろから、大きく威勢の良い声が挙がる。
「おいおい、何だか俺の噂話が聞こえるぜ。そんなに褒めるんじゃねぇよ」
其処に立っていたのは、上半身裸のマッチョなおっさんだった。
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