第153話

 俺達は食事処に行き、適当にお任せで注文した。

 周藤さんは限界なのか、テーブルに顔を乗せ放心している。極限まで飢えている時は、固形物は良くなかった筈だが大丈夫だろうか。

 やがて食事が運ばれて来ると、周藤さんはがばっと起き上がり、目を輝かせた。

「いただきますっ!!」

 そして真っ先に食事にかぶり付く。見る間に置かれた食事は空になって行き、途中で注文を追加した程だった。

 俺達も普通に食事を終えた頃には、血色も良くなり元気になっていた。

「ああ~、生き返ったぁ…」

「それは良かった。しかし空腹だったとは言え、随分と食べたな。良くその身体に入るものだ」

「実は諸事情により、胃袋がとても大きくて…」

「ああ…。確かに転生前は、良い体格をしていたな。納得した」

 澪とのやり取りを眺めながら、俺は周藤さんを何となく観察する。

 出会った時の生気の無い顔は消え失せ、表情も明るくなっている。素が明るい性格なのだろう。

「それで、どうやって助けるつもりだったんだ?」

 俺は澪から話し掛けられている事に気付き、答えた。

「やっぱ恩寵に合った仕事の斡旋だろうな。という訳で、周藤さん」

「何かしら?」

「恩寵って何ですか?」

「ああ、『弓聖』よ。弓を持っていないと何の意味も無いの。貴族の所では、弓を持たせて貰えなくてねー」

 成程。それなら訓練に付いて行けなかったのも納得だ。逆に最初に槍を求めた澪は賢かったのだと実感する。

「それで今は、弓を持っているんですか?」

「いいえ。手持ちのお金が無くて、全然買えないわ。細々と薬草採取をするのが精一杯よ」

 これは明らかに行き詰っていたようだ。

「じゃあ早速、弓を買いに行きましょう。澪、武器屋の場所を案内して貰えるか?」

「任せてくれ。じゃあ行くか」

 俺が食事代を払い、皆で外に出る。そして澪の案内で武器屋に向かった。

 其処で早速弓を見せて貰う。なお弓を主武器として使う冒険者は少ないらしく、品揃えは乏しかった。確かに魔法が使えれば不要だろう。

 出されたのは安い順に、木製、金属の補強が入ったもの、魔物の骨を使ったもの、の3つだった。

 店員が説明を続ける。

「一番良い奴は、引くのにかなり力が要るぞ。初心者なら、残り2つから選ぶのが無難だ」

 その忠告に従い木製の弓を周藤さんが持とうとするが、俺はそれを制した。

「この一番良い弓を、試しに引いてみて下さい」

「え?でも私、自慢じゃないけど相当非力よ?」

「…成程な。侑人の忠告通りにしてみてくれ。恐らく恩寵でどうにかなる筈だ」

 澪は俺の考えに納得したのか、同様に勧めてくれた。

 周藤さんは不安そうにしながらも、弦を引いてみる。

 すると弦は限界まですっと引かれ、ぎりぎりと張り詰めた音が響く。そして手を離すと、びいん、と弦から音が奏でられた。

「おお、凄いな姉ちゃん。野郎でも中々引き絞れねえんだぞ、それ」

「はー、これが恩寵の力なのね…」

 周藤さんも納得したようなので、話を進める事にした。

「それではこの弓と、矢を50本。それと矢筒をお願いします」

「あいよ。鏃は何が良い?」

「普通の鉄製でお願いします」

 こうして一通りの弓装備を購入する事が出来た。ちなみに此処の支払いも俺がした。

「何か凄い金額だったんだけど…良いの?」

「大丈夫っすよ。兄貴は上級貴族様っすから!」

 その問いには、何故か祥が答えていた。

「貴族…同じ転移者なのに、凄いのね。何か秘訣でもあるのかしら?」

「そりゃもう、年下に手を出…ぐふっ」

 俺の肘鉄が祥の鳩尾に刺さった。綺麗に入ったため、祥はその場に蹲る。

「自分の恩寵は装備とかに影響されないものでしたので、そのお陰です」

 俺はそう答えておいた。実際、事実だしな。

 すると澪が口を開いた。

「なら次は実戦だな。丁度私が受けた魔物討伐の依頼がある。一緒に行ってみよう」

「ちなみに依頼対象は?」

「レッドベアーだ。群れで近くの森に集まっているらしい」

 それなら然程強くも無いので、最初の相手としては妥当だろう。弓なら遠距離なので、安全も確保し易い。

「じゃあ案内は澪に任せる。俺達はもしもの時の為の護衛、メインは周藤さんに頑張って貰う」

「わ…判ったわ。何とかやってみる」

 俺達は早速、目的の森に向かう事にした。


「ひ…酷いっすよ…。置いてかないで…」

 祥は未だ、その場に蹲ったままだった。

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