第38話

 翌日、俺はアルトと一緒にとある貴族の屋敷に来ていた。誕生会と同じドレスを着て、だ。

 花や緑の多くある庭園、其処が良く見えるテラスに案内された。

 其処には知らない女性が1人と、知っている女性が1人居た。知っている女性の方はメイヤさんだった。ドレスを着ると雰囲気が変わる。

 知らない方の女性が立ち上がり、声を掛けて来る。

「ユーナ様、初めまして。ロドス男爵家が長女、ニーアと申します。アルト様とは友人として親しくさせて頂いております。

「あ、初めまして。ユーナです。どうぞ良しなに」

 ニーアと言う女性は、丁度アルトと同年代に見える。癖のある金髪に溌剌そうな顔立ちだ。

「初めましてアルト様。第1騎士団長を任されております、メイヤと申します。ユーナ様とは先日ぶりですね」

 メイヤさんは髪と同じ紫色のドレスを着ていた。長身なのでモデルのような美しさがある。

「こちらこそ初めまして。クリミル伯爵家が三女、アルトと申します。先日はユーナがお世話になったようで。楽しかったと申しておりましたよ」

「そうですか。では雪辱を果たす為、再戦と行こうか」

「いや、この恰好でやるのは勘弁して下さい」

 ドレスを着ても騎士団のノリは変わらないようだ。

 俺達も椅子に座る。するとメイドの人達が紅茶やお菓子を準備して行った。

 メイドが引き揚げるのを見計らい、アルトが口を開く。

「それで、侯爵の動きはどうかしら?」

 淑女の社交場では無く、どうやら密談のようだ。

「今は落ち着いていますね。先日の件も頭目の独断専行でしたし、こちらに見えられて以降の動きはありませんわ」

「騎士団による尋問でも、侯爵の名前は出て来ていない。ユーナに組織を潰された恨みばかりだな」

 アルトの問いにニーアさん、そしてメイヤさんが答える。

「そう。流石にお父様が近くに居ると、手を出し難いようね」

 アルトはそう言い、紅茶に口を付けてから続ける。

「となると、領に戻った後にどんな手を使ってくるか。直接的な嫌がらせが濃厚だけど、それで収まるかしら」

「他の可能性としては、魔族への扇動が考えられますわ」

「…あり得るの?」

 ニーアさんの発言にアルトが問う。

「最近、侯爵家に出入りしている人の中に、フードを被った怪しい者が居るそうよ。話によると、フードが歪に出っ張っていたらしいから、魔族特有の角ではないか?って思われているわ」

「ふむ、魔族か。前魔王の残党といった所か?」

「そうでしょうね。四天王は散り散りになったそうですし、その線が濃厚かと」

 マーテルさんはアイリさんに付き添っているから、それ以外の3人の誰かが怪しい、という事か。後で直接聞いてみた方が良さそうだ。

 そんな事を考えていると、アルトが俺に向かい、言う。

「ユーナ、貴方なら四天王くらいは倒せるかしら?」

「…どの程度の強さなのか判らないんですが」

 其処へメイヤさんが口を挟む。

「模擬戦を見るに、1対1なら問題無く倒せるだろう。取り巻きの人数によっては単独では厳しいかも知れんがな」

「そうですか。なら裏が取れたら、姉様達にも手伝って貰った方が良さそうね」

 アンバーさん達、勇者パーティの事か。

「シェリー先輩は手伝って…くれなそうだな。あの性格だしな」

「ええ。相手が圧倒的強者なら喜んで行きそうですけど」

 俺はメイヤさんにそう返す。俺達で対応可能なら、シェリーさんは手を貸さないだろう。

「じゃあニーア。手間を掛けるけど魔族の件、所在も含めて調査を頼むわ」

「判った、任せて。伊達に王家隠密を名乗っていないわ」

「必要なら騎士団にも声を掛けてくれ。遠征訓練と称して多少は動けるからな」

「ええ。その時は頼らせて貰うわ」

 淑女のお茶会でどんどん話が進んで行く。俺にも無関係では無いので聞く意味はあるが、出会ったばかりの俺が聞いたら不味い話もありそうなのだが。それだけ俺を同行させたアルトを信用している、という事か。

「じゃあ難しい話はこの位にして、お菓子を味わいましょう」

 アルトは話をそう言って切り上げると、お菓子を頬張る。つられて俺もお菓子を取る。シュークリームだろうか。一口食べると甘さが広がる。美味い。

 其処からは女性らしい話が続いたので、俺は基本的に相槌を打つだけだった。


 伯爵の屋敷に戻ると、アルトと共に伯爵の部屋へ直行した。

 お茶会での話をアルトが説明し、最後に付け加えた。

「…以上より、領の防衛についての対処も必要ですので、明日戻りたいと思います。慌ただしくて申し訳ありません」

「そうか。仕方なかろう。何か必要な物は?」

「ありません。ただ言うまでもありませんが、派閥を含めて関係しそうな動きがありましたらご連絡をお願いします」

「判った。…励めよ」

「はい」

 アルトはそう言い、部屋を退出した。俺もそれに続く。

 部屋に戻りがてら、アルトが口を開く。

「そういう訳だから。今日中に帰る準備をしておいて」

「了解。…ちなみに、このドレスは?」

「当然、持って帰るわよ。貴方しか着れないもの」

 予想通りだ。そりゃオーダーメイドだから、この屋敷に置いてても意味無いんだろうけど。

「…さいですか。もう着る機会が無いと良いんだけど」

「あら勿体無い。それを着てれば、男がどんどん寄って来るわよ」

「…それを俺が喜ぶとでも?」

「あら。なら女性が沢山寄って来るなら嬉しい?」

「…沢山来られても困る。そんな甲斐性は無いから」

「…そう。なら良いわ」


 アルトはそう言うと、自分の部屋に戻って行った。

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