第73話 【まつろわぬ妖精:“暁の星”】
「――ボーッとしてなんか……いられるか……!」
頭脳の奥が、カッと熱くなる。
急に落ちてくるコインが物理法則に反してゆっくりと落下速度を緩めた。
くるくると高速で回っていたはずのコインに描かれた模様が細部まで認められる。
身体が重い。
自由に動かぬ代わりに、思考だけはいつも通りに走っている。
単に僕が神秘力を扱えていないだけ。やはり大声で気合を代替するには無理があった。
喉よ、張り裂けろ、と後先考えずに怒鳴ったのに。
「…………喉?」
気付き。
その直後、
コインがステージに落ちて、裏側を見せながら軽く跳ねる――
「【
喉の奥ではない。
僕が意識すべきは、
「君の主は僕だッ! 君が従うべきは……っ」
神秘なるものは最初から身近に……僕の身、そのものに刻まれていた!
アインシャント・アインエリアル!
不承不承の師匠に不承の箇所に刻まれた、契約の印。形は違えど、これもまた神秘に違いない。
契約の印が稼働する感覚を思い出せ。
僕が唯一、神秘を感じられる箇所。
「
――跳ねたコインが、反転する。
わさわさと葉の茂る雄大なりし
「裏返した……!」
「特殊能力『
ステージ上の夜は朝に追われ、空が瑠璃色へと移り変わる。
気持ちよさそうに泳ぐ一筋の星。『
誰もがみとれる煌めきが、【
【
体感では個体名を持つカードはほとんど
だが一部の低レアにも名付けられたカードはある。
ローレアリティでありながら、人々に知られる活躍をしたカード。
もしくは、ハイレアリティだったものが凋落したカード……。
そういった特筆すべき一部の特別なカードの存在が、低レアの
ネガティブカードとは後者。
元々は
「そう考えれば【シャルロッテ】みてえに、
「エルスのそれに言われたくはない……! なにその馬鹿げた強化は!?」
特殊能力の名称がそのまま名付けられたということは、それこそがかの妖精の核。
「『
「……エルスがあたしをおちょくっていたことは理解した。何が『行動力3だと!?』よ。
「あえて口には出していなかったんだが……さすがに気付くか! そして驚いたのは本当だ!」
対象カードの数値に倍率を付与する――それは
そして恐るべきは、積算が最後に行われること。
他に強化が積まれていたのなら、それら全てを計算した後の数値が二倍になる。
今なら【ラビッツオーケストラ】の強化が合計で戦闘力四倍となっているが、これが五倍になるのではなく四×二で八倍になるのだ。どれほど極悪か、字面だけでも分かるだろう。
そしてヒメリカが指摘したように、【ラビッツオーケストラ】の強化項目は
「『
「さっきのターンで【いとのおともだち】が絡めた糸の耐久が残り1点になっていたから。素のプレイヤーなら2ターンは持つはずなのに!」
「プレイミスだ!」
動揺していたせいでごまかすのを忘れて、3回分全て使って防御しようとしてしまった。気付かんやろと思ったが、やっぱり気付いてくる。
「行動力2にボーナスが1……それが二倍になって行動力6はもはや犯罪に近い」
「『
「アズテラちゃんが殴り込みに来るのがこわい」
「人のカードを勝手に名付けないでくれ」
僕は【
舌の根が熱く乾くのを感じながら言葉を発する。
「【
夜を瞬く妖精は、ぷい、とそっぽを向きながらも僕の指示に従い、指先をぷいぷいっと振って【いとのおともだち】を壊してしまった。
見た目は悪いが指示を聞いたのでヨシ!
どうやって壊したのか分からなくてちょっと怖いがヨシ!
指を振っただけで壊すってとっても神秘的です。
「よし、魔術陣の上で待機だ」
「……攻め込んでこない?」
「タコ殴りにされるのは好きじゃないんでね。ターンエンドだ」
敵陣に攻め込むにはまだ準備が足りない。この手番では逆襲の一手を用意できただけで十分。
本格的に逆撃を与えるのは次のターン以降だ。
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