第152話 短縮御前決闘 VS エドアルド・ピッカリン
あれよあれよという間に、テーブルチェアセットの前にスタンバイさせられ戸惑う僕。
打って変わってやる気まんまんのエドアルドさんとやらは、僕の前に立って威圧感を振り撒きながら筋肉を誇張した。
殴り合いだと勝ち目はないが、それでもいいのかお姫様。
僕が細腕をアピールしようかとローブの袖をまくりかけたところで、ピッカリン伯が提案した。
「フルフェイズをやらせてはいささか長くなりすぎる。ついては短縮形式での決闘がよろしいかと存じますが、いかがですかな」
「構いませんわ。規則を多少いじったところで、私の騎士が揺らぐことはありませんもの」
シャルノワールが即答したが、せめてどんな規則か僕に教えてから了承してくれないだろうか。短縮形式の決闘って何。
腰に下げられた剣を使われたら、秒で僕がズンバラリと解体されて終わりますよ。
「ボーっとするな」
「いたっ」
頭をボカリと叩かれて、どこかに飛んでいた思考が目の前に戻ってくる。
アズライト先輩が憤然とした様子を押し隠して立っている。僕にこう思われるということは、全然隠せていないワケだが。
瞳の中に怒りを灯らせたアズライトが顔を近づけて小声で言った。
「いいか、姫様の期待に応えて、あの青二才をぐちゃぐちゃにしろ」
「武器もないのに無茶苦茶言うなよ。剣でぐっちゃりするのは僕の方だろ」
「馬鹿か貴様は。へっぴり腰の剣技などちーっとも期待しておらんわ。カードに決まっているだろうが」
それを早く言ってくれ。
カードならなんとでもなる。……と、いいな。
さすがにあのエドアルドさんが、シャルノワールとかパスタリオンと同等の神秘攻撃を繰り出せるようなら勝ち目は薄い。
なんとか僕が勝ちを拾ったとはいえ、正規の勝利とは言い難い勝利だったので。
真っ向から勝利を拾わなければならないなら、少しばかり考える必要がある。
「デッキ組み直したいからちょっと時間くれない?」
それに、せっかく引いた金色のうさぎデッキをまだ組んでないのだ。
どうせ対戦するなら新しいカードをお披露目したい。
アズライトに訊くと、周囲の偉い人たちに確認を取ってくれた。
「十五分で決めろ。それと理解していないようだから教えておくが、短縮決闘はそれぞれのフェイズにおけるターンが少ない。ウルズ1ターン、ヴェルザンディ3ターン、スクルド2ターンの計6ターンで終わるスピード勝負だ。ターン数が激減する代わりにドローの枚数が三枚に増加する。使用カード数の制限に変更はない」
「とんでもないルールだ……」
下手するとヴェルザンディの1ターン目で吹き飛ばされる、
スピーディーすぎるスピード感、刺激的なヒリつくドローになること請け合いだ。
手札を一枚食べさせて二枚ドローなんてやってる暇はなさそうだった。
「確認しておきたいんだが、彼が腰に下げてる剣で攻撃されることはあるの?」
「カードによる対戦中は保護がかかるからな、カードではない剣で攻撃されても所持している戦闘力分のダメージしか受けん」
「神秘攻撃されたらそのまま首チョンパされたりとかしない?」
「首を刎ねられてもゲームは続けられる。問題なかろう?」
「あるだろ、どう考えても……!」
デュラハンじゃねぇんだぞ、僕は!
ぶった切られた首を抱えてカードやれとか言うのかよ。
「冗談だ」
アズライトは真顔で言った。
「冗談に聞こえねえ……」
「仮に首を飛ばされても、ゲーム中、直ちに死ぬワケじゃない。痛いのは我慢できるよな、オトコノコ」
「あー、はいはい。僕が我慢すりゃいんでしょうよ! ……神秘攻撃の反則基準がよくわかんねえな」
プレイヤーを緊急脱却させる威力の神秘攻撃は問題ないのに、劣化コピーの【星剣】を破壊しようとしただけで反則扱いになる。
どちらかといえば、前者の方が凶悪で規制すべきだと思うのだが。
「簡単なことだ。姫様との対戦の時、厳密にはカードを、カード以外の力で破壊に至る結果が反則になっただけで、対戦中に神秘を行使することは何ら問題がない。プレイヤーの生命だけは神が特に強く保護しているから、上手く調整してやればプレイヤーカードは壊れない。攻撃の結果、精神に支障をきたすほどの痛みを与えたとしても、プレイヤーカードは無事に残っているから、反則にならない」
「そういう
「相手が使ってくるのだから、こちらも使わねば無礼というもの。違うか?」
ようやく理解したのだが、こいつら頭の中に戦国時代を飼っていやがる。
首を刈ろうとしてくる相手よりも先に首を刈れ、が基本戦術になっていることに疑問を挟むことはないのか? ないんだろうな。
アズライトは真顔に薄ら笑いを浮かべて言った。
「冗談だ」
「いやだから……」
「やつにそこまでの技量はない。腐っても神々の保護、生半可な腕では貫くことなどできん。安心してカードに精力を注げ」
思わず僕がきょとんとしてアズライトの顔を見ると、「ふん」と呼気を吹いて、僕の肩を叩いた。
助言はここまで、とのことだ。
あとわずかな時間でデッキを組み直さなくてはならない。
思考する。
僕の使いたいカードはいくつもあるが、この短時間で使い切るのは難しい。
それならば状況に見合ったカードを採用し、ポテンシャルを確かめるのがいいだろう。
この対戦、メインに使うのはやはりうさぎだ。
【白毛三目の月兎:ルビ】も入れておくが、すでに現時点で引ける気がしない。
スクルドフェイズではドロー自体が制限される。
つまり、カードを手札に入れる機会が極端に少なくなっているのが短縮決闘の特徴と言える。
初期手札五枚に加え、ウルズで三枚、ヴェルザンディで九枚。計十七枚しか引けない計算だ。
デッキ最低枚数の五十枚にしても、三割しか中身が見れない。僕の貧運では山札に遺されること請け合いである。
たった四回の手番でこの手札を膨らませるなり、相手をぶっ飛ばす
しかもフェイズ移動がすぐさま行われるので手札を即捨てる必要があり、見た目以上に使えるカードが少ない。
こんな即興で組んだデッキで戦うルールではないと思うが……。
僕がチラリと視線を上げ、相手方を見るとエドアルドさんは自信ありそうに胸筋を張った。敵さんはどうやら準備万端らしい。これ以上待ってはくれなさそうだ。くそ、うるさい筋肉だな。
正直、準備不足ではある。が、待ってくれないのならこれでやるしかない。
勝ち筋に目算を付け、僕はデッキ編成を終えた。
「お待たせした。始めようか」
【
【Link!】【next target:エドアルド・ピッカリンを倒せ!】
【miniature garden Set...】
【ピッカリン家長男:エドアルド・ピッカリン と マッチングしました】
【Short Gozen Battle】
【Take care】【of】
【Psyche!!!!!!!】
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