第65話 スプリンガー・バトルフェス(Grand Final) VS HIME-RIKA
『夜のゆりかご』、なんてお洒落な戦いの場。
そこに立っているお洒落とは程遠い姿をした僕はくすぐったいような、そわそわとした気持ちで対面の少女に話しかけた。
「改めて。久しぶりだな……とか言っておこうか。君も――マリカもノル箱をやっていたんだな、また会えて嬉しいよ」
ここまで来れば当然かもしれないが、彼女の正体は僕も察しがついている。
姿かたちこそ別物だけれど、長らく鎬を削ってきた、カオティックムーンでは“人形姫”で知られるマリカ本人だ。アッシュがやられるようならば、断じてしまっても良いだろう。
相手を踊り狂わせるようなプレイングは猪突猛進なアッシュに対してすこぶる相性が良かった。
アッシュも結構な大口を叩いていたが、あえなくやられてしまったということは、戦い方は変わっていないのか。
マリカはグローブをキュッと締めて、
「エルスがノル箱を始めたから、始めただけ。捨てた女が追いかけてきて、本当に嬉しい?」
「待て、まてまて。その言い方には語弊がある。僕はアッシュがノル箱のことを教えてくれて始めただけだぞ。狂月も別にやめては……いない」
「全国で会おうって、約束したのに。来なかった。捨てられた」
「いや、それは、運営の意向で大会には出られなくなっただけで……もう二度と会えないかもしれないと思ってたから、こうしてマリカと対戦できるのは嬉しいよ」
僕がそう言うと、そこはかとなくマリカが頬を緩めた気がした。ありがとうモテの伝道師マーリン、あなたの公開したウェブサイトのおかげで一人の男の子が助かっています。
「それなら許す。あと……あたしはマリカじゃなくて、HIME-RIKA。狂月のマリカ、そのままだと思っているなら痛い目を見る。進化したノルニルのHIME-RIKAが、LSの伝説に終止符を打つ!」
マリカ――いや、ヒメリカが虚空よりデッキホルダーを引き出した。
タータンチェックのリボンを結んだテディベア、ぬいぐるみ型のデッキホルダーを抱えて、ステージ中央に現れた紫の光線で描かれたマス目に侵入する。
「伝説、ねぇ……」
いつの間にか畏敬の視線とやらを向けられるようになった切っ掛けに苦笑し、僕もまた蒼色のマス目へと足を進める。
「そんなものに僕は興味ないんだけれど。でも、そのおかげで僕と遊びたいって人が来てくれるんなら、更新して待ちたいところだな」
【miniature garden Set...】
【プレイヤー:HIME-RIKA と マッチングしました】
「「いざ尋常に――」」
【Springer BATTLE FES】
【...Grand Final...】
「「
【Take care】【of】
【Psyche!!!!!!!】
コイントスはユグドラシルのぐねった根が露わになり、またしても僕は後手となった。
個人的にはやはり4ターン目に自由度の高い先手が好きなのだが報われない。
僕は大鎌で裂いた空間から、ヒメリカはテディベアの背中から、初期のカード五枚を補充する。
<1st phase:Urd's turn>
「あたしのターン、ドローを行う!」
今度はテディベアの口に手を突っ込んでカードを引き抜く。
手に持っているのが邪魔だったのか、ポイと捨てられたくまさんぬいぐるみは悲しげに宙に浮いた。ドローの度に手を突っ込まれるの、かわいそうだな……。
「あたしは一歩前進して、」
ヒメリカが紫の線を縦断し、中央中列に陣取る。
そして手札から一枚のカードをピックアップ。指先に構えた。
「このカードを中央前列に伏せる。それでターンを終える」
「……伏せる、だと?」
「ええ。何か問題が?」
「いや……システム的に問題がないんだろう、大丈夫だ」
今までの対戦相手に無い機能で、大変困惑している。――だが、面白い。
ノル箱にはフィールド上におけるカードの表裏という概念がない。
フィールドに出陣した時点でキャラクターとして出現するからだ。
例えば巨大なサーヴァントみたいな遮蔽があるなら物理的に隠す、といったことはできる。だが、すでに出陣しているサーヴァントを見せない、ということは基本的に不可能だ。
一部の情報を秘匿する、あるいは出陣自体を秘匿することは可能。条件は限られるけれど、実際にやられている。
しかし、このように堂々と真正面に裏側表示で置かれたのは初めてだ。
「……あるいはサーヴァントではなく、
思い出すのはアッシュの使った
アレもまた条件を満たすまでは場に出るけれども開示されないカードだった。
違いとしては、明確に
「ヒメリカ、確認するが、仮にこの状態のままヴェルザンディにフェイズ移行した時、その伏せカードに通常攻撃を行うことはできるか?」
本質的に、このカードがサーヴァントか否か、というところまで収束させる。
サーヴァントと神秘では対処の方法が全く異なる。早い段階で看破の糸口を掴む必要があった。
通常攻撃が通るならば、そこに実在するカード、つまりサーヴァントが出陣しているのだと予測する。
ヒメリカは小首を傾げて、微笑んだ。
「エルスがしたいなら。あたしは止めない」
「答えになってないが」
「答える必要、ある?」
ない。
……とは、さすがに口に出しては言えなかった。
明らかになっているテキストの判定に関しては
システムに認められて伏せている。情報の隠匿もまた許可されているということ。
サーヴァントの振りをしている
僕は実際に見たことないが、攻撃したが最後、行動不可能になる罠とか仕掛けられていても驚きはしない。
「うふふ……」
早くも深き悩みの森に迷い込んだ僕の耳に、さらなる森の奥へと誘う笑い声が届く。
「ヒメリカ?」
「あ……、ごめん」
いつの間にか俯いていた僕が顔を上げると、ヒメリカは口元をテディベアで隠した。
「久しぶりにエルスを悩ませられて、嬉しすぎた。まだまだ用意してあるから、楽しみにしていて」
「そりゃ……随分と悩ましいお誘いじゃないか。まるでワンダーランドに来たみたいにワクワクするよ」
僕が軽口を叩くと、ヒメリカは頬を赤らめて頷いた。
どこに頬を赤らめるような要素があったのか全く不明だが、とにもかくにも彼女の琴線を射抜いたのは確かなようだ。女心を教えてくれマーリン師匠。
まだまだお楽しみギミックを用意いただいているとのことなので、先に進めていくしかなさそうだ。
少しずつ情報を集めて、いざという時にしっかり対処する。
結局、いつも出たとこ勝負になるのは改善したいとは思っているが仕方ない。
「僕のターン、ドロー!」
大鎌で切り裂いた空間から零れ落ちたカードを宙で拾い上げる。
くそう、なんて悩ましい手札なんだ。
あまりにも悩ましすぎて僕は目蓋を揉んだ。
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