第213話 少しばかりキレやすいうさぎさん
ネタバラシをする気配もなさそうだったので、それは後のお楽しみに取っておくとして。
促されるがままに僕は手番を開始した。
「僕の手番、ドロー!」
何度か回ってきた手番のおかげで、再び僕の手元にはカードが集まりつつある。
「……ふむ。一当てしてみるか」
様子見にちょっかいを出せるぐらいには手札に余裕が戻ってきた。
このドローで僕の手札は七枚。【シルキー】による一流の主婦術『おかいもの』でさらに二枚が増えて、合計九枚。
大盤振る舞いしてもよかろう枚数だ。というか、多少は使っておかないと、またさっきみたいに枚数交換されるとキツい。
ああいった妨害系統は複数枚入っていてもおかしくないカードだ。
他のカードゲームだと強力なカードを複数枚仕込むのは割と当たり前の構築である。制限枚数いっぱいまで詰め込まれるのは不思議ではない。
だがノル箱では強くてレアリティが高いほど、
それは単純にレアリティが高いと、同一カードを複数枚入手するのが困難になるからだ。
代わりに低レアの中でも有用で手に入りやすいカードがよく複数枚運用される。
特に
序盤からドロー補助もないのにフルナのフィールドに高単価低レアサーヴァントと妨害系の
鳥獣のくせにデカくて強い壁で身を守りつつ、稼いだ神秘力で妨害を張り、キーカードはピンポイントで
相手に対しては言葉の暗幕で本当の目的を煙に巻く……。
理解できる場面がやってきたのなら、時既に遅し。これまでに受けたことのある速攻を超えた速攻が来るのかもしれない。
――ならば、お互い直接的な行動に出ていない沈黙の時間は、この時点においては、僕が手札を稼ぐよりもフルナに利している可能性が非常に高い。
僕は新たに追加した手札の中から、一枚を選んで右手に収める。
こいつは僕のデッキにおいてはマイノリティに分類されるカードだ。
「フルナはうさぎと妖精だったらどっちが好き?」
「いきなりその質問は何……」
真顔、と言うよりは意図の読めない質問に困惑している様子のフルナ。
「単に気になっただけだから気軽に答えてよ。どう答えたからって結果は変わらないから」
「それなら……うさぎかしらね。敵として出てくるのなら、うさぎの方が可愛らしいもの」
「なるほどね。好きな方で良かったよ」
僕は眼の前、敵陣中央中列にサーヴァントを出陣させる。
鈍色の光を裂いて現れたうさぎは、黒色の毛皮に朱い瞳を備えていた。
「……私のイメージしたふわふわもふもふのうさぎより、少しばかり尖っているような気がするわね?」
「確かに前歯は鋭く、爪も鋭利だと思う。でも愛くるしいうさぎじゃないか。ちょっと毛皮の色が黒いからって見た目で区別するのは良くないぞ!」
「国際問題になりかねない責め方はやめなさい! それにただ黒いだけじゃないでしょう!?」
「どこがですかね?」
僕がすっとぼけると、すこーしイラついたのか、額の血管がわずかに浮いた。
「爪や牙もそうだけれど、何よその剛毛は! 動く度にシャリシャリ金属みたいな音を発してるじゃないの!」
「涼やかな音で夏にはピッタリだな」
「そう言うならいつもみたいに撫でてみなさいよ」
「いいとも」
マスの線ギリギリまで歩くと、機敏な動作で近寄ってきたうさぎが撫でられ待ちをする。
いかに金属っぽい質感だとしても毛並に逆らわなければ……
「ほら、しゃらしゃらして気持ちいい」
「き、切れてる! 切れてるわよ!」
「え?」
撫でていた右手を顔の高さまで持ち上げると、薄切りにミスって全部繋がっているきゅうりみたいになった指たちが軽やかに開いた。
真っ赤なポリゴンが飛び散ってきれいだ。夕焼けを浴びた噴水のように輝いている。
「スベスベの毛並を触ったらこういうこともあるね」
「ないわよっ!? スベスベすぎるでしょうが、それは!」
切れ味が鋭すぎるせいか、痛みはない。
欠損なし、ダメージなし、痛みなし。
「何の問題もなくこいつを愛でられたな、ヨシ!」
「どこが!? あっ、治ってる!」
システム的にも何の損失もないので、瞬く間に肉が盛り上がって治った。……もうちょい視覚的に良い治し方なかった?
指の関節が増えてないか確認する僕に、ちょっと嫌そうな顔でフルナが尋ねる。
「それで、無理やり癒やしキャラにしたその子のお名前は?」
「
「やっぱり危ない生き物じゃないの!!!」
失礼な。飼い主にはよく懐く可愛らしいうさぎだというのに。
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