第214話 汝その名は首刈りうさぎ
【
もっとも名称自体はそれなりに知れ渡っているだろうが。
首刈り兎とも称されるのは、古き良きレトロゲームから繋げてきた悪夢の歴史があるからだ。
何度首を刈られて即死したことか。
他のゲームや創作物においても、一定の存在感を放ってきたのがこのうさぎである。
なお、ノル箱的に【
とはいえ、純粋な
「戦闘力1800……うさぎの割には相当な強さじゃない」
「僕も一枚くらいは正面切って戦えるカードを入れておきたいお年頃なんだよ」
これだけ搦手と特殊能力だけで戦う姿を見せてきた以上、そこを対策されると何もできなくなる可能性がある。
その対策として単体でも打開のきっかけになるカードを入れたくて探していたところ、ちょうどいいのが【キラーラビット】だったということだ。
この戦闘力だけあって、さすがに他のうさぎよりは高額に設定されていたが、それでも他のシリーズの同レベル帯カードに比べると異常に安かった。
デッキ構築はなるべく同じシリーズに染めることでシナジーを得やすくするのが定石。
仮に外れていたとしても入れる価値のある一枚ならば入れておく、といった構築が通常の思考だろう。
【キラーラビット】はちょっと使ってみたいが、うさぎのシリーズ価値をブチ上げるほどではなく、また一枚だけうさぎを混入させるほどでもない、そんな感じの立ち位置に落ち着いている。
つまり、うさぎを運用する僕にとっては素晴らしく価値が高いのに安価なコスパ最強カードになる。
「戦闘力1800、生命力600は他のシリーズでもなかなか見ない
「攻め手の時は無類の強さを発揮する。特に相手がプレイヤーだとなお良し!」
「『
本来の【キラーラビット】は相手の種族を問わずキルしていく羅刹のような生き物らしいが、カードになった【キラーラビット】は『
「行動力1を消費した後に攻撃をする際、対象がプレイヤーカードである場合に限り、プシュケーに直接3点のダメージを与える。説明文を読んだだけなら強そうなんだけどな」
いやまあ実際強い。これって防御とかすり抜けてプシュケーにダイレクトアタックということなので、相手がキッチリ対策していなければそのままゲームを終わらせられる。
……強いのだが対策はめちゃくちゃ簡単で、プレイヤーが相手をしなければいい。そうすれば多少戦闘力の高いノースキルカードと同じだ。
人殺しがもっとも得意なのは人間ということで、うさぎを入れるくらいなら人間種族で探せば便利なのが見つかる。
わざわざうさぎに枠を割く必要がなく、採用が全く無いというワケだ。
「ともかく、こいつで君のプシュケーを
「6点……? 行動力2の【キラーラビット】がどうやって? 出陣で残り1だから私が受けるダメージは3点のはずよ」
「忘れちゃ困るな。僕たちの背後には【ラビッツロック】が控えているってことを!」
「行動力を倍にする【マジカルベース】の効果範囲は横一直線ではなかったの?」
チッチッ、と僕は舌を鳴らして指を振った。
「ついうっかり説明し忘れていたが、【マジカルギター】の効果範囲は縦一直線だ。恩恵はバッチリ受けられる位置にいる」
「何がついうっかりよ……!」
【
ちょっとごまかしてやろう、なんて意図は少ししかない。
「【マジカルギター】の強化は縦一列に、行動力1に対する攻撃回数を倍加する!」
僕らの背後から鳴り響くバフを乗せた鮮烈なギターリフがフィールドを切り裂いた。その短い指でどうやって弾いているのか。
行動力1の消費で単発が連続攻撃になる強化は単純に強力無比。
【ラビッツロック】は【オーケストラ】と違って、カード性能を強化するというよりも、カードの行動を拡張する側面が強い。
弱いカードの底上げに使うのが【オーケストラ】だとすれば、元から強いカードの性能を拡張してできることを増やすのが【ロック】だ。
効果範囲とも噛み合い、奇襲をかけるには有用すぎるのが【ラビッツロック:マジカルギター】だと言えよう。
「よしよし……【
「ダメ元でも防御を……!」
フルナの
けれども軽やかに地を蹴った【キラーラビット】は中途半端に構えられたフルナの腕を足場に、疾風の如く首筋を撫でながら跳ね上がる。
白いフルナの首筋からパッと赤いポリゴンが散った。
とっさに首筋の傷を押さえたフルナの頭に着地した【キラーラビット】はトドメとばかりに連続攻撃、スコップみたいな牙で穢れなき農地にその刃先を深く突き刺した。
「ご、ふ……っ」
薄い唇からも血色のポリゴンが逆流するが、フルナが痛みに苦しむ様子はなかった。痛覚をカットしているからであろう。
【キラーラビット】が攻撃を終えてマスに戻ってきたところで、リアルの感覚に引っ張られた思い込みによる苦しみから解放されたフルナの傷が整復されていく。
ごほ、と軽く咳き込んだフルナが血色を和服の袖で拭った。
「……なかなか予定通りにはいかないものね」
「だから面白いんじゃないか。全部が思い通りに行く、予定調和のゲームなんてつまらないもんさ」
「私は立てた計画が問題なく実行されることにも快感を覚えるのよ」
意見を違えるとは残念なことだ。
まあ、どこまで計画通りに進んでいたのかは知らんが、これからも計画から横道に逸らしまくってやるから覚悟してもらおうか。
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