第188話 神秘攻撃防御訓練(激辛)

 正式な星騎士ステラナイツになることの前提として、神秘力の適切な運用の可不可がある。

 僕が職技能ジョブスキルを習得するには順番的に、カード無しで神秘力を多少なりとも扱えるようにならなければならないということだ。

 さすがは高難易度職業、前提が大変すぎる。


 神秘力を扱う鍛錬はアインエリアルと共に前々から行ってきた。

 それの進捗があり、プライベートルームでの秘密特訓に至ったのだ。


 なぜプライベートルームでやっているのか……。


「それにしても便利ねぇ。うらやましいわあ、ノルニルの加護を受けた戦士たちが自由に使える私室。どれほど壊しても、すぐに元通りですものねえ」

「私たちが何かするとすぐに壊れてしまいますから……。ストレスの発散に良いですわね」


 怒りとかイラつきみたいな感情の大本を充分に発散したおかげか、和やかな雰囲気で微笑み合うアインエリアルとシャルノワール。


 ゲーム中の通常フィールドで強力な神秘攻撃を行うと破壊活動の規模がとんでもないからな。王都の近隣で練習するのが中々大変であることは同意する。

 プライベートルームなら好きなだけ神秘力の鍛錬ができることは理解できる。


「だからと言って、僕らに好きなだけ攻撃をしていいということにはならないのでは?」


 やられまくって精神的にボロクソになった僕はホクホクと笑顔で話している二人に言った。

 しかしアインエリアルは取り付く島もない。


「急いで神秘を使えるようになりたいと言ったのは貴方じゃない」

「その鍛錬がアンタらの神秘攻撃を受けまくることなのか、ってコトだよ! 僕が痛い思いをしているだけで、全然成長している気がしないぞ!」

「それはそうでしょうね」

「そうでしょうね!?」


 僕の苦言に同意するシャルノワールに思わず目を剥く。


 加護の恩恵かなんかで身体へのダメージはないが、攻撃を受ける度にはちゃめちゃ痛いのだ。

 歯を食いしばって我慢しているのに、そうでしょうね!?


 シャルノワールは頬に手を添えて答える。


「私も満足しましたし……、“翠の魔女”、やはりかねてから伝えていた通り、星騎士ステラナイツの新人訓練に入れた方が良いのではなくて? こんなにもぬるい訓練ではLSも不満がある模様ですわよ」


 ……ぬるい?

 四六時中、地面やら木々やらのオブジェクトを吹き飛ばす威力の神秘攻撃が飛んできて、それを初心者の僕に避けるか防御しろという無茶振りの訓練が?


 【フラワリィ】がこっそりと耳元にやってきて小声で囁く。


「LSさん、LSさん。お姫様の仰る通り、早々に職技能ジョブスキルを身に付けたいのであれば主職メインスキルに沿った訓練を行うべきですよぉ! 遠回りをしてフラワリィさんを巻き込んでいる余裕がLSさんにあるのですかぁ!?」


 どことなく翅を煤けさせた【フラワリィ】は僕に正道へと立ち戻ってほしいようだ。


 どうやらこの訓練はアインエリアルの意向が加わった、イレギュラーなモノらしい。職技能ジョブスキルを身に付ける、ではなく先に神秘力の扱いを身に付ける、という段階であるからシャルノワールも許容しているのだろう。


 なにせ普段なら加減しなければならない神秘もここでは撃ち放題だし。

 本人が喜々として参加しているのだから許可もクソもない。


 とはいえ満足したらしいシャルノワールから訓練変更の提案が出ているのは、どう反応するのか。


 僕としてはこれよりキツい訓練に参加したくない気持ちが増してきている。どんなおぞましい訓練を超えて星騎士になっているんだ……。


「ダメよお。あそこの訓練はつまらないから」

「訓練ですもの。代わりに最速で最低限の神秘運用を覚えさせますわよ」

「その代わりに画一的な騎士に育ててしまうじゃない。私に育成方針を任せてもらう、って話で妥協したのだからここは私に従ってもらうわあ」

「分かっていますわ。“翠の魔女”が育てた方を私の騎士として迎えられるのであれば文句ございません。あくまで手段の提供、意見の提案に過ぎませんわ」


 僕の意見を聞くまでもなく、提案は却下されてしまった。

 良かったのか、悪かったのか。少なくとも巻き込まれ続けることが確定した【フラワリィ】としては悪かったらしく、がっくりと肩を落として僕の頭に着地した。


「うぅ……久しぶりの出番だと思いきや、こんな酷い役回り……。LSさん、恨みますよ……」

「一緒に訓練してパワーアップしようじゃないか、はっはっは」


 意訳:逃さないぞ。

 相棒を名乗るのなら、僕の辛さも分かち合わないとな。


「鍛錬が必要なのはフラワリィさんじゃなくてあの子じゃないですかぁ……。フラワリィさんは大舞台のここ一番でお呼びいただければ結構ですので、このように地味な場面ではあの子を呼んでくださいよぉ」

「すぐにそうやって役目をパスしようとするのは悪いところだぞ」

「ぐぬぬ……LSさんに紐付いてなければ、フラワリィさんも神秘を投げる側にいたはずなのにぃ……!」


 味方のはずなのに恐ろしいことを言うな。

 二人分の神秘攻撃であれだけボロボロになってんのに、三人になったらあっという間にズタボロよ。


 【フラワリィ】は僕のつむじをツンツンと突いて苦情を申す。


「本来ならフラワリィさんも神秘防御できるんですからね! 今はカード状態だから難しいですが……だからLSさんには早く習得してもらわないとずーっと灼かれ続けるんですよぉ! しっかりしてくださいな!」

「んなコトを言われてもな……」


 アインエリアルの協力で終えた神秘力を感じ取る訓練の次は、それのさらなる成長に加えて内なる神秘力の詳細な感知、運用が目的となる。


 神秘力の感知ができるようになった時点で、自身の中身に神秘力が宿っているのは把握している。


 その神秘力をうまいこと操って、いろいろな事象を起こすことができて、ようやく神秘紡ぎミスティック・ライターとしては駆け出しといったところだそうだ。

 神秘を紡ぐ者。なんとも語感の良い響きだ。


 駆け出しになるために適当な訓練の一つとして、今回のような神秘攻撃によるショック訓練があるとのこと。


 ちょっとした攻撃でも無防備な者であれば生命の危機を感じるほどの痛みを与えられる。それによって火事場の馬鹿力を引き出して無理やり使えるようにする、というのがこの訓練の趣旨らしい。

 少しやったから分かるが、行き当たりばったりのクソ訓練だぞ、コレ。


 例えやりすぎてもノルニルの加護があって無傷で生き返るからって、全く遠慮も手心も加えられずに地震雷火事おやじをぶつけられている。

 防御したつもりでも上から潰されるばっかで、果たしてこれが神秘力を運用できているということなのか、実感は全然湧かない。


「なんかアドバイスとかないのかよ、サポートAIだろ?」

「今は違いますぅ~! ……でも、いい加減に解放されたいですからね……。……いいですか、LSさん」

「うん」

「真なる神秘を扱う方々と違って、LSさんたちのような種族にはそのような器官がございません。代わりに発達させた神秘術では、条件と事象を限定することで一部、あるいは一時的に再現することが可能になりました。つまり、LSさんが御自分の神秘力をねちねちこねているだけじゃ無駄ってことです」


 いや、じゃあ、一体どうすれば?

 僕はやっとこさ身の内にある神秘力の動かし方を理解してきたばかりなのだが。攻撃を受けるところに神秘力を集めるだけじゃダメなの?


「どうやったら防げるとか、特に難しい理論なんかは要らなくて。とにかく求める事象を強く想像イメージすることですね。あのお二人はLSさんを極限状態に追い込むことでそれを引き出そうとしています」

「オーケー、分かった。ここでクリアしておかないと、死ぬほど辛い目に遭うことは確定するわけだ」


 アインエリアルの気分が変わる前に何としても訓練をクリアする必要があるようだ。

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