第141話 ノル箱ちゃんねる FAF 新規情報お届け!
異議も取り下げられたところで、厳かな雰囲気でMVP賞の授与が行われた。
プレイヤー初の『
何なら副賞的な感じで新職業の『
なんとか会場の雰囲気が復調してきたのは、用は終わったとばかりに、授与が済み次第シャルノワールが退場してしまったからだ。
自由気まますぎるぞ、王族。
七人のプレイヤーたちも表彰式が終わって送還されており、ステージの上に残ったのは疲弊しきった紅めのうだけ。
まだ仕事があるの辛い。
そう思いながらもこれでおまんま食べている日もあるので仕方がない。
元気をなんとか腹の底から掘り出して、笑顔を作る。
「さて! ちょっとしたハプニングもありましたが……ここからは皆さん、お待ちかねの新規情報をお伝えするお時間になります!」
>ちょっとした(?)ハプニング
>消された男
>ミステリとかサスペンスみたいに言うのやめてもらっていいですか
>公衆の面前で消されたんだよなぁ……
>誰も新規情報気にしてなくて笑う
>プリズムカードパックが実装されるのはもう知ってるしな
「おっと、コメント見てますよ~? そんなに油断していていいんですか?」
めのうが指をパチンと鳴らすと、注意テキストが会場・配信を問わず観ているプレイヤー全てに流れる。
曰く――『視界ジャックまで十秒』。
「こちらプロモーションビデオを御用意しています。何かを言う前に、御覧いただきましょう!」
視界がブラックアウトする。
青空。
白い雲が浮かぶ空を、大きすぎる渡り鳥が横切っていく。
その後を滝のように飛沫をあげて潮が打ち上がる。眼下へと視界が移り、島ぐらいあるクジラらしき生き物が大口を開けて海を飲み込んでいた。
場面転換。
草原ではうさぎがのんびりと草を食み、蝶が花の蜜を吸おうと飛び回る。
その先、森の中。
蛇が木々を這い、黒い影が動く深い森の奥を探索する人の群れがあった。
不穏な音楽と共に、開けた場所に出たと思いきや、突如襲いくるゴブリンの一団。リーダーよりも立派な装備をした敵を目にしても、怯むことなく各々が武器を構え、
その決着が着く前に、周囲一帯を震わせる轟音が鳴り響く。
森から視界が高く、遠くなっていき――真竜と不死鳥が激しく争う様子が映される。
不死鳥の嘴が真竜の眼球を砕き、真竜の牙が不死鳥の翼を破る。
そしてお互いに吐いた焔の渦が世界を埋め尽くした。
「――旧き時代のお話さ」
おばあさんがそう締めて、古ぼけた本を閉じる。暖炉の灯りで読んでいたことから、寝物語であることが分かった。
「もう竜も不死鳥もいないの?」
静かにベッドで聞いていた子供が尋ねた。
その目に眠気は全く訪れておらず、好奇心を爛々と輝かせている。
おばあさんは子供の頭をゆっくりと撫でた。
「さあねえ……。まだまだ人が行ったことのないところはたくさんある。だから、どこかにいるかもしれないし、いないかもしれない。誰も知らないのさ」
「僕……見てみたい!」
「それなら、強くならないと。さあ、もうおやすみ。よく寝る子がよく育つ」
そう言って、おばあさんは子供の瞼をそっと閉じた。
子供が次に瞼を開けると、露に日が反射して眩しい朝が訪れていた。
ブーツの紐を固く結び、荷物を詰めた袋を取る手は、雄々しく成長している。
家を出て、扉を厳重に封印すると、子供――いや、十分に青年と呼べるようになった彼は、すぐ近くに積んだ石塔に告げる。
「行ってきます。世界を端から端まで見てくるよ、ばあちゃん」
そして、青年は朝日に向かって歩き出す。
消えていく背中を背景に、何かが浮かび上がる。
【――ノルニルの箱庭――】
【Ver1.0 ~暁の六等星~】
装飾を新たにしたタイトルロゴ。散りばめられた星が鈍く光る。
登場させたそれが、徐々にフェードアウトしていき……PVが終わると思った、最後。
声だけが届いた。
「……ふぅん、あなたも
夢から醒めるのと同じ感覚で視界が開放される。
キービジュアルにいた少女のコスチュームを纏った紅めのうが両手を挙げ、朗らかに告げた。
「『ノルニルの箱庭』、初の超大型アップデート! 『Ver1.0 ~暁の六等星~』が実装となりますっ! 一年の時を超えて、ついにストーリーが始まりますよ!」
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