第98話 第一階層の出世ウサ
内部は広かった。
体育館ぐらいの広さと高さがある印象だ。
「それで――第一階層のボスはあれ?」
「おそらく」
僕らの視線の先、次の階層へ向かうための扉、その手前に立ち塞がる――うさぎ。
他のみんなにとっても、何より僕にとっても見慣れた姿だった。だってあのうさぎは死ぬほどカードパックから出てくるのだ。
【
【
随分と大仰な二つ名がついたものだ。
本ウサはやる気を見せて四足でどっしり構え、こちらに鼻を鳴らしている。
「だんだんとボスが強くなっていくにしろ、初手があのうさぎだと気が抜けるな」
「でも無職プレイヤーが攻撃を受けたらダメージは受ける。最低限の基準が、戦闘力200を超えているということなのかも」
「それが基準なら、しばらくは時間を稼げそうだな。とりあえず待ってくれているようだし、ドローしてしまおうか」
ドローは待機部屋でやっておくべきだったのかもしれない。勝手が分からずに侵入してしまったが、次の階層では試してみよう。
僕らは早速それぞれ五枚の手札を揃えた。
ちなみに僕はデッキホルダーを大鎌から変えている。
いちいち大鎌を操作しないとドローできないのが手間だったし、絞りを入れるのが非常に大変だったからだ。今回みたいなチームプレイだと味方をブッた斬らないように注意しなきゃいけないし。
今度は大鎌と同じくガチャで引いたガントレットを左手に装着している。
ローブの袖に隠れてしまっているが、めくると山札が鱗のように少しずつズレて重なっている様子が窺える。
ドローをするごとに鱗が減っていくので、残り枚数が可視化される優れものだ。相手にも見えてしまうことは気にしないこととする。
「イクハ、フルナ。手札は問題ないか?」
「とくにはー」
「グラスラビット一枚に敗けることはさすがにないわ」
「それならいいが。僕とリッカは準備を進めるが、二人も戦闘しながら次の階層を見据えて準備しといてくれ」
「りょうかいっ!」
イクハとフルナが手札からサーヴァントを出陣させる。
妙に小さくて丸っこいクマ【デフォルメベアー】と、ばさりと翼を打ち滞空している鳥【ブラウンオウル】。
脈々と受け継がれし“
可愛らしいサーヴァントが多く、またカードの共通点が薄いものもデフォルメしてしまえばその仲間、シリーズのカード枚数が幅広く使いやすい。人気のシリーズの一つである。
フルナは鳥獣系のサーヴァントをメインとしてデッキを組んでいる。
鳥獣の特徴は
機動力で先手を打つ、相手に対策を取らせぬまま完封する、というのはどうやらフルナの好みに合ったようだ。
サーヴァントが出陣したのを見て、守護者【グラスラビット】が短い足を蹴って疾駆する。攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
「イクハ! 前に出て
「任せてっ!」
僕の指示に合わせて、イクハが前方へと駆けていき【グラスラビット】の
『
ダンジョンに出現する全ての敵が所持しており、その大きさは様々だが、プレイヤーが
対面している敵とは時間を掛けて考えられるが、時間を掛けてしまうと順番待ちの列がどんどんと伸びていく。朝のコンビニで発生するレジ待ちにちょっと似ている。
「いくよっ、【
ダンジョンにおいてはプレイヤーが常に先手を取る。
だがそれは敵を視認していて、正面からエンゲージした場合だけ。バックアタックやサイドアタックなど不意打ちを受けた時は敵が先手を取るし、曲がり角で出会い頭、なんて時はコイントスになる。
今回、
イクハの指示に従い、【Dベアー】がジャキンと丸っこい手の先から小鎌のような爪を伸ばす。
やはりうさぎはクマには勝てない。
子グマのサイズだとしてもパワーは草食獣とは段違いだ。自転車と衝突したかのように跳ね跳ぶ【グラスラビット】。
【グラスラビット】の戦闘力300なので差分ダメージ200が発生し、生命力200は消えてなくなる。
――はずだと思ったが、【グラスラビット】は健気にも立ち上がり、戦う気力を失っていないことを示した。
「ボスだからか、強化が入っている」
リッカがうさぎを見ながら呟いた。
僕も【グラスラビット】を凝視して、
名称と戦闘力、行動力は明らかになっていたが、生命力の項目だけ『???』と数値が隠されていた。
「情報秘匿……いや、隠匿か。ボスの能力は強化が入っていて、何がどう強化されたかは自分たちで暴いていかなきゃならないと」
「戦うのは毎回、未知のカードと考えたら、最高階層が半分以下なのも……分かる?」
「階層を移動することでどれほど敵が強くなっていくのか、によるがな」
倒しきれなかったうさぎが反戦の仕草を取る。
そこに飛び込む影が一つ。
「
一歩遅れさせて【グラスラビット】の
天敵たる狩人の一撃が、残りわずかな【グラスラビット】の生命力を削りきり、うさぎは「きゅぅ……」と鳴いて、ポリゴンへと還っていった。
【
【第一階層:Clear!!!】
問題なくボスを倒した二人に労いの言葉を掛ける間もなく、第二階層へ向かう扉がギギギと開いていく。
「あっ、扉が! 次に行こうっ」
「ぼんやりしてると置いていくわよ」
イクハとフルナは撃破の勢いで、早くも階段に足を掛けている。
「せっかちすぎる」
「全くだ」
僕らはまだサーヴァントすら出陣させていないというのに。
支援系のサーヴァントを呼び出してリソースを充当するところから始めなければならないな、と手札を見て思考する。
特殊能力も出陣などと同様、一階層に一回しか使えない。
交戦時のターン制バトルに移行しても、特殊能力の使用回数については引き継がれる。そうでないと、例えば【
まあ、特殊能力の使用に関してはダンジョン専用のアイテムカードで回数を増やせたりするので、そこまで深刻な問題ではない。カテゴリとしては
リッカがドロー
恐ろしい惨劇を尻目に、僕もサーヴァントを出陣させた。
小さな泉を手に持った妖精に、僕はパンケーキを差し出す。大丈夫、このパンケーキはどどめ色じゃないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます