第99話 おいでよゴブリンの森
ウルフ、コボルト、ゴブリンとそこらのRPGで出てきそうな雑魚がボス役に配置された低域階層を、イクハ&フルナが危なげなく抜けていく。
僕らは後ろをのんびりと付いていくだけで、あっという間に五階層へとたどり着いた。
気持ちばかりの強化で
哀悼の意を示している内にやられてしまったのが残念だ。
イクハもフルナも、四階層に上がるまでに許可された3マスの出陣権は全て行使している。これ以上のサーヴァントはマスに空きが出ないと新たに出陣はさせられない。
あとできるのは同名カードによる
カードが揃うのを待つしかないだろう。マスを埋めることを優先するようにお願いしたので、手札でカードが被ってしまったら申し訳ない。
僕とリッカもフル稼働している。
3マス全てでサーヴァントたちがドローと神秘力を生成中だ。
リッカはヤバそうな色のパンケーキとヤバそうな臭いの酒を呑ませて、特殊能力の水増し、階産六枚のドロー増加を行っていた。通常のドローと通算で、すでに二十五枚のカードを引いていることになるが、【シャルロッテ】はまだ来ない。
僕は二枚をドロー、一枚を神秘力の生産に回している。
マスは貴重だ、後々を考えるとサーヴァントを捧げて神秘力を確保、なんてことはしていられない。ということで、特殊能力『小さき泉の水』で毎ターン100点の神秘力をくれる【家の裏の泉の精】を置いてある。美味しそうなパンケーキを食べさせたおかげで、一階層につき、200点を供給してくれる。ありがたい。
また、日頃の行いが良いからか、キーカードがまだ来ないリッカと違って、とりあえず【
後半で引いてくるならそれはそれで。この調子だと、後半に入る前にデッキを引ききってしまいそうな気はするから問題はなかろう。逆に階層が五十もあることを考えれば、節制も必要なのか。
五階層の待機室でドローと準備を終えた僕らは、見た目の割には軽い重厚な扉を押し開ける。
「……雰囲気が変わったな?」
「キリのいい数字は難易度変化の予兆」
「そうなんだー。リッさんはよく知ってますね」
「常識だから」
「ゲームを作ってるのも人間、やるのも人間。人間はキリのいい数字が大好きだものね」
僕は雰囲気が変わったから気を付けろよ、という意図で発言したのだが。
女が三人集まれば姦しいとはよく言うが時と場合は関係ないらしい。
ワイワイと声を重ねる三人を横目に、部屋を見回した。
これまでとの違いに気付いたのは、リッカからありがたいゲーム業界の常識を聴講しているはずのイクハだった。
「そういえば、なんかインテリアが増えたね?」
「インテリア……?」
今にもぶっ壊れそうだった外見とは裏腹に、しっかり頑丈な石造りの塔にインテリアなんてあるのか。
「採光は数の少ない窓に頼ってたのに、壁際にキャンドルが吊られてるじゃない」
「言われてみれば」
あんまり気にしていなかったが、確かに壁際に沿っていくつもロウソクが設置されている。
いずれも膝の高さだから、下から灯りが来ていて雰囲気が変わったように見えたのだろう。
「変わったのは敵の編制もみたい」
「いきなり四枚か……一気に難易度が上がるようね」
扉前に陣取る
【リーダー】のように、『率いる者』の名称を持つカードがチームを組んでいると、どんな雑魚も全く違う性能になる。一兵卒は有能な引率者に使われることで、初めて能力を十全に発揮する。
下で倒したゴブリンと同じやつが三枚とそれより強いのが一枚、みたいな考えだと痛い目を見る。
「二人とも、倒せるか?」
「難易度が上がったと言っても、ランクマッチで戦う相手にいるからなー。へーきへーき!」
「と、イクハさんが言っているから。問題がありそうなら、参戦してもらえる? できるなら、ね」
フルナは僕らの陣容を流し見て、そう言った。
いや、まあ、問題がありそうでも二人になんとかしてもらうしかないのはそうなんだが。
全然
イクハとてスプリンガー・バトルフェスではTop16に食い込む実力を証明した。だから信じるのが正しいことだとは分かっているのだが……。
ここまで育ててきた子供が巣立っていく感覚とはこういうものなのか。
もちろんできるだろう、という実感はありつつも、もしかしたら……と一抹の不安が頭を過ぎる。心配のしすぎだと指摘されそう。
「来るよ、エルスお父さん」
「誰がお父さんだ!? 結婚もまだなのに!」
「したいなら、あたしがしようか?」
「したくてもできないの、法律的に! ほら、大丈夫なら行ってくれ!」
僕の思考を的確に察知してボケてくるリッカには恐れ入る。
対戦時に発揮されると手の内を全部知られているような気がしてかなり怖い。
大ボス戦を前に気が立っているのか、ギンと血走った剣呑な眼をしているイクハを前線に送り出す。フルナはその様子に息を吐き、背伸びしてポンと僕の肩を叩いて追っていく。なぜ肩を叩かれたのだろうか。
五階の守護者【ゴブリンズ】の内訳は【フォレストゴブリンリーダー】が一枚と【フォレストゴブリン】三枚。スターターに毛が生えた初心者のデッキに入りがちな編制だ。
なぜなら【ゴブリンリーダー】の
だが所持する特殊能力の性能は他の【リーダー】と同等。稀少度を考えたら、お得なカードと言える。
見た目があまり良くはないので、使われてはいるが人気があるとはお世辞にも評価できない悲しみのカードでもある。
ここまでで敵に掛かっている
ともかく【フォレストゴブリン】単体の性能は、戦闘力400に生命力が400に水増し、行動力2。草原のうさぎよりも遥かに強いカードだ。
【フォレストゴブリンリーダー】による特殊能力『戦士たちの統率者』で、行動力がさらにプラス1点され、並みのカードなら行動力3が刺さるだろう。
【ゴブリンリーダー】自体も戦闘力600、生命力が600とここまでではピカ一の基礎能力だ。
……などと持ち上げてはみたが、さすがに物足りない相手だった。
「ヤるよッ! 【デフォルメベアー】、
「負けていられないわね……! 【ブラウンオウル】に
戦闘力が倍以上に育ったクマさんと、デフォルメ仲間たちに行動力を削られる【ゴブリンズ】。クマさんの相手をしたゴブリンはワンパンで砕け散った。合掌。
『
なけなしの生命力で耐えきり、ようやく自分のターンだと立ち上がった【フォレストゴブリンリーダー】は急に口元を押さえ、倒れて動かなくなった。
猛毒は行動前にダメージの判定が発生する状態異常だ。発生したダメージに耐えきれなかったらしい。
心配したはいいが、僕が心配する以上に二人はきちんと育っていた。
さて、人のことを気にかけてばかりでもいけない。
難易度の上昇率的に、十階層はおそらく大丈夫。十五階層あたりから厳しくなると見た。
そこまでには仕上げなければならないとすれば……ドローを持ってきてくれた【シルキー】には申し訳ないが神秘力に変わってもらうとしよう。
ウチのメインアタッカーたちはとかく、入念な準備の時間が必要なのだ。
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