第100話 十五階層までやってきました
イクハとフルナの快進撃は、難しいかもしれないという予想に反して、二人は十階層の【ウィロートレント】の集団、十五階層の大ボス【グラナイトゴーレム】を倒すまでに至った。
フルナの【ブラウンオウル】がカカカッと鋭い爪さばきで行動力を削りきり、イクハの【DベアーSS】――2stackさせたクマさんがその剛腕を唸らせる。存在の格を二回も上げたクマさんはもはや子グマとはいえない大きさにまで成長していた。
軽自動車にも匹敵する重量の一撃を受け、身の丈五メートルにも及ぶ巨大な白っぽい
「っはぁ……! 倒せたぁ……!」
詰めていた息を吐き、イクハが額に流れる汗を拭う。
満身創痍……とまではいかないが、ここまでで精神的にもかなりの消耗を強いられたことは間違いない。
十四階層まではサーヴァントの強さよりも、数に頼んだ物量戦を仕掛けられていた。
先の大ボス戦、十階層の【ウィロートレント】戦では八枚もの相手が出てきたのだ。
さすがに僕も参戦すべきかと思ったが、ダンジョンでの戦いに慣れ始めていた二人が手早く三枚を処理して、残りの五枚をライフで受ける巧みさを見せた。
十五階層の【グラナイトゴーレム】は一転、『強力な単体』に方針転換されていた。
突然の戦闘力1500に泡を食ったのは前衛の二人だけではない。後ろにいた僕らもだ。
僕はメインアタッカーになれるカード【まつろわぬ妖精:“
前衛の二人に対処しきれない敵が出てきた時には、“夜明け”を率いて参戦するつもりだったが、【グラナイトゴーレム】は【
【
出陣させてから後回しにすると、「話を聞く時間を作ってあげているんだからさっさと言いなさいよ!」とツンケンしながらもチラチラこちらの様子を窺ってくるのが可愛らしい。つい後回しにしてしまう。
きっちり育ちきれば【
特殊能力をかさ増しする食料品のほとんどは、実のところ、制限が存在する。
戦闘力100以下のカードにしか食べさせることができないという、ほとんど戦闘に関わらない支援系のカード限定だと言われているに等しい制限が掛かっている。……プレイヤーの戦闘力が200だからだろうか?
他の特殊能力回復手段もあるのだが、ちょっとばかりレアリティが高く、
五階層から数えて、すでに十一回の特殊能力たる『
戦闘力は300から1350まで伸び、行動力にいたっては2から9へと
【
溢れる行動力で完封する未来を妄想できるが、仮に1500に殴られたら150のダメージが通ることを忘れてはいけない。
九回殴られたら、力を失って捨て札行きになるということだ。
まだ三十階層以上も先があるのに、こんなところでメインアタッカーに傷を負いたくはなかった。行動力的にダメージを負うことはないと思うが……。
だから【グラナイトゴーレム】を倒しきった二人には思わず拍手を贈ってしまった。
「二人ともやるじゃないか、驚いた」
「複数で出てきたら危なかったわ。強化ボーナスが行動力に付いてたから……」
着物の袖を整えて、フルナは何でもなかったかのようにそう応える。でも口元が嬉しそうにひくりと動いていた。
「あの巨体で行動力6は反則だよ……。どうやって動くんだろうね?」
イクハの言う通り、敵には反則みたいな強化が入っていた。
【ゴーレム】のような重量級のサーヴァントは鈍重なイメージからか、行動力が少ない代わりに一撃が重いカードをよく見られる。
それを補う『行動力6』の強化はやりすぎだ。
こちらも四人だから「単体なら行動力は6ぐらいないと相手にならないっしょ」みたいに雑な強化は本当にやめてほしい。
強化は階層ごとに切り替わるのではなく、普通に重複している。
五階層の『生命力プラス100点』、十階層では『戦闘力プラス100点』が追加され、そこに来て突然の『行動力6』は意表を突かれすぎた。『行動力プラス5点』かもしれないが。
問題は今後も『行動力6』の強化が全ての相手に入ることだ。
順当に考えれば、以降の階層は【グラナイトゴーレム】クラスの敵が数を増やしていくのだと思われる。
二十五階層では単体に戻って、さらに強力なサーヴァントが出てくる可能性が高し。
最高到達階層が二十三なのは、その辺りで物量に耐えられなくなったのかもしれない。毎回全力戦闘をしていたらリソースは早々に無くなってしまう。
『行動力6』はプレイヤーのキーカード、切り札でも簡単に出せない数値だ。
【
次の階層からは僕が前に出ることとしよう。
前衛の二人はメインに使っているカードを上手く守っているが、その横を守るサーヴァントは何枚も失っているし、僕らと違ってドロー
二人の実力はよく分かった。ランクマッチならすぐに『三つ星』へと上がってくるだけの実力がある。僕も頑張って、もっと先で二人を待っておきたいところだ。
僕がここまで前に出ていなかったのは【
そして僕と同様に後衛に甘んじていたリッカが戦闘に参加しなかったのは別の理由がある。
十四階層までにリッカがドローしてきたカードは合計で九十七枚。十五階層に移動してきた時点で二枚ドローして、九十九枚。
プレイヤーに許されたデッキの枚数は最大で百枚となっている。
その最大枚数でデッキを構成したのが仇となった。
リッカ待望のカード【忘れられた人形:シャルロッテ】は、デッキの最奥、百枚目に眠っていたのである。
「やっと来た……」
山となった手札を片手に、また別の意味で疲れたようにリッカは息を吐いた。
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